第958話 クォンツァイタが実用段階になる



 話をしていて、ふと別の用を思い出した様子のアルネ。

 次善の一手を見るために、いつもなら研究に没頭している時間なのに訓練場に来たんだと思っていたんだけど、別の用があったらしい。

 興味はもちろんあったらしいけど、俺への用事がついでになるのはアルネらしいと言えばらしい。

 魔法や魔力への興味が大きいからこそ、寝食を忘れて研究できるんだろうし。


「それで、伝えておく事っていうのは?」

「あぁ、クォンツァイタの研究もほぼ完成した。改良を加える事はあるのだろうが、リクの結界を維持するための魔力さえ込めれば、あとは維持管理すれば問題ない。あと、クールフトとメタルワームも少ないが複製し、問題なく稼働するのを確認している。クォンツァイタを組み込んでなど、研究の余地はあるだろうが、現状でも実用可能になった」

「複製ができるようになったのなら、持ち出して設置しても大丈夫そうだね。それなら、そろそろ?」


 温度管理の魔法具もいくつか複製したので、持ち出しても数が不足する事はなくなったんだろう。

 クォンツァイタの方も大丈夫そうだし、そろそろハウス栽培が本格的に始動だね。

 一応、国家的な取り組みになるから、本来だとこちらの方が重要なのについで感覚のアルネって……まぁ、なんにしてもちゃんと伝達してくれて話しているからいいか。

 

「カイツが到着すれば、研究や複製も進みが早くなるだろうがな。とはいえ設置にも少しは日数がかかると考えれば、着手し始める頃合いだろう。今日にでも、クォンツァイタに魔力を込め始める予定だ」

「だったら……」


 アルネと、ハウス栽培指導に向けての日程を話し合う。

 正式には、姉さんや他の人も交えて話す必要があるから、とりあえずだ。

 あと、クォンツァイタへ込める魔力は、今はまだエルフがアルネとフィリーナしかいないし、一緒に研究している人だけでは時間がかかるため、俺も協力する。

 今日の夕食後にでも、クォンツァイタを部屋に持ってきて、魔力を込める作業を始める事になった。


 他に用事があるわけじゃないし、魔力を使う事もないからね。

 あと、追加のクォンツァイタとかも近いうちに、ブハギムノングから運ばれてくるそうだ。

 割れて使い物にならなくなってしまわないよう、対策をしたらしいから、以前より多くのクォンツァイタが使える見込みだ……割れない方法は、藁を使ったのも含めていくつか考えているとか。

 今回運ばれてきた物を見て、どの方法を正式に採用するかを決めるらしい。


 なんにせよ、ようやくハウス栽培が始められるって事だね。

 帝国とか戦争とか……昨日まで重めの話を姉さんとしていたから、今頃喜んでいるんじゃないかな?



 訓練をして夕食を食べた後、部屋に運び込まれたクォンツァイタに魔力を込める。

 方法は簡単、クォンツァイタを持った手に体内の魔力をちょっと集めるだけ。

 最初に一つ、手に取って魔力を込めるのを、アルネやフィリーナだけでなく、他の皆も注目している。

 ……ジーっと見られたら、ちょっとやりにくいんだけど……ユノとエルサだけは夕食に満足して、こちらに興味なさそうだけど。


「どうだ……?」

「多分、大丈夫だと思う……」


 神妙な顔つきで聞くアルネに、俺自身で確認しながら頷いて渡す。

 魔力を込めたクォンツァイタ……特に集める魔力を調整せずに、まずはお試しという事だったんだけど、以前のように魔力が多過ぎて割れたりという事はなかった。

 色も魔力が満たされた事を示す、透明感のある綺麗な黄色をしている。


「……フィリーナ」

「えぇ、間違いなく魔力が満たされているわ」

「割れたり欠けたりもしていない……成功だな」

「えぇ!」

「はぁ~……」


 俺から受け取ったアルネが、色々な角度からクォンツァイタを確認し、フィリーナにも見せた。

 フィリーナの目で魔力が満たされて、問題なく蓄積されている事を確認し、アルネは口角を上げて頷いて成功と判断。

 嬉しそうに頷くフィリーナに、注目していたモニカさんだけでなく、他の皆からも安堵の溜め息が漏れた。


「限界に達したら、魔力を蓄積させないようにする仕掛けを施したのも、上手くいっているな。リク、リク自身の魔力の方は大丈夫か?」

「んー、特に違和感はないかな」


 俺自身の魔力が特別減った感覚とか、そういうのは一切ない。

 これくらいなら、いつもの剣を長い間使っている方が、よっぽど魔力を使っている感覚があるくらいだ。

 手に集中させた魔力が吸われる感覚もあったけど、呪いとか言われているあの剣程じゃない。


「そうか……」

「……これ一つ満たすのに、エルフの私達二人で丸一日以上かかるのだけど……そうしても違和感がないくらいしか魔力が減っていないのね」

「まぁ、リクだからな。――陛下、今ご覧になられた通り、クォンツァイタは問題なく魔力を蓄積させる事ができます。魔法具に使う際には、使用者の魔力を少し……余裕がある時には多めに吸わせる事で、強力な魔法具となり得るでしょう」

「アルネ、フィリーナ、ご苦労様。ありがとう、これでハウス栽培もできるし今まで以上の魔法具開発ができるわ!」

「まだまだ研究は必要ですけど」


 なんだかフィリーナが呆れているような気もするけど、魔力量に関して俺は苦笑するくらいしかできない……生まれた時から備わっていたらしいし。

 アルネがフィリーナに肩をすくめて見せた後、注目していた姉さんに顔を向け、報告。

 既にある程度聞いているけど、改めての成功報告に、歓喜の表情をする姉さん。

 ハウス栽培が成功すれば、国の農業が発展するわけだから、喜ぶのも当然だよね。


「でも、リクさんはともかく……アルネ達エルフなら大丈夫かもしれないけど、人間が大量に魔力を吸われたら、危険じゃない?」

「その点も考えてある。魔法具の場合、当然だが蓄積させる物に直接触れなければいけない。単純に魔力が吸われ過ぎていると感じたら、離せばいい。あと、クォンツァイタ自体が取り込む魔力量も調節してある。魔力量が少ない者が触れていても、いきなり枯渇するなんて事はない」

「本当は、触れた者の意志で魔力を吸わせるかどうかを切り替えるようにしたかったんだけど、それはまだ難しくてね。今後の研究の課題よ」

「そうなのか。では、魔力量の少ない人間も安心して使えるな」


 モニカさんが、アルネの持っているクォンツァイタを見ながら、少し心配そうな表情をしながら聞く。

 勝手に魔力を吸われるんだったら、多くの蓄積ができるクォンツァイタに魔力が全て吸われてしまい、枯渇してしまう可能性を考えているんだろう。

 でもアルネとフィリーナはその事も考えていて、魔力を吸う速度を低くしてあるため、いきなり魔力が全部吸われたり、俺の剣を持ったルギネさんのように倒れたりする事はないそうだ。


 まぁ、多くの魔力が吸われて危険だと思ったら、誰でも咄嗟に離すよね。

 本当は、フィリーナが言うように魔力を吸うかどうかのスイッチのような……オンオフができる機能を付けたかったらしいけど、それはまだ研究の余地があるらしい――。



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