第1029話 演習レギュレーション



 演習ではユノがほぼ戦わないだけなく、ヤバそうな時は止めたり注意するらしいけど……一対五百より、難易度が上がってしまっている気がする。

 いやまぁ、人間相手に加減せずに戦うわけにはいかないし、そもそも本当の敵じゃないから命を取るまではしたくない。

 そう考えると、ユノがしっかり止めてくれたり、注意してくれるのならやりやすい……のか?

 でも、加減できるかどうかの心配はなくなるかもしれないけど、俺に対する心配がほとんどないような……。


「とにかくやるの。リクには絶対必要なの!」

「……ユノがそうまで言うなら、やるしかないか。はぁ……わかりました、シュットラウルさん。演習、参加しますよ」


 ユノがやる気満々、というか必要だと主張するので、溜め息を吐きながらも参加する事を承諾。

 ここまで言うのだから、俺にとって本当に必要な事なんだろうなぁ。

 ……ユノが目を輝かせていたり、楽しい事を期待するようなワクワクとした雰囲気を醸し出しているのは、きっと俺の見間違いだ。


「ありがたい。――では、リク殿とユノ殿に対し、兵士諸君は全力で挑め! わかっていると思うが、こちらからの加減は一切いらない!」

「「「はっ!!」」」


 いや、少しは加減して欲しいんですけど……兵士さん達のための演習でもあるから、加減したら意味がないんだろうけどね。

 シュットラウルさんの言葉を聞き、敬礼した隊長さん達がそれぞれ、集まっていた横幕を出て行く。

 それぞれ、演習について外にいる兵士さん達に伝達へ行ったんだろう。

 残ったのは、俺とユノ、シュットラウルさんとアマリーラさん、それから大隊長さんと中隊長さん数名だ。


 残った人達で、演習の主な流れなどを決める。

 何をするかといった細かい事は、さすがに話し合ったりはしないけど、ある程度のレギュレーションみたいな物は大事だからね。

 話し合いで、演習は大型の魔物討伐という名目になった。

 俺は魔物じゃないとか、大型でもないと主張したけど、人間数名(実質一人)に対して五百人の兵士を投入するなんて本来はあり得ないので、その方がわかりやすいだろうと聞き入れてくれなかった。


 他の流れ……というかルールは、俺が魔法を使う事の禁止や、木剣を使用する事などなど、ほとんど俺に対する規制ばかりだった。

 そりゃ、兵士さん達は加減せずに全力でやるつもりだから、そうなるか。

 ちなみに魔法禁止は、魔法を使う事そのものの禁止ではなく、一部だけは許可される。

 大体一メートル四方の、大き目な盾くらいの結界と、探知魔法だ……全身を包んで絶対的な防御にしないためと、探知魔法は兵士達の動きを俺が探るためだ。


 攻撃性がないのも、使用できる理由だとか。

 その他に、さすがに俺が疲労や怪我で行動不能になれば、その時点で演習は終了、その判断はユノが下すというので微妙に不安はあるけど、無茶はし過ぎないようにしてくれると信じたい。

 兵士さん達の方では、模擬戦同様に武器を落とす、怪我をする、弾き飛ばされるなどで再起不能扱いとなり、戦線離脱する。

 怪我の治療や休んだ後に、再び復帰する事は禁止だ……加減して戦う以上、許可するといつまでも終わらないからね。


 最後に、行動可能な兵士が百名以下、もしくは小隊長達が再機能になったら終了。

 大隊長が兵士側の総大将になるらしいけど、その大隊長を再起不能にさせても終了だ。

 手っ取り早く終わらせるなら、さっさと突っ込んで大隊長だけを倒せば終了にできるけど……さすがにそう簡単に行くとは思えないし、そもそもそれじゃ演習する意味がなくなるから、やらないように言われた。

 ……言われなくても、しようとは思っていなかったんだけど。


 その他、ある程度の流れが決まって、話し合いは終了。

 兵士さん達の準備が終了次第、それぞれの陣地的な場所……運動場で東西に分かれて向かい合うだけだけど、そちらに行って開始される。


「はぁ……なんでこんな事に……」

「リクならできるの。兵士達を蹴散らしてやるの!」

「いや、できるできないじゃなくて……ここまでするとは思っていなかったからなぁ。やり過ぎないよう気を付けよう」

「そこは、私が見ておくの」

「リク様、間に合わせで申し訳ありませんが、木剣を集めさせました」

「ありがとうございます、アマリーラさん」


 溜め息を吐きつつユノと話す俺に、アマリーラさんが複数の木剣を持ってきてくれた。

 今回、俺の武器は模擬戦と同じく木剣だけど、さすがに一つだけだと耐久性の問題で継戦できないので、ユノが管理と俺の周囲に置かれる事になっている。

 そういえば、木剣が全て使えなくなっても、俺が敗北とみなされるルールもあったっけ……その代わり、兵士さん達は故意に、俺が持っていない木剣を標的にしてはいけない。

 まぁ、俺が持っている木剣は狙っていいんだから、武器破壊を目的に攻撃をし続ければ良かったりもするんだけどね……敵の無力化の訓練にもなるらしい、本当かな?


「さすがに、リク様が模擬戦でも使ったので数が少なく……長剣タイプの木剣を、兵士に削らせて近い大きさに変えさせました。耐久性が少々心配ですが……」

「助かります。数があれば多分なんとかなると思うので……うん、大丈夫そうです」


 俺が使う木剣は、模擬戦の時と同じく扱い慣れているバスタードソードと同じ大きさの物。

 ロングソードやショートソードだと、慣れていないから加減が難しいからね。

 削った木剣を一本受け取って、軽く振って確認……重さとかが少し違う感じがするけど、大きさが近いので大丈夫そうだ。


「リク殿、兵士達は模擬戦では敵わなかったが、集団戦ならと考えて意気を上げているようだ。まぁ、軍というのは個人よりも集団で行動するのだから、間違ってはいないのだがな」

「模擬戦の後半は、諦めていた人もいましたから、意気が上がっているならそれで。……あれ? 俺からすると消沈している方がやりやすいのかな?」


 向かって来られる俺は、意気消沈していた方がやりやすくなるんだろうけど、さすがに演習としては意義が失われそうだからなぁ。

 変な事は考えずに、演習に備えよう――。



 準備が完了し、センテがある西側に兵士さん達、向かう東側に俺とユノが配置につく。

 俺の周囲、というか後ろにはアマリーラさんが用意してくた木剣が、重ねて積まれている。


「整列しているのを近くで見ても壮観だったけど、こうして見るとなおさら凄い眺めだなぁ……」


 なぜか木の板を使ってせっせと、穴を掘っているユノを余所に、叫べば声が届くくらいの距離にいる兵士さん達を眺める。

 ルジナウムの魔物達程じゃないけど、横に広がって密集している兵士さん達は見ごたえがある。

 まぁ、魔物とは違って特別大きな固体がいない分、密集度は兵士さん達の方が高いし、広がりは狭い。

 あれが一斉に突撃してきたら、押しつぶされてしまいそうだ……向こうの目標は俺だし、こちらも抵抗はするので簡単に押しつぶされたりはしないだろうけどね。


「それでユノ、どうして穴なんて掘っているんだ?」


 いい加減気になったので、兵士さん達の方から目を離し、穴を掘り続けるユノに聞いてみた――。



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