第976話 貴族との話は緊張する事もある



「それじゃ、シュットラウルさん。また明日」


 大まかな予定を決め、話しも終わってソファーから立ち上がって挨拶。

 一応、明日の朝食後にセンテの東門で落ち合う事になっている……クォンツァイタなどは先に運び出すけど、シュットラウルさんが俺と一緒に北東の農地へ向かうためだ。

 新しい農地の視察と、俺が結界を張る所を見たいらしい、見てて面白い物じゃないと俺は思うんだけどね。


「うむ、よろしく頼む。あぁ、宿はもう決まっているのか?」

「いえ、これから探そうかと。一応、冒険者ギルドにも顔を出そうと思っていますし……」

「そうか。では、こちらで手配しよう。すぐに準備をさせて……そうだな、冒険者ギルドへ行くなら使いの者を行かせるから、その者について行けばいい」


 センテに来てすぐシュットラウルさんに会いに来たから、まだ宿とか決まってないんだけど、どうやら用意してくれるらしい。

 探す手間が省けるからありがたいね。


「わかりました、ありがとうございます。じゃあ、冒険者ギルドで待つようにします」

「うむ。リク殿は目立つから、使いの者もすぐにわかるだろう。声を掛けさせてもらう。あと、最後になってしまったな。クラウスから報告されたが、先日のヘルサルでの変事も尽力に感謝する」

「いえ、偶然居合わせただけですから……」


 先日の、というのはクラウリアさんが起こした爆破事件の事だろう……領主貴族なのだから、クラウスさんが報告するのも当然だね。

 そういえば、詳しく取り調べするために王城で引き渡したけど、クラウリアさんは元気だろうか? なんて、俺が心配する必要はないんだろうけど。

 ともあれ、シュットラウルさんからの感謝を受け取り、がっちりと握手して部屋を退室した。

 部屋の外では、庁舎の職員さんだろう人達が数人程待機しており、建物の外へ出るまでの案内ついでに色々と話しかけられた……まぁ、一人だけ申し訳なさそうにしている人がいたけど、俺がいいと言ったんだから、特に問題はない。



 庁舎の外に出て、両手を上にあげて伸びをする……シュットラウルさんと会ったり、職員さんに囲まれたりと、なんだかんだで緊張して体が固まっていたらしい。

 体がほぐれる感じがして、ちょっと気持ちいいね。


「……センテの代官がいたな」


 伸びをしている俺の横で、ソフィーが呟いた。


「え、そうなの?」

「あぁ。一人だけ、リクにずっと頭を下げ続けていた女性がいただろう?」

「うん、いたね。もしかして、それが?」

「あぁ。私も直接話した事はないが、センテにいた頃に見た事がある」


 確かに、俺が職員さん達に囲まれているのに対し、一人すまなさそうにして何度もペコペコと頭を下げている女性がいたけど……それがセンテの代官だったらしい。


「ルーゼンライハ侯爵との会談の場にいなかったから、他にやる事があったのかもしれないが……代官を罷免されていなければ、間違いないな」


 村はその村の中で村長が選出されて代表になる……大体は、一番知識が豊富だったり年齢が上だったりという事が多い。

 けど街は、多い人口や衛兵などの管理のため代官を置いている、というより、街になるための必須条件だとか。

 その代官の任命権は領主貴族に一任されているらしく、自由に変えられるらしい……とは言っても、気分などで簡単に変えていたら、街が混乱し発展しないためそうそうない事らしいけど。

 シュットラウルさんが簡単にそういった事をするような人には見えなかったし、代官らしき女性は他の職員から丁寧に接されていたり、責任感から頭を下げていたようにも感じるので、罷免はされていないだろうと思う。


 あの場にいなかったのは、単純にシュットラウルさんが一人で俺と会いたかったからかもしれない。

 それか、他に仕事があったのかもね……クラウスさんもそうだけど、代官って忙しそうだし。

 ハウス栽培の事や、シュットラウルさんが来ているのも含めて考えると、やる事はいっぱいありそうだ。


「それにしても、ちょっと疲れたわね。まぁ、私はほとんど話さずに、リクさんとフィネさんばかり話していたんだけど」

「まぁ、一介の冒険者が貴族様と面と向かって話す機会はそうそうないから、私もモニカと同様だな。最近は、陛下にしろ他の貴族にしろ、話す機会が多くて慣れ始めてはいるが……」

「私は、フランク子爵様の護衛をする事が多かったですから、ある程度は慣れているだけですよ」


 庁舎を離れ、冒険者ギルドに向かいながら話す、モニカさん達。

 確かに貴族と考えるとちょっと緊張しそうだし、実際俺もそれなりに緊張していたんだけど……慣れているフィネさんはともかく、モニカさんやソフィーは緊張であまり話せなかったらしい。

 シュットラウルさんは初めて会うわけだから仕方ないけど、貴族と言っても皆ちゃんと話せばちゃんと返してくれる人達ばかりだから、そんなに緊張しなくてもいいんだろうけどね。


「私は、緊張はそれなりだったけど、何か言えば話が逸れそうだったから黙っていたわ」

「フィリーナはまぁ……クォンツァイタの説明をした時も、シュットラウルさん、フィリーナを見て驚いていたようだから」


 フィリーナはエルフだから、そちら関係の話になる可能性が高かった。

 結局、俺との話に終始していたからエルフの話にはならなかったけど、途中もチラチラとフィリーナの事を聞きたそうに見ていたからね。

 多分、明日合流した時に聞かれるのかもしれないけど。


「おじさんと話すのに、緊張もないの」

「なのだわ。人間は不思議なのだわー」

「一応、事情を知らない人から見たら、ユノも人間の枠なんだけど……まぁ、ユノやエルサの言うように、あまり緊張ばかりしなくてもいいんだろうね。今日は初めてだったから仕方ないけど」

「リクさんの言う事はわかるけど、やっぱりどうしてもねぇ……」

「最近思うのだが、エルサやユノが暢気なのはリクがこうなのだからではないか?」

「いや、むしろユノやエルサがこうだから、俺もそっちに寄っているんだけど……」


 ユノやエルサはともかく、モニカさん達はやっぱり緊張してしまうようだ。

 ともあれ、俺がのんびり屋なのはある程度自覚しているけど、ユノやエルサの影響が大きいと思う……神様やドラゴンが、食い意地が張っているのを見るとね。

 ユノは遊んでいるような感じで、神様の世界は退屈みたいな事を言っていたから、観光気分なんだろう。

 エルサに関しては、キューのためならちょっと必死になってしまうけど、基本頭にくっ付いて寝ていたりしているからね。


「リクの真似なのー」

「ドラゴンは、生来のんびりしているのだわ。じゃないと悠久の時を生きられないのだわ」


 いやいや、ユノは俺の真似っていうより、出会った頃から暢気な感じだったと思うけど……。

 エルサはまぁ、この世界で長く過ごすうちにそうなったのかもしれないけどね……長く生きていると、辛い事だって多いだろうし、俺の勝手な想像だけど。

 生来って言っているから、辛い事を忘れるためにじゃなく、最初から長生きする事前提で暢気な性格だと思っておけばいいかな。



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