第1011話 異常な程硬い土の球



「フィリーナ、面倒な事って?」


 クォンツァイタを結界とは別に繋げると何が問題なのか、フィリーナに聞いてみる。

 なんでも結界と地中に作った壁とで、魔力が渦巻く可能性があるのだとか。

 繋げてはいても、距離が近いため行き場を失う魔力が多く発生し、それらが自然の魔力になるまでにも時間がかかるらしい。

 場合によっては、魔力溜まりになる可能性だってあると言われた。


「リクの魔法を維持するのだから、生半可な魔力量じゃないのでしょうね。魔力溜まりになってしまう可能性は高いと思うわよ?」

「それは確かに面倒だね。でも大丈夫、地中に作るのは魔力を補充して維持しなくてもいいから」


 土を固めて作ってしまえば、魔力を補充して維持する必要はない。

 結界と違って、老朽化はする可能性はあるけど……家に使う土壁よりは長く保つはずだ、多分。

 今回はとりあえずの思いつきだし、耐久性のテストとかは時間のある時にやらないとね。


「維持しなくても良い物を地中に、だと? 結界ではなかったのだったな……だが、どうやってそんな物を魔法で作るのだ?」

「地中の土をそのまま使って、固めて硬くして……少なくとも、ヒミズデマモグが勢いよくぶつかっても、ビクともしない強度の物が作れます」

「土を固めて……もしかして、ヘルサルの時に作ったあれ?」


 フィリーナはヘルサルの時にみていたっけ……魔力溜まりの中で魔法を使わない方がいいから、離れた場所から魔力を伝わせるために、土の棒を作っただけだけども。

 でもあれ、そういえば結界並みに強度があったような感触だった……実際の強度を試してはいないけど、武器で傷付けようとしても簡単には跡すらつかないくらいだったっけ。


「あの硬さの物を、今度は板状にして地中深くまで作りつつ、結界と同じように農地を覆ってみればと思うんだ」

「あれなら、確かに魔物が入り込むどころか、誰かが掘ろうとしても掘れないわね……それに、確かに土を固めただけだから、魔力による維持も必要ないかぁ」

「リク殿、その土を固めた物と言うのはなんなのだ? フィリーナ殿は知っているようだが……」

「そうですね、口で言うより見てもらった方が早いと思いますから……」


 そう言って、訝し気にしているシュットラウルさんの前で、足下の土に魔法を使って固めた。

 ソフトボールくらいの大きさの、丸い球をイメージするくらいで、特に集中は必要なかった。

 ただ、足下の土が一メートル四方、深さも一メートルくらい掘られてしまったけど……土を凝縮して固めるんだから、見た目の大きさよりも土を使うのは当然か。

 先に試しにやっておいて良かった。


「むぅ……土だというのは、見た目からも触ってみた感触からもわかるのだが……確かに硬いな。リク殿、色々試してみても良いか?」

「はい、どうぞ自由にしてください。試しに作っただけですから」

「わかった。――アマリーラ」

「はっ!」


 土で作られた、ソフトボールのような球を持ち、叩いてみたりしているシュットラウルさん。

 見せるためだけに作った物なので、他に用途はないし自由にしていいと、シュットラウルさんに頷くと、アマリーラさんを呼んで試し始めた。

 まず最初に、地面に向かって思いっ切り投げて叩きつけている……一切の欠けも傷もなく、むしろ地面にめり込んだ。

 アマリーラさん、本当に力が強いんだなぁ。


 その後、地面に置いて武器で斬りかかってみたり、槍の柄をバットのようにして撃ってみたり……。

 力自慢らしいアマリーラさんが、全力で土ボールに対して攻撃していたけど、欠けたりする事は一切なかった……一応、薄い傷跡くらいは付いたけどね。

 むしろ、剣の刃の方が欠けそうだったので、さすがに刃物で試すのは途中でやめていたけど。


「はぁ……はぁ……これを壊すのは、無理です。力には、自信があったのに……」

「アマリーラ様は、壊すの得意なんですけどね~。大丈夫ですよ、リク様が特別なだけでアマリーラ様はこの通り、壊していますから」


 全力を出した証だろう、息を乱しながら断念するアマリーラさんは、項垂れていた。

 リネルトさんが、肩を優しくポンポンと叩きながら慰めているけど、壊すのが得意ってあんまり慰めになっていないような?

 確かに、リネルトさんが示した先では、地面に穴が開いていたり槍の柄が曲がって落ちていたりするけど……。

 槍の柄は、修理しないと使えなさそうだなぁ。


「リク殿が作った物だから、並大抵の事では壊れないと思っていたが……これほどとはな」

「ははは、俺もここまでとは考えていませんでした……」


 感心するように、一切欠けていない土ボールを見ながら唸るシュットラウルさん。

 落ち込んでいるアマリーラさんはともかく、俺自身もここまで硬い物になっているとは思っていなかった。

 少なくとも、武器を使って全力で撃ったりすれば、壊れはしないまでも欠けるくらいはするだろうなぁ、と思っていたんだけど。

 予想以上に硬い物ができていて、苦笑してしまう。


「魔力は……作ってすぐだからかしら、多少含まれているけれど結界程じゃないし、今も少しずつ薄れて行っている。それなのに強度を保っていられるのなら、確かに魔力の補充をする必要はなさそうね」


 フィリーナは、硬さとかよりも魔力の動きをその目で見ているみたいで、ブツブツと呟いていた。

 魔力で物質を作ったとかじゃなく、元々ある者を固めただけだし、一度作れば状態を維持させるのに魔力も必要ない。

 さっき話していたような、魔力を供給しなくても問題ないというのに納得してくれたみたいだ。


「一応、ヒミズデマモグがぶつかっても、壊れないのを確認しています。ぶつかった場面を直接見たわけじゃありませんけど……音もしたので、間違いないかと。それはアマリーラさんやリネルトさんも、聞いています」

「はい……何かが勢いよくぶつかったような音を、聞いています」

「あの時は~リク様が何をしているか、よくわからなかったんですけど~。でも、アマリーラ様も壊せないくらいの物だったんですね~」


 溝を覗き込んでいたわけじゃないから、はっきり見たわけじゃないけど、状況的にあの時あの音がしたという事は、ヒミズデマモグが逃げようとしてぶつかった、と考えて間違いないだろう。

 俺の言葉に、アマリーラさんは項垂れながら、リネルトさんはあの時の事を思い出しながら答えてくれる。


「つまり、この硬さを壁として地中に再現する事で、この農地は外敵から完全に守られるというわけか……」

「絶対というわけじゃないですけどね。さすがに、出入り口が用意されているので、そこから入られたらどうしようもありません」

「そこは、管理次第だな。徹底させよう。……しかし、これは今までなかった特別な農地になりそうだ……だが、これを全てではないにしろ、国内の多くの農地でやるのか。作物への被害が半減……いや、ほとんどなくなりそうだな」


 まぁでも、実際にはそこで作物を作ってくれる人が頑張ってくれないと、いい物は作れないからね。

 あくまで魔物とかからの被害を極力少なくして、温度管理で作る物の幅を広げたりしようってだけだから。

 管理できれば、作る側も脅威に晒されなくて安心だし、作物の収穫量も予想しやすいから便利なのは間違いないと思うけど――。


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