第959話 ハウス栽培の候補地



 簡単ながら、アルネとフィリーナからクォンツァイタに施されている研究の成果を聞いている。

 魔力を蓄積する性質を利用して、誰でも扱えるようにしているので、クォンツァイタそのものが既に魔法具のようになっているようだ。

 誰でも作れるわけじゃないけど、アルネとフィリーナしか作れないとかだったら生産力に不安があるため、一緒に研究していた人間も製作できるようにしてあるとか。


 後々は、フィリーナの言ったオンオフ機能も組み込んで、ある程度多くの人が作れるようにすれば、一般の魔法具でも使われるようになるだろうとの事。

 魔法具は生活するための便利な道具でもあるし、魔法が使えない人間にも魔法の効果を得られるようにする物、魔法が使える人でも補助に使えるため、今後の発展次第で色々と役に立つ事が期待される。


「まずはハウス栽培、成功させないとね」

「はい。リクが結界を張り、ヘルサルのようにクォンツァイタを配置。結界への魔力供給をさせる事で、維持ができます。さらに、定期的に魔力を補充する事で恒常的な意地が見込めるでしょう。ヘルサルで実際に見た事もあり、魔力効率も向上させられます」

「アルネとフィリーナが協力してくれて、本当に助かったわ。そうね、褒賞を……いえ、勲章を授けないといけないわね……」

「そんな、陛下。勲章など……」

「あら、ハウス栽培が成功すれば、私だけでなく国への貢献は計り知れないわ。それも、今後数年どころか数十年の国を豊かにして行ける程なのよ? それだけの事を成したのに、勲章も褒賞もないというのはあり得ないわ」

「それは、そうかもしれませんが……しかしエルフが……」


 クォンツァイタが成功し、温度調整のための魔法具もある……あとは実際に結界を張って成功させるだけだ。

 まぁ、結界を張っても実際に農作物を作るのは、その地の農家さん達だけど……ヘルサルの様子を見る限りではほぼ成功は確信できるようなもの。

 姉さんから、アルネとフィリーナに対して褒賞や勲章が提案されるのも、当然だと俺も思う。

 二人は戸惑っているけど、数日で目に見える結果だったり、魔物から多くの人を守ったりとか、派手な貢献ではないかもしれないけど、食糧事情の改善や生産数の増加などなど、農家の人達も助かるし、今後の事を考えれば大きな貢献といえるからね。


「……うぅむ、エルフが勲章を受け取っても良いのだろうか」

「陛下がエルフだとか人間だからとかで、差別する人じゃないのは、わかっていた事だけど……」


 結局、姉さんに押し切られてアルネ達は断る事ができなかった。

 姉さんの「女王が授けると言った勲章を受け取れないの?」という一言が決めてだね。

 二人共、部屋の隅に行って悩みながら話しているようだけど……まぁ、想像していない話が急に来た事で戸惑っているだけだろうと思う。


「あ、りっくん。ハウス栽培の方は直接行ってもらう事になるけど、大丈夫?」

「それは前から話していた事だからね、大丈夫だよ。どこに行けばいいかとかは、決まっているの?」

「クォンツァイタを使っての試験的な意味にもなるけど……決まっているわ。向こうからの返答待ちだけど、乗り気なのは間違いないから、数日中には連絡が来るはずよ。明日にでも温度管理用の魔法具も送るよう手配するわね」

「わかった。それじゃ、連絡が来たら出発できるようにしておくよ」


 アルネやフィリーナの様子を面白そうに眺めながら、思い出したように俺へ話しかける姉さん。

 結界を張るのは俺の仕事だし、前々から言われて承諾している事だ。

 ハウス栽培を開始する場所は決まっているらしいけど、クォンツァイタの魔力蓄積も問題ないと判断して、一気に動き出すんだろう。

 クールフトやメタルワームなどの魔法具は、俺が直接運ばなくていいのは助かるね……結構かさばるし、一つ二つならまだしも、それなりの量を運ぶとなるとエルサの乗り降りも大変になるから。


「最初はどこに行く事になるの?」

「りっくんの事を知っている場所が、やりやすいだろうから、候補はルジナウムとセンテだったけど……まずはセンテね。あそこなら、りっくんの事を知っているうえにすぐ近くのヘルサルで、既にハウス栽培が開始されているから、連絡もとりやすいでしょ」

「そうだね……ヘルサルとセンテは隣同士だし、距離も近いからお互い連携できそうだ」


 センテは農業の街……というか、農業をしている大きな畑が近くに多いので、作物を集める集積場のようになっている。

 ヘルサルでも農業は始まったけど、それだけであの大きな街に住む人たちを賄えるわけはないし、お互いに連絡を取り合ってハウス栽培を進めれば、問題も少ないだろう。


「センテという事は、ヘルサルにいる父さん達も喜びそうね」

「ですが陛下、リクの事を知っている場所が、というのは?」


 モニカさんが故郷の近くだとわかって喜ぶ。

 ソフィーは、姉さんへ質問……確かに、俺の事を知っているかどうかは、あまりハウス栽培に関係なさそうだけど……。


「国からの命令、という事で強制させる事はできるけど……りっくんの使う結界に頼る部分が大きいからね。りっくんを知っている人が多い場所の方が、受け入れやすいでしょ? これは有効な手立て、それを無条件で受け入れるかどうかはまた別の話よ

「そういう事ですか。確かに、リクの魔法は通常の人が使う魔法とは違いますから、リクの事を知らないと訝しがる者もいそうです。利になる事であり、国の施策でもあるので反発は表立ってはしないでしょうが」


 俺やエルサくらいしか結界が使えないから、謎の魔法に見えて怪しむ人が出てくるかもしれない、という配慮だろう。

 急に国から派遣されて、結界とかいう目にも見えない壁を作られて、それじゃこの中で作物を作って下さいと言われてもね。

 反発するかはわからないけど、特に知り合いでもない農家の人達からすると、意味がわからないだろう。

 名前とかは、一応英雄だとかで知られているかもしれないけど……。


「えぇ。だからまずは、りっくんを知っている場所でハウス栽培を開始し、実績を重ねれば知らない人も納得できる要素が増えると考えているわ。……本当はシュタウヴィンヴァー領も、候補に入っていたのだけど……」

「お爺様のシュタウヴィンヴァー領は、リクに助けられたから協力してくれる者も多い。だが……帝国がな」

「帝国? でもエフライム、隣接地でもないはずだけど……?」

「もし、帝国との戦争になり、アテトリア王国へと攻め入られたら戦場になる可能性がある。そもそもに、隣接領からなるべく王都方面へは近付けさせない事が最善だろうが……どうなるかはわからないからな」

「だから、王都から西南……帝国側へはしばらく見送る事にしたのよ。ハウス栽培を行っても、戦場になったのでは作物も作れないわ」


 悔しそうなエフライム……帝国との戦争がどうなるか、まだ未知数な部分が多いから仕方がないんだろう。

 もしシュタウヴィンヴァー領で戦闘が行われたら、農家の人達も巻き込まれるし、非難するにしても作物の世話をする人がいなくなってしまうから。

 さすがに、ハウス栽培だからって作物が勝手に育つわけじゃないしなぁ――。



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