第1008話 シュットラウルさんの寛ぎ空間



 ヒミズデマモグ討伐後、中央棟に戻って来たら物凄く寛いでいる様子のシュットラウルさんがいた。

 この空間……空間と言うには遮るものもなく、見晴らしが良すぎるけどそれはともかく。

 この空間には執事さんやメイドさん、大きめの丸テーブルに真っ白なテーブルクロス、さらに香り高いお茶……貴族なんだなぁと実感できるほど、ハイソな空間になっていた。


 農地予定の場所で広がる空間として、相応しいのかは微妙だけど……というか、テーブルとか椅子とか、どこから持ってきたんだろう? 安置所を回っている時は持っていなかったはずだけど。

 そういえば、いつの間にか昼食時に用意されていた、テントなどの荷物もなくなっている。

 まぁ、ヒミズデマモグと戦っているうちに、用意したんだろうけどね。


「リク殿、改めて礼を言わせてもらう。アダンラダ、ヒミズデマモグと立て続けに魔物を討伐してくれて、感謝している。おかげで兵士に怪我もない」

「いえ、シュットラウルさんやアマリーラさん達も協力してくれましたから」

「……私達がいなくとも、リク殿だけで十分だったように思うが……その言葉は受け取っておこう」


 椅子に座り、執事さんが用意してくれたお茶を一口飲んだ後、シュットラウルさんから改めてお礼を言われる。

 でも、俺一人で全てをやったわけじゃないからなぁ……。


「とりあえず、予定していた農地の処置は終わって、後は確認を残すのみ。まぁ、作物を作るのはこれからだがな。結界の境目とやらもわかるようにしておかねばならん」

「そうですね……あとは、順次他の農地もハウス化していくだけです。今回の事で慣れたので、次からはもう少し早く終わらせられそうです」


 例えば、フィリーナがクォンツァイタの魔法具化をしている間に、俺が探知魔法を使って魔物がいたら討伐しておくとかかな。

 兵士さん達を先に結界を確認しやすい位置にいてもらったり、魔法具化そのものも早く済ませられたりとか……大きく時間が変わるかはともかく、今回よりも時間がかかる事はそうそうないと思う。

 何か問題があれば別だけど。


「では、センテ周辺の村と連絡を取り合って、リク殿が赴く農地を決めねばな。あと、兵士の訓練もだ」

「あ、それなんですけど……」


 訓練と聞いて思い出した。

 モニカさんやソフィー、ユノが今調べてくれているセンテ南での魔物発生について。

 任せっきりにはできないから、訓練やハウス化だけに集中するわけにはいかない。

 昨日のお風呂で話しておけば良かったんだけど、姉さんの話で長話しちゃったからね……あれ以上いたら、エルサだけでなく俺やシュットラウルさんものぼせてしまっていただろう。


「モニカさんやソフィーが、冒険者ギルドの依頼を受けているんです……」

「ふむ、そういえば今日、モニカ殿達は冒険者ギルドからの依頼のため、同行しないと言っていたな?」

「まぁ、農地のハウス化では直接やれる事もないからでもあるんですけど。俺もそちらに参加したいので、訓練にかかりきりになれそうにありません」

「リク殿が参加しなければいけない程の、依頼内容なのか? いや、元々訓練への参加もつきっきりでなくても良いとの条件だったのだ、それは構わないがな」


 出発前、見送りにきたモニカさん達が同行しない理由について、冒険者ギルドからの依頼とシュットラウルさん達には説明していた。

 調査依頼の内容とかは、シュットラウルさんになら大丈夫だろうけど、詳細の説明をする時間もなかったからね。


「いえ、まだどうなるかはわからない依頼内容です。調査の依頼なので、調べてみて大変な事がわかるかもしれませんし、大した事がないかもしれません。ただ、全部を任せておくというのも……俺も一応、冒険者ですから」

「成る程な。共に行動する仲間に任せるばかりではいかんか……了解した。できるだけ訓練に参加して欲しい、と思うのはこちらの考えだ。リク殿は自由に動いてくれて構わん」


 訓練の参加に関して調整してくれるのを、シュットラウルさんは快く頷いてくれた。

 苦笑はしているけど、渋ったりする様子はないのでありがたい。


「ありがとうございます。一度受けた後で調整をお願いしてしまって……」

「いや、気にする必要はない。しかし、調査の依頼か……という事は冒険者ギルドからの指名依頼だろう? 依頼内容を聞くのは、するべきではないのだろうが……」


 シュットラウルさんが気になるのは、調査依頼だからだろうか。

 調査をするのは、信頼されている冒険者パーティに限られる……基本的には指名依頼になるので、主にモニカさん達が調べてくれているけど、俺が受ける依頼がどんなものなのか気になるんだろう。

 依頼内容は本来、守秘義務が課せられて誰かに漏らすのは禁止されている。

 ただし、調査の依頼の場合調べるうえで情報を得るために、ある程度こちらから誰かに話をするのは認められていたりする。


 討伐依頼だと、他の人に横取りされたり利用されたり……色々とあるらしいけど、調査の場合は聞き込みが必要になる事もあるからね。

 こちらから何も話さないのに、情報提供だけを求めても上手くいかない事が多いから、という判断だ。

 まぁ、調査のやり方にもよるだろうけど……。

 とにかくシュットラウルさんが、聞きたそうにしながらも躊躇しているのは、それが原因だと思う。


「そうですね……依頼内容を全部は話せませんけど、センテの南がちょっと気になる事になっているようです」

「無理を言ってすまない。ふむ、センテの南か……もしや、魔物が多くなっている事か?」

「はい。シュットラウルさんも知っていましたか」

「センテに来てから報告された事だが、一応な。普段は国内や領内を見ている必要があるので、街一つ一つに起こった事などは、確実性が高い事柄しか報告されない。だが、滞在している街の事くらいはな」


 センテの南、というだけでおおよその事を察してくれたシュットラウルさん。

 どうやら、魔物が多くなり討伐しても数が減って行かない事を、既に知っていたようだ。

 ちらりと、近くで待機している執事さんやアマリーラさんを見たので、あの人達が調べた事なのかもね。


「珍しい魔物が発見されたり、冒険者に依頼を出して魔物の討伐をしても、数が減らないんだそうです。数そのものは、まだ大量と言う程ではないみたいですけど」

「らしいな。……リク殿と街近くの魔物か。いや、繋げて考えるのは失礼だろうし、リク殿は解決してきた側だが……他の街や王都で起こった事と、関係があると思うか?」

「いえ、それはまだ……ですけど、可能性はあるかもしれません。だからこそ、依頼を受けて調べて見ようと考えたんです」


 確かに、俺が行った先で魔物が大量に集まり、押し寄せてきているから繋げて考える事もできるんだろう。

 偶然なのは間違いないし、ルジナウムでは俺が行く前から魔物が集結していたからね。

 事を起こしている側が、俺のいる時を狙っているわけでもないはずだ……そもそも個人を狙うような規模じゃないし――。

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