第1009話 調査依頼の協力者
「そうか……わかった。――アマリーラ、リネルト」
「はっ!」
「はい~」
目を閉じて頷き、数秒ほど考えるようにしたシュットラウルさんが、目を開いてアマリーラさん達を呼ぶ。
「お前達は、不届き者が邪魔をせぬようリク殿に付いておくように言っていたが、情報収集も行え。そして、独自に判断してリク殿に報告しろ。私を通す必要はない。それから……」
「はっ!」
「了解しました~」
「シュットラウル様、報告などは私が……」
「うむ」
宿でアマリーラさん達は警備をしてくれていたようだけど、そこへさらに情報を集めるのも追加するようシュットラウルさんから指示。
さらに、執事さんも加わって連絡を取り合うようだ。
アマリーラさん達が街の中で情報収集、執事さんはその情報の精査とシュットラウルさんへの報告役、また宿での俺の相談役として付いてくれるらしい。
「いいんですか、シュットラウルさん?」
「構わんよ。これまでの事から、リク殿が拘わる大きな問題には緊急性が問われるように思う。私を通していては迅速性に欠けるだろう。それに、もしセンテが危機に陥るような事があれば、私も動かねばならんからな。それならば、先に動いていても良いだろう。なに、調べておいて何もなければ、それでいい。無駄な労力とは思わない」
「ありがとうございます」
アマリーラさん達は、冒険者ギルドの依頼とは直接関係がないので、少し申し訳ない気がして聞いたけど、シュットラウルさんは問題ないと頷いてくれる。
チラリとアマリーラさんやリネルトさんを見たら、そちらでも頷いてくれていたから、気にしないでいいんだろう。
まだわかっている事が少なすぎて、本当は単なる偶然かもしれないのに、こうして先んじて動いてくれようとするのは国民や領民の事をよく考えているからなのかも。
「あら、リクの方が先に戻っていたのね。リクの事だから、変な事に巻き込まれて遅くなると思っていたのだけど……」
「あぁ、フィリーナ。……そんなに、いつも巻き込まれてばっかりじゃない、と思うんだけど。まぁ、魔物はいたんだけどね」
シュットラウルさんと話したり、お茶を飲んでのんびりしていたら、安置所のクォンツァイタを確認しに行っていたフィリーナが戻ってきたようだ。
後ろから声をかけられたのでそちらを見ると、少し驚いた様子のフィリーナがいた。
そんなに、俺って常に色んな事に巻き込まれたりしているかな? してないはずなんだけど……あんまり深く考えないでおこう。
「フィリーナ殿、クォンツァイタの方はどうであった?」
「はい、全て問題なく機能し、リクの張った結界に魔力を供給しています。放っておいても、一、二年程度は維持できるかと」
「ありがたい。では、あとは定期的に魔力を補充すれば、長く維持できるというわけだな?」
「えぇ。クォンツァイタに蓄積された魔力が、完全になくなってから補充しようとすると、魔法具化との関係で上手くいかないかもしれませんが……半年以上放っておいたりしない限りは大丈夫だと。ただ、一度に多くの魔力補充をするのは、リクでもない限り厳しいでしょう。そうですね……十日から二十日の間に一度、全箇所の魔力補充を行えればと」
「そうか、わかった。村の者や兵士達に協力させて、定期的に魔力補充をさせるとしよう。その役目は、魔法が使えない者でも問題ないのだな?」
「はい、ございません。魔力は生き物であればすべからく持っているもの。大小の差はありますが、一か所数人で当たれば不足はないでしょう」
「了解した」
シュットラウルさんが、クォンツァイタがどうだったのかを聞き、フィリーナが答える。
放っておいてもしばらくはもつけど、やっぱりヘルサルのガラスとは違って、魔力補充を定期的に行う必要があるようだ。
まぁ、作物を育てるのに魔力は必要ないから、村の人達や兵士さんが担当して余った魔力で補充してくれれば、結界も維持できる。
あと、クールフトやメタルワームにも魔力を注いで稼働させないといけないから、魔力を補充する作業にはすぐ慣れてくれるはず……特別な資質とかは必要なく、ただ触れて魔力を意識するだけでいいからね。
次善の一手みたいに、何かに魔力を這わせるとか感覚を養うのにちょっとだけ苦労するような、そんな事はない。
あとは、結界の境目などの確認が終わったら、この農地でのハウス化はほぼほぼ完了したと言えるだろう。
温度管理の経過はしばらく様子を見ないと、今日明日でわかるような事じゃないからね……一定の温度を維持できるかとか、結界の外よりも温度を高くしたり低くできるかどうかなど。
広く大きな農地だと、少し待つだけで体感できる程の変化はしないだろう……温度計とかないから、体感温度で調べていくしかないんだよね。
……手作りできる温度計とか、小学生の頃夏休みの自由研究でやっていた同級生がいたけど、どうやって作っていたっけなぁ……?
温度計の作り方を思い出そうとして上手くいかなかったり、シュットラウルさんとフィリーナの話を聞いているうちに時間が経つ。
伝令の兵士さんが執事さんに何かを伝えに来て、それをシュットラウルさんに報告。
ほとんど問題なく、結界は農地を覆うように作られていて、出入り口も馬などが通れる広さがあったようだ……結界を張った俺以外、見えないから実際に触れて回って確かめないと、確信が得られないのはちょっと不便なところだよなぁ。
それを補って余りある便利さでもあるけどね。
ちなみに、ほとんど問題ない中でもやっぱり俺が未熟なせいか、イメージがちゃんとできていなかったからか、問題がないわけじゃなかった。
覆っている結界が、予定されている場所から少しズレていたりとかだね。
これは、俺がしっかり農地の境目をイメージできていなかった事と、その場所を把握していなかったのが原因だろう。
まぁ、大きくズレていても一メートル程度の誤差らしいので、問題らしい問題でもないんだけど。
「リク殿、フィリーナ殿。この度の働き感謝する。これで、この地に根ざす者、作物を増やし国力を上げる事にも繋がるだろう。大々的に、被害をもたらす魔物を討伐したのとは違い地味ではあるが……大きな成果だ」
「はい。ただ、これから実際に作物を作るのは農家の皆さんです。俺達がやった事よりも、そちらの方が大変かもしれません」
「大変だが、皆やる気に満ちているようだ。報告では、リク殿が作った農地との認識が強く、国を守る英雄様に貢献を……と、やる気に満ちているようだぞ? まぁ、細かい事などは領主である私が見ておく必要があるだろうが、きっと実り豊かな地になると考えている」
フィリーナはともかく、俺がやったのってここに来て結界を張っただけだからね。
魔物の討伐とかもしたけど、それは冒険者なら当然の行いだし、訓練にもなったから特に労力を割いた気にはなっていない。
ともあれ、感謝は素直に受け止め、作物を作る人達の頑張りを応援する事にした――。
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