第968話 センテからの返答
「ははは、ユノはエアラハールさんの体調を心配しているんですよ」
多分だけどね。
お酒の飲み過ぎはよくない……とか、ユノが心配して止めようとしているんだろう。
何もなければ、お昼から飲んだくれている事が多いようなので、年齢や体調の心配がなくても止めたくなるのかもしれないけど。
「心配してくれるのなら、殴り飛ばすのは止めて欲しいのじゃが……老体にはあちらの方が堪えるのじゃぞ?」
「ま、まぁ、あれはエアラハールさんを止めようとしているわけですから……」
女性に無断で触ったりとか、トラブルを起こすのを止めているからね。
確かに、壁に叩きつけられるくらいまで殴り飛ばすのは、と思わなくもないけど……女性に対しては、訓練などの時よりも俊敏で無駄のない動きを見せるから、ユノしか実力行使で止められないんだよなぁ。
「……ワシの楽しみなのじゃがの。手加減されておるのはわかっておるし、リクの話を聞くにお偉い神様じゃ。ありがたい事じゃと思う事にするかの。――ヴェンツェル、つきっきりで教えるわけではないが、暇つぶし程度には教えるようにするわい」
「ありがとうございます、師匠。そう言いながらも、師匠ならきっちりと教えてくれると信じていますよ」
以前エアラハールさんからの指導を受けた事のあるヴェンツェルさんは、特に信用しているようだ。
言葉では、面倒そうにしたり色々言っているけど、俺やモニカさん達に対してもちゃんと教えてくれるからね。
「昔の弟子から頼まれ事をするのも、やりにくいのう。はぁ……ワシはちょいと剣を教える代わりに、酒代をもらって、おなごにちょっかいを出しつつ悠々自適に過ごしたいのじゃが。状況が状況じゃから、仕方ないのじゃろうの」
「師匠、昼間から酒を飲んで酔っ払って、酒場でのんだくれと喧嘩して暴れたり……というのは、悠々自適とは言わないと思いますが……」
「エアラハールさん、そんな事をしていたんですね……」
「向こうが絡んで来るのが悪いんじゃ。ちょっと、連れているおなごを触っただけじゃろうに……心が狭い男じゃ」
いやいや、昼間から酒場にというのはともかく、女性を無断で触れば一緒にいる男性が怒るのも当然だろう。
状況はわからないけど、デートとかの可能性もあるしなぁ……というか、それをヴェンツェルさんが知っているという事は、近場で見ていたか、騒動になって衛兵さんが止めに入ったから、という可能性もあるかも?
「はぁ……指南役として迎えれば、師匠がうっかり捕まる可能性も減るだろうか……」
なんて呟くヴェンツェルさんの言葉と共に、捕まるような事をしないよう俺は心の中で願って、ちょっと男むさいお風呂タイムが過ぎて行く。
ちなみに、エルサはのぼせたのか、途中から洗い場に戻って水を浴びて体を冷やした後、ぐったりとお腹を見せて転がっていた。
ドラゴンだから大丈夫かもだけど、風邪ひくなよー?
――エアラハールさんから指導してもらう話に関しては、お風呂で話した日の夕食時に、報酬などの詳細を決めたヴェンツェルさんが来て決まったようだ。
こちらに関しては、エアラハールさんとヴェンツェルさんが決める事なので、俺達は話し合いを眺めていただけだけど。
エアラハールさんにヴェンツェルさんが付けたのは、大隊長や中隊長といった、隊長クラスの中でもえりすぐりの人達。
さらにそこから、後々になるけど希望を募って各貴族領地軍の人なども、王都に召集して指導するらしい。
そこから、国全体に広めていけばと考えているとか……まぁ、戦争に間に合うかどうかまでは、状況を見ながららしいけど。
まだ、いつ頃戦争が行われるかとか、帝国の動き次第だったりこちらの準備だったりで、はっきりわかっていないからね……一応、いつでも対応できるよう準備は進めているとか。
そんなこんなで、モニカさん達が次善の一手を練習したり、俺も負けじと訓練をしたりで、二日程度が経った。
夕食後に雑談をしている時、姉さんを探して宰相さんと数人の文官と見られる人が、俺の部屋へ。
何やら書簡を持っていたので、どこかから連絡が来たんだろう。
「ふむ……わかった。既に、物は向かっているのだな?」
宰相さんから受け取った書簡を読み、返しながら聞く姉さん。
俺達以外の人もいるし、宰相さんの前でもあるから女王様モードだ……宰相さんが部屋に入ってきた時は、姉さんが慌てて姿勢などを整える最中だったけど。
ヒルダさんは、コッソリ溜め息を吐いている。
まぁ、宰相さんと一緒に来た人達は、後から部屋に入ったので見ていないと思うけど……王城では暗黙の了解みたいなっているらしいし、まぁいいか。
「はい、陛下。途中に何もなければ、明日にはセンテに到着しているかと」
「向こうで安置する場所も、作っているとあったな?」
「そちらも、荷を運んでいる者達が確認する手筈になっております」
「わかった。では……」
宰相さんと、確認や指示をする姉さん。
センテと言っていたから、クォンツァイタを運んだり、置く場所やハウス栽培をする場所についての事だろう。
という事は、俺達にも話が来るか。
「りっくん、話は聞いていたと思うけど、センテに出張をお願いするわ。まぁ、行って結界を張って来るだけの簡単な仕事よ? 日程には余裕があるから、のんびりして来てくれていいわよ」
「確かに簡単だけどね。それじゃ、明日準備して明後日にでも向かおうかな」
「そうね、それくらいで構わないわ。クォンツァイタを置く場所を作っている最中だし、確認もあるから……余裕は十分にあるからね」
宰相さん達が退室した後、普段のリラックスモードに戻った姉さんから、センテでのハウス栽培の準備を頼まれる。
とは言っても、結界を使っての農地だったり予定地だったりを覆うだけなんだけどね。
移動はエルサで片道数時間だし、急ぐ事でもないし余裕もある。
「センテなら、準備もあまりいらないか……リク、余裕があれば冒険者ギルドに寄ろう。あそこのギルドには世話になったからな。依頼を受けるわけではないが、近くに行ったなら挨拶くらいはしておきたい」
「多分大丈夫だと思うから、わかった。俺も向こうのギルドマスターとは話した事があるから、顔を見せておきたいからね」
センテの冒険者ギルドでマスターをしているのは、ベリエスさんだったっけ。
現役冒険者でも通じそうな、ルジナウムのノイッシュさんやヘルサルのヤンさんと違って、事務仕事とかが得意そうな人だったね……ちょっと失礼かもしれないけど。
「あと、帰りにもヘルサルに寄ってみようかな。何度も様子見をしなくていいとは思うけど、獅子亭の料理を食べたいから」
「うむ、そうだな。楽しみだ!」
前回からそんなに経っていないけど、獅子亭の料理を食べに行く、というだけでも行く価値がある。
王城の料理とかも美味しくて、不満があるわけじゃないんだけど……あれはあれでまた違った美味しさがあるからね。
元々、獅子亭のファンだったソフィーも、手を握って嬉しそうだ――。
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