第1030話 大型の魔物討伐演習開始



 穴を掘るユノは、手を止めずに質問する俺に答える。


「私が隠れるの。標的がリクだって言っても、近くにいたらこちらに流れ弾が来てもおかしくないの。リクから少し離れて穴の中にいれば、問題ないの」

「まぁ、対処できるにしてもユノは基本的に戦わない事になっているから、それでいいのかもね。でも、流れ弾って……」


 銃を打ち合うわけじゃないんだから、流れ弾なんて……いや、弓矢とかも使うかもしれないし、間違っていないのかな? その場合は、流れ矢なのかもしれないけど。

 さらにユノは、木剣を幾つか堀った穴の中に放り込んだりしている……状況によって、俺に木剣を渡すためだろう、いちいち穴から出て積まれた木剣を取りに出るのは手間だろうからな。

 大体七、八メートルくらい離れた場所に穴を掘っているので、俺が加減を間違えた時の静止が間に合うか不安だけど、声は届く。

 掘った穴に木剣と一緒に入り、顔だけ出しているユノは、傍観者になる気満々だけど……仕方ない。


「お、そろそろかな?」

「アマリーラが出てきたの!」

「開始の合図をするって言っていたから、そのためだろうね。でも、真ん中に来たら危なそうだけど……標的にはならないだろうし、アマリーラさんなら大丈夫か」


 兵士達と俺が向かい合っている場所の、ちょうど中央あたりに、アマリーラさんが進み出た。

 模擬戦の時に審判をしてくれたみたいに、演習開始の合図をするためらしい。

 場所的には一番危険だけど、お互い示し合わせた演習だし、合図をした後すぐに退避すれば怪我をする事もなさそうだ。

 ちなみに、シュットラウルさんは北側に椅子とテーブルを用意して、観客になっている……演習に参加しない兵士さんを三人程控えさせていた。

 そうして、アマリーラさんが登場してから体感で一分程……静まり返った周囲を見渡したアマリーラさんが、全員の準備完了を確認して両手を空に上げた。


「これより、大型の魔物討伐を想定した演習を開始する! 各自全力を尽くせっ!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」

「お、おー!」

「おぉー、なの!」


 周囲に響き渡るように、大きな声で叫んで檄を飛ばすアマリーラさん……ほぼ兵士さん達に対する鼓舞のような感じだ。

 それに応えるように、一塊になっている兵士さん達が威勢のいい声を張り上げる……向こうの士気は高そうだなぁ。

 俺も同じように、なんとなく大きめの声を出し、穴の中からユノも楽しそうな声を上げた。

 ……本当に俺に必要だからで、ユノが楽しむための演習じゃないんだよね?


「サウンドライト!!」


 雄叫びにも聞こえる兵士さん達の声が止んだのを見計らい、アマリーラさんが魔法を発動。

 空へ向けた両手から光の球が打ちあがり、十メートルくらい上がった辺りでドーンッ! という破裂音を響かせて消える。

 こんな時に考える事じゃないけど、失敗した花火魔法の参考にできそうだ……。

 魔法を放った直後、アマリーラさんはシュットラウルさんがいる北側に走る。


「各自戦闘開始! 敵は英雄リク様だ! 大型の魔物討伐を想定しているが、それ以上だと肝に銘じろっ!!」

「「「「はっ!!」」」」


 音が止むと、兵士さん達の方で総大将役の大隊長さんが鼓舞するように声を張り上げる。

 その声を聞きながら、位置に着いた時から発動している探知魔法に意識を向ける。

 ……ふむふむ、横並びに何列も作っているだけでなく、中央と左右で人数の配分を変えているみたいだ。

 左側が一番多くて、右側がその次に多い……総大将さんがいる中央が一番少ないから、もし俺が突撃した場合、左右から挟撃するつもりなのかもしれない。


 その他にも、細かく人の多い場所少ない場所があったりする。

 多分、俺がどう動いても対処しやすいようにとか、攻めやすさや守りやすさを考えてなんだろう。

 単純に、全員が一斉に突撃するだけではなさそうだ……そろそろアマリーラさんが、シュットラウルさんの所に到着するので、そちらにも気を使ったて突撃しないのかもしれないけど。


「ん? あっちの人が少ない方と、逆端で魔力の反応が……?」


 さすがに人数が多過ぎて全ての人がどうしているのかまではわからないため、大まかに様子を窺っていたら、向かって右側の人が少ない方で魔力の反応が大きくなった。

 それと同時、左側の端の方でも同じように魔力反応。

 魔法を使う準備をしているから、目に見えない程でも魔力が外に出ているんだろう。


「左翼、全力で放てっ! 左翼の魔法放出後、右翼端も放て!!」

「「「「はっ! エクスプロージョンアロー!!」」」」


 総大将さんの号令で、俺から見て右側……向こうからすると左翼と呼ばれた方から、一斉に魔法が放たれる。

 赤く細い魔法の矢が、数十……いや百に届きそうな数が、放物線を描くようにして俺へと殺到する。

 エクスプロージョンって事は、矢の形をしているけどエクスブロジオンオーガみたいに、爆発するって事か……ちょっと厄介だ。

 さて、どうするか……と思考を巡らせた次の瞬間、今度は右翼側から声が上がる。


「「「続いてこちらもだ! エアーラフ!!」」」


 エアーって事は、風の魔法か!

 右からは爆発の矢、左からは遅れて風……しかも俺一人相手だっていうのに、数が多い!

 探知魔法で、ユノが穴の中に頭を引っ込めたのを感じながら、防御のために結界を発動。

 何も制限がなければ、自分を覆うか周囲の広範囲に結界を張って防ぐんだけど、今回は一メートルくらいの大きさしか作ってはいけない事になっている。


「結界! 頼むぞ、探知魔法……!」


 とりあえず、矢が顔に直撃するのは嫌なので、上半身の前に結界を発動。

 そのうえで探知魔法に集中して、飛来する爆発の矢の情報を集める。

 さすがに、探知魔法では魔力の大きさとか質がわかるくらいで、影響範囲や威力なんかはわからない。

 だけど集中すれば、一つ一つの矢の魔力を感じ取る事ができる。


「よし……全てじゃないけど、少しはわかるな……よっ、ほっ、はっ、っと!」


 探知魔法で調べた爆発の矢の隙間を縫うようにして、直撃しないよう避ける。

 号令により、一斉に魔法を放ったようであっても、発動までの時間に個人差があったり、爆発の矢がお互いにぶつからないようにしなければいけないので、隙間ができてしまう。

 まぁ、大きな隙間じゃないし、そもそも人間一人に向かてやる事じゃないので、隙間を使って避けられる事は想定していなくて当然なんだろうけど。

 ともかく、探知魔法に集中し、隙間を調べて体を滑り込ませるようにし、避け続ける。


 俺の周辺では、地面に着弾した爆発の矢が小規模の爆発を起こして、土を巻き上げていた。

 一つ一つは小威力、小規模で、クラウリアさんの部下がヘルサルで使った爆破の魔法より弱いけど、数が多い。

 ドドドドドド!! という爆発する音が連続で響き続け、他の音が何も聞こえなくなってしまう程だ……でも、俺には探知魔法がある。

 土埃が巻き上がって視界が悪くなっても、なんとか爆発の矢の隙間を感知できた――。



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