第977話 センテの冒険者ギルドへ
「はぁ……まぁ、ユノちゃんやエルサちゃんは特別だとして。リクさんはどうして緊張せずに、貴族とも話せるのかしら?」
「モニカさんも、クレメン子爵の所では普通に話していたと思うけど……」
「あれは、リクさんやエルサちゃんが話していたから、それに乗っただけよ。内心では緊張しっぱなしだったわ……」
「そ、そうなんだ」
「リクは誰が相手でも、気にせず話しているように見えるからな。私も冒険者だし、年が離れていても物怖じしないようにはしているが、さすがに貴族相手はな。まぁ、リクは基本的に丁寧な物腰で接しているから、見ていて不安はないんだが」
「そうですね。フランク子爵様も、初めてリク様と会った時の事を話してくれましたが、その時に大物だと言っていました」
フランクさんはそんな感想だったのか……初めて会った時は、コルネリウスさんの事を謝りに来たんだったっけ。
まぁ、物怖じしないというか、緊張はしているんだけどそれでもちゃんと話ができるのは、この世界に来るまでの経験があるからかもしれない。
一応名目上は、平等で身分差がない日本で生まれ育ったし、年上相手は姉さんと過ごしたおかげでもある。
あとは、一人になってからかな……。
両親がいなくなって、姉さんと二人でと思っていたら、姉さんもいなくなって……俺のせいなんだけど、その後は一人で色々やらなくちゃいけなかった。
大人と何度も話をしたりもしたし、その時の経験から、緊張はしてても表に出さないようにして話すようになったのかな、と今でこそ思う。
まぁ、自覚している部分もあるけど、やっぱり性格的にのんびりしているからってのもあるかもしれないけどね。
「リク、どうしたのだわ?」
「……なんでもないよ」
いけないいけない、昔の事を思い出してつい考え込んでしまった。
頭にくっ付いているエルサが、窺うように聞いてくるけど、苦笑してモフモフを撫でておいた。
今は、姉さんもそうだけどエルサやユノ、モニカさん達がいてくれて俺一人じゃないし、以前の事を思い出して寂しがる必要なんていない。
そう考えて、冒険者ギルドへ行く道すがら、皆と談笑した――。
「リク様、ようこそいらっしゃいました」
「……あれ? 前はこんなに丁寧な対応じゃなかったような?」
「何を仰いますか。最速、最年少でのAランク昇格。国からは最高勲章を授与され、英雄と呼ばれるリク様に対して、失礼な対応はできません」
「今まで通りというか、他の人達と同じでいいんですけど……」
冒険者ギルドに到着し、受付に話し掛けた途端、ギルド内は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
ギルド内にいた冒険者さんや、職員さん達が集まってきて、色々聞かれたりとか……まぁ、冒険者になってからセンテに来る事があんまりなかったから、皆慣れていなかったと思っておこう。
ヘルサルや王都のように、頻繁に顔をみせているわけではないからね。
そんなこんなで、騒ぎを聞きつけたギルドマスターが、職員をまとめて俺に集まっていた人達を離れさせ、奥に案内してもらって改めて挨拶……というわけだね。
ギルドマスターのベリエスさんは、細身で体を動かすような事よりも、事務職というか内勤が得意そうな人。
さっきギルド内で起こった騒ぎを収めた手腕を見るに、人をまとめたりする事も得意そうだ。
「それでリク様、本日はどのようなご用向きで当ギルドに? リク様は、王都を拠点としていると聞きましたが……いえ、先日ヘルサルでの変事も収めたのでしたか」
「特に用はないんですけど、センテに来る用があったので顔見せに。ヘルサルには何度か行っていますけど、こちらのギルドにはあまり顔を見せられず、すみません。……さっきの騒ぎもそうですが、ご迷惑でしたか?」
「いえそんな! リク様が来られるのに、迷惑などと思うわけがございません。それに、冒険者がどう活動するのかは本人達の自由ですから。もちろん、犯罪をともなれば話は別ですが、リク様がそのような事をなさるとは思いません」
「ははは、それは少し買いかぶり過ぎですよ。まぁ、犯罪をしようとは思いませんけど、わからない事も多いので、いけない事をしようとしたら遠慮せず注意して下さい」
俺がやる事だからって、犯罪を見逃されるような事はいけないからね。
特別扱い……は既にされている気がするけど、だからってなんでもやっていいわけじゃないし。
「心得ております。そうだリク様、ソフィーは冒険者としてどうでしょうか?」
「どう、と言われるとなんて答えればいいのか迷いますけど……ソフィーのおかげで色々助かっています。まだまだ冒険者になって日が浅いですから、ソフィーの知識があるのはありがたいです」
ベリエスさんは、以前会った時もソフィーの事を気にしていた、というか心配していたから、そこからの質問だろうと思う。
ソロでの活動が長くて、パーティを組もうとしていなかったからだったかな、確か。
まぁ、別に孤高の存在とか一人でいるのが好きというわけじゃないだろうから、魔物と戦う時に一人だと危険度が高い、とかそういう心配なんだろうけどね。
ソフィーは、俺やモニカさんよりも冒険者としての活動歴が長く、色々と足りない部分を補ってくれてとても助かっている。
俺とモニカさんの二人だけだったら、野営をするにしてもなんにしても、手間取ったりトラブルが起こったりしただろうから……
「それは良かった。パーティを組むかはともかく、たった一人でなんでもやろうとするのは、ギルドの支部を預かる者として心配してしまいますからな」
「ははは、まぁ、詳しくは本人から聞いてみたらいいんじゃないですか?」
「ギルドマスター、以前から気にかけてくれていたのは嬉しいが……少々心配し過ぎではないか?」
「いやいや、魔物に限らず常に一人で行動するというのは、あらゆる危険が伴うのだよ。一人でやれる事には、限りがあるからね」
「それはわかるし、リクとパーティを組んでからは実感もしているが……」
ホッとした様子のベリエスさんに、本人から直接聞いた方がいいと思い、ソフィーを促す。
まぁ、俺とベリエスさんの話を聞いていて、微妙な表情をしていたからなんだけど。
自分がいるのに直接ではなく、別の人から話を聞こうとされるのはなんというか、変な気分になるよね。
ギルドマスターだからなのか、冒険者の事に親身になるベリエスさんのソフィーを見る目は、優し気だ。
年齢差があるからだろうか? なんというか、父親と娘みたいな感じだね……まぁ、本当にそうではないし、なんとなくそういう感じがするってだけなんだけど。
ちょっと口うるさい親に対して、素直になれない娘……みたいな構図を、モニカさん達と楽しく見ながらベリエスさんとソフィーの会話を眺める。
特に話す用はなかったけど、ソフィーも迷惑そうにしながらも楽しそうだし、今回顔を見せて良かったね。
ここに来るのはソフィーからの提案だったから、もしかするとソフィー自身も気になっていたのかもしれない――。
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