第957話 アルネは既に覚悟している様子
「それは難しいな……武器だと元々の形が既に決まっている。だからこそ、少々練習しただけで使えるようになるんだがな。魔法の場合は形が決まっていない。同じ魔法を同じ形に、というのはできるが常に見たり触れたりできるわけではないからな」
「魔力を這わせるよう動かすのが難しいかぁ……」
「あぁ。それに、見ていればわかるが、次善の一手は触れている物に魔力を這わせるものだ。体に触れていない物に魔力をというのは、魔力量も必要だし技量も必要だろう。フィリーナの場合は、魔法を放つ際に変換させる段階で魔力を練って一緒に作り出しているから可能だが、作られた後に純粋な魔力を這わせるのはな……」
「完全に全てをイメージから作り出せるなら、多分可能だけど……練りながら一緒にって事なら、魔力を這わせようとしても一緒に変換されちゃうよね」
「そういう事だ」
触れていない物に対して魔力を這わせるのは、放出された時点で霧散しようとする性質が魔力にあるため、難しいんだと思う。
多くの魔力を使って、離れた物に届くように自分の魔力で隙間を埋め尽くせば可能だろうけど……どれだけの魔力が必要なのか見当もつかない。
距離が離れれば離れる程、必要な魔力量も上がるから実用的でもないからね。
触れていればあるいわ……という可能性もあるけど、魔法によっては触れるのも危険だろうからこれも難しいと……。
火だったら火傷するし、氷だったら凍傷や、場合によっては触れた物を凍らせる性質の魔法だってある。
風の刃なら……と思っても、目で見るのが難しいので下手に触れて、こちらが怪我をするのも馬鹿らしい。
それに、爆発だとかそもそも触れる事ができない魔法もあるわけだし……魔法に次善の一手を組み込むのは難し過ぎるか。
「だが……」
「ん?」
ほぼ不可能だろうと思い、次善の一手を魔法へ応用する考えを打ち切ったところで、アルネが手を顎に当てて考える仕草。
「不可能とは言えないな。人間が扱うには、魔力量などの問題で難しいだろうが、エルフならあるいは……これは、研究する価値がありそうだ」
「……えっと、他にも研究する事があるのに、大丈夫?」
「なに、エルフの村から来る者もいるからな。それに、人間が新たな戦闘方法での戦力が上がろうとしているんだ。エルフの方も、何かしら考えておいた方がいいだろう。魔法の知識や研究だけでなく、戦力としても重要な事を示さねばならない」
「知識や研究だけでも、十分だと思うけど……」
「いや、帝国があちらのエルフと協力しているのであれば、魔物だけでなくエルフも戦場に出てくる可能性がある。その際、こちらのエルフが勝るには何かしら必要だ。魔法の改良だけでも十分ではあるが、その辺りは考える余地があるだろうがな」
研究する事が増え過ぎたりしないか、と心配したんだけど、エルフの村から来る者……カイツさんの事だろうけど、一緒に研究できるエルフが増えるから、なんとかなるようだ。
体調を省みない節があるから、アルネにはその辺りを気を付けて欲しいんだけどね。
ともかく、アルネが考えているのは、帝国との戦争で向こうのエルフが参戦する可能性。
帝国側でエルフの扱いがどうなっているかはわからないけど、協力しているのなら参戦する事だってあり得る。
でもそれって……。
「同じエルフ同士で争う事にもなるけど……アルネは、大丈夫なの?」
「人間だって同じ種族で争うのだ、そこはエルフも変わらない。できる事なら、同種族での争いは避けたいが、そんな甘い事を考えている状況ではないからな。何も思わないわけではないが、故郷であるエルフの村や国を守るのに躊躇はしていられん」
同種族での争いという事に関して、人間は他の種族の事を言えないんだろうね。
まぁ、どんな種族だって主義や主張が違えば争う事があるって事だろう。
それが武力行使になってしまうのは、色々複雑になってしまっているから、かな。
ともあれ、平気と言う程ではないにしても、アルネは覚悟をしているようだ。
「それにおそらく、リクに助けてもらった集落への魔物の襲撃だが……あれも何かしら関与していると予想している」
「……あれは、サマナースケルトンが魔物を呼び出していたからでしょ?」
エルフの集落への魔物達の襲撃……これまでの事を考えると、組織や帝国の関与が疑われるのは確かだ。
けど、他と違うのはサマナースケルトンが召喚していた事。
俺が実際に行って召喚する場面を見たし、他に人間とかが拘わっている様子はなかった。
「そのサマナースケルトン自体が、エルフの村の周辺で今まで確認された事がないんだ。魔物の知識としてはあったが、その程度だ。数年や数十年どころか、数百年も確認されていない魔物が現れた。何かしらの関与を疑うのは当然だろう?」
「言われてみれば、そうだね。……クラウリアさんのように、ゴブリンキングを用意してとかもあったわけだから、サマナースケルトンをってのも考えられるね」
「そういう事だ。まぁ、話しに聞いたゴブリンキングは、ゴブリンの大群が集まるまで管理していたようだし、サマナースケルトンは管理されている様子はなかった。その違いもあるから確実ではないがな。だが、関与しているのであれば、帝国はエルフにも敵意を向けているわけだ」
「向こうのエルフも協力しているとなると……」
「宣戦布告されたわけではないが、帝国側のエルフはこちらのエルフと敵対する意志があると考えられる。ならば、我々エルフも同種族だからという考えは捨てて、戦うべきだろう」
「そう……だね……」
他とは違う状況があるとはいえ、帝国や組織の関与は疑ってしかるべきってとこだね。
先に手出しをしたのは向こうだからこっちも……という事にも感じるけど、なんにせよ敵対して戦う事に躊躇はないと。
ツヴァイがエルフだった時から、もしかすると考えていたのかもしれない。
アルネは例え相手が自分と同じエルフであっても、そして当然人間であっても戦争となれば、戦う事を躊躇わない……皆それぞれ、覚悟というかちゃんと考えているんだなぁ。
「魔法は人間より使えるが、非力な事が多いから、前線ではなく後方支援かもしれないがな。エルフと相対する事は少ないかもしれん」
剣を持って突撃、というのはエルフには不向きだし、後ろから魔法で攻撃などの援護をする役目って可能性もある。
その場合は、直接戦闘になる事は少ないのかもしれない……戦う事にはなるけど。
「……なんにせよ、できれば戦わないでおきたいね。甘い考えだってのは自分で言ってて思うけど」
「そうだな。同種族と戦う事を喜ぶ者は少ないだろう。それは、人間相手でもそうか……人間の国に帰順しているのだから、というのもあるが。っと、そうだリク、本来の用を忘れていた」
「ん? 次善の一手を見たいから来たんじゃなかったっけ?」
「確かに興味は引かれたが……リクに伝えておく事があってな。ついでだが」
「伝達がついでっていうのは、アルネらしいね」
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