第1010話 結界の欠点と思いついた事
「もし作物に関して相談があるなら、エルフの村に連絡をして下さればと。魔法に関する事以外にも、植物に対しての造詣が深いので何か力になれると思います」
「そういえば、エルフのいる集落が村と認められたと、通達があったな。ありがたい、その際には是非力になってもらおう。エルフは長寿であり、森と共に生きてきた種族……作物に関する知識の蓄積も人間より多く深いのだろうな」
植物と意識を通わせるというか、なんとなく感覚を共有するような事も、エルフはできるみたいだからね。
シュットラウルさんが言うように、長寿だからこその知識の蓄積だってあるだろうし、魔法の事以外でも協力し合えるのなら、それはいい事だ。
「では、二人に感謝しながら、センテへ戻るとするか……」
「あ、それなんですけど、まだ戻るまでに余裕はありますよね?」
「ふむ? まぁ、まだ日も傾いてはおらんし、余裕はあるな。何かあるのか、リク殿?」
空を見上げて、日の位置を確認しながら頷くシュットラウルさん。
俺を見る視線には、疑問というよりも何か期待するような雰囲気が漂っている気がするのは、気のせいだろうか……。
「ヒミズデマモグと戦った時、よくよく考えたら結界にも欠点があるなって気付いたんです」
「結界に欠点?」
「そんなものあるの、リク? あれ、武器で叩いても魔法を使っても、そこらの人や魔物がどうにかできる代物じゃないんだけど……」
ヒミズデマモグを発見した時、探知魔法が地中深くにまでは及ばない事から、結界の欠点にも気付いていた。
早い話が、結界を地中に発生させられない……という欠点だ。
まぁ、無理をすればやれるんだろうけど、そのためのイメージも大変だし、そもそも土で埋まっている場所に結界という、不可視だけど確かにそこに物質化した何かを発生させる、なんて色々不都合な事が起こってしまうだろうから。
巨大は板を、無理矢理に埋め込むようなもの……かな? 違うかな? よくわからないけど、とにかくだ。
「地中だよ、フィリーナ。結界って目には見えないけど触れるでしょ? だから何もない場所には問題なく張れるんだけど、さすがに地中にはできないんだ。まぁ、無理をすればできると思うけど……ちょっとどころじゃなく大変そうだから」
「地中……でも、土の中になんて結界を張らなくてもいいんじゃない? そんな場所を通って来る事なんて、普通はできないし……」
「そういえば、フィリーナに入っていなかったね。さっきの事なんだけど……」
地中には簡単に結界を張れない、という事を伝えつつ、そういえばさっきヒミズデマモグと遭遇した事を話していなかったのを思い出して、そちらも話す。
フィリーナが戻って来てからは、クォンツァイタの話ばかりだったからね。
俺じゃなくシュットラウルさんと話していたけど。
「ヒミズデマモグ……地中を移動する魔物ね。そんな魔物がいたのね……」
「確かにヒミズデマモグは、地中を移動する。しかも土の中にいながら、驚くべき移動速度らしい。それは遭遇して討伐したリク殿が、一番よくわかっているだろうが……それでも欠点とは言えないのではないか?」
フィリーナはヒミズデマモグの事を知らなかったらしく、話を聞きながら口に手を当て、考え込んでいる。
シュットラウルさんの方は、アマリーラさん達と同じく実際に見た事はなくても、その特性みたいな部分は知っているみたいだ。
確かに、欠点と大袈裟に言う程ではないけど……地中までカバーできるような、万能で完璧な防護柵とはなり得ないのは間違いないんだよね。
「アマリーラさんの話でも、人間が歩くよりも速く地中を移動するみたいでしたね」
ヒミズデマモグが、俺達に襲い掛かって来ていたから地中の移動速度に関しては、あまり実感はなかった。
だけど、飛び出す時の速度を考えれば、歩く速度どころか軽く走るくらいの速度で地中を移動できるんだと思う。
気付いたら、想像以上に場所移動していた……なんて事だってあるだろうね。
だから、ヒミズデマモグが逃げないよう作った、土壁と同じ物を結界の境目にある地中に作って見ようかなって。
「まぁヒミズデマモグの移動速度はともかく、地中を移動する生物……魔物に対して無防備なのは間違いないんです。そんな魔物が数多くいるとまでは思いませんけど、それでも無警戒よりは、ちゃんと対処しておいた方がいいかなと思いまして」
「うぅむ……確かに、警戒しようとしてできるものでもない場所だからな。気付いたら、ヒミズデマモグのような魔物が入り込んでいた……という事も考えられるか。希少な例だとは思うが、絶対にないとは言い切れん」
「はい。兵士さん達ならある程度戦う事ができても、この農地にいるのは作物を育てる農家の人達です。急に魔物が地中から飛び出してきたら、何する事ができないかと。作物には確実に被害が出ますし、場合によっては人にも……」
「まぁ、そうよね。土に植えた植物は、確実に掘り起こされてしまうし、それで駄目になる作物もあるでしょう」
「人が襲われ、兵士の対処が遅れれば、人的被害も広がるか……悪い方に考えるとだが」
可能性としては低いし、これまでもヒミズデマモグがいるとされる場所以外では、大した被害も出ていないんだろうけど、それでも対処できるならしておいた方がいいと考えた。
それこそ、地下に施設を作っていた帝国の組織とか、何をして来るかわからないし……知らないうちに地下通路を作られて、内部からなんて事だって考えられるからね。
まぁ、農地一つを目標にするよりは、街や村を目標にするんだろうけど。
「なので、完璧とは言えませんが、一応それなりの処置はしておこうかなと思うんです。早い話が、結界に変わる物を地中に作って、ヒミズデマモグのような魔物を拒むようにしようかなと。……あまり深くまではできませんけど」
「深くまでできないとは、どれくらいなのだ?」
「そうですね……」
ヒミズデマモグと戦った時は、大体十メートルくらいの深さの土壁を作った。
多分、しっかりイメージして一気に作ろうとしなければ、二十メートル近くはできるんじゃないかな?
そう思って、シュットラウルさんに伝えた。
「それなら、何者も地中から侵入する事はできんな。ヒミズデマモグは確か、深くとも……」
納得するシュットラウルさんは、聞いた範囲でヒミズデマモグがどれだけ深く潜るかを教えてくれた。
その深さ、大体五から六メートルくらいらしい……二十メートルは、深過ぎかな?
でも、ヒミズデマモグ以外の事も考えたら、これくらいあった方が安心だろう。
「リク、地中に何かを作るというのはわかったわ。けど、それを維持するための魔力はどうするの? クォンツァイタの魔力を使う事はできるけど、今の物は結界と繋げちゃったし……別に用意したり、場合によってはちょっと面倒な事になるわ」
フィリーナが難しい表情で、言ってくる。
別にクォンツァイタを用意するのは、安置してある物は結界用だからだろう。
でも、面倒な事ってなんだろう?
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