第960話 冒険者同士の相談
「それじゃ、センテからの連絡を待つ事にするよ」
「えぇ、お願いするわ」
センテ行きが決まり、そろそろいい時間だからと姉さん達が退室。
部屋に残ったのは、俺とエルサとユノ、それからモニカさんとソフィーにフィネさんだ。
ヒルダさんもいるけど、アルネやフィリーナはクォンツァイタの目途が付いたので、今日のところは休むとか……勲章やら褒賞やらを二人で話し合うって言っていたから、ちゃんと休めるのか心配だけど。
研究に集中していたから、倒れたり体を壊す前にちゃんと休んで欲しい。
「んー……思ったより、魔力が満たされるのが遅いかな? まぁ、急いでいないから、のんびりやればいいけど」
「確か、取り込む魔力量を調節しているんだったか。その影響だろうな」
何個目かのクォンツァイタを持ち、魔力を蓄積させながら話す。
モニカさん達がまだ部屋に残っているのは、昨日姉さんと話した事を相談するためだ。
戦争に関しては、パーティだとかは関係なくそれぞれの自由意思と覚悟で参戦すればとは思うけど、クランの事も含めて話しておかないといけないからね。
「だろうね。それじゃ、魔力を蓄積させながら話そうか……えっと、まずは昨日姉さんが反対していた理由からになるけど……」
真面目に話すのに……と思わなくもないけど、魔力を手に集中させなくても満たされるのが遅くなるだけで、持っていれば問題なさそうだし、このまま話を始めさせてもらう。
大小さまざまなクォンツァイタ……アルネ達が持ってきたのは、積み上がるくらいの数で少しでも進めないと後々面倒になりそうだからね。
ちなみにクォンツァイタは、一番小さいのでソフトボールくらい、一番大きいのだとバスケットボールよりも少し大きいくらいなのもある。
大きさによって、蓄積できる魔力量が違う。
「……戦争を経験していない、か」
「私達も、生まれてからこの国は戦争をしていないから、経験はしていないのだけどね……」
アテトリア王国は、ここ数十年戦争をしていない。
だから、その間に生まれて育ったモニカさんやソフィー、フィネさんも戦争そのものを実際に経験はしていない……姉さんもそうだからね。
「それでも、俺のいた場所では人と人が争う事自体が珍しかったんだ。まぁ、喧嘩くらいはあったけど……」
スポーツとか競技はあったけど、殺し合いなんてしない場所だった。
そりゃ、俺の知らないところで凄惨な事件があったりとかはしていたんだろうけど、それでも基本的には争いがない国だ……ちょっとした喧嘩や口論はともかくね。
「そもそも、魔物もいなかったし……野盗のようなのに襲われる心配もなかったから」
「魔物も野盗もいない……」
「リク様のいた場所は、平和だったのですね」
「うん。モニカさんは知っていると思うけど、魔物はともかく人間は……」
野生動物は山の中とかに行かないといないのが当然だったし、魔物はいない。
夜に女性が独り歩きしていても、危険は少ない……全くないわけじゃないけど。
そう考えると、本当に日本って平和だったんだなぁと思う。
元いた場所の事を考えながらも、クォンツァイタを握りながら昨日姉さんと話した事を皆に伝えていく。
「つまり、人間と戦う事や、戦争で見てしまう事になる光景への躊躇、といったところか……」
「私達も、戦争は経験がないからなんとも言えないけど……」
「ですが、野盗のような者に武器を向け、全力で戦う事に躊躇はしません」
「価値観の違いというのかな? 育ってきた環境が違って、当たり前と言われている考えが違うからなんだろうけど、俺からすると悪者であっても命を奪うとまでは今まで考えなかったんだ」
そもそも、これまで命を狙われるような事もなかったし、そんな相手と対峙する事すらなかったからね。
実際には日本にいてやらなきゃやられる、という状況があれば悠長な事は言っていられないとは思うけど、相手を切り伏せるよりもまず取り押さえるとか逃げるとか、そちらを考えると思う。
「私は、戦争ではないが……冒険者として活動するうえで、魔物や野盗で悲惨な目に遭った人間を見た事がある。まぁ、戦闘と比べれば、規模は違うのだろうが。だから、もしもの際に躊躇する事はない」
「私もソフィーさんと同様ですね。ただ私は、冒険者というだけでなく騎士でもあるので、野盗と何度も戦った事がありますし、被害に遭った多くの人達を見ています」
「正直、私はどちらかというとリクさんの気持ちがわかるわ。冒険者としてもリクさんと同じだからかもしれないけど……父さんや母さんから話に聞いたり、冒険者の心得とかも教えられているから。ただ、明確な敵に対して武器を向けるのは、躊躇しないようにしているわ。心の中では、躊躇っていてもね」
俺とは違い、ソフィーは冒険者としての経歴が長いから、それなりに見てきているし覚悟はしている。
フィネさんは騎士でもあるからか、今ここにいる人達の中で一番色んなものを見てきているし、いざとなれば人間相手でも戦える……まぁ、自由意志が尊重される冒険者と違って、国所属の騎士ならそういった命令だってされるだろうからね。
モニカさんはヘルサルの獅子亭で育ってきたし、冒険者としての経歴は俺と同じなので、躊躇はするけどマックスさん達からの教えで、ある程度考えているようだ。
冒険者や騎士など、違いはあるけどそういった経験が長い人ほど、覚悟とか考えは固まっているようだ。
まぁ、一番の違いは皆いざという時には、人間相手でも躊躇したりしないようにしているってところだろう。
「しかしリク……リクの場合、躊躇している方がいいんじゃないか?」
「え? でも、もしもの時に躊躇ばかりしていたら、他の皆にも迷惑がかかるんじゃ……?」
「いや、だってなぁ……?」
「グリーンタートルと戦った時の事を思い出すとね。リクさん、素手であの硬い甲羅を割っていたから」
「ロ―タの父親を襲った野盗達相手には、命を取らないように加減していたようだが……リクは躊躇しているくらいがちょうどいい気がするぞ」
「えぇと……」
確かに、加減なしで拳を当てた場合、よくわからないけど破裂したりするようだから……あれを人間にやるとひとたまりもないのはわかる、魔物相手でもそうだし。
だからといって武器を使っても、あまり結果は変わらなさそうだから、ソフィーが言うように躊躇して加減するくらいがちょうどいい……のかな?
いやいや、でもだからといって加減をしていたせいで、周囲の人達に迷惑がかかっちゃいけないし……。
「戦争ともなると、その余裕があるかが問題なのでしょうけど……とにかく、リク様も含めて、戦争時の状況など、人間同士の争いがどうなるか……見たくないものを見てしまう、悲惨な状況や凄惨な場面だってそこかしこにあっておかしくない。それをどう感じるか、ですね」
「あ、うん。そうです、はい。……躊躇はともかく、手加減とかはまた考えるとして。フィネさんが言ったような状況で、平静を保てるかどうか……が一番問題かなぁ」
「まぁ、人によっては一生引きずってしまいそうよね」
「経験した事のない私達でも、ある程度想像はできるからな。……想像でしかないのだが」
「「「「はぁ……」」」」
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