第956話 エルサは素直じゃないけど協力的
「ふぅ……エルサはどう思う?」
「何がだわ? ふわぁ……やっぱりリクの魔法は気持ちいいのだわぁ」
「姉さんとの話は聞いていただろ? 戦争についてだよ」
姉さんと入れ違い、というか話が終わった事を伝えたからだろう、ヒルダさんが入ってきてお茶のおかわりだとか、お風呂の準備などをすぐに済ませてくれた。
時間も遅いから、自分でやると言ったんだけど……むしろやらせて下さいと頼まれてしまって、断れなかったからだけど。
とにかく、お風呂に入る前にはいつものように隣室で待機、というか休息するようヒルダさんを押し込み、エルサを洗ってドライヤーで乾かしながら聞いてみる。
「戦争と言われても、私にはよくわからないのだわ。これまで、人間同士が争っているのは見た事があるのだわ」
「それが戦争だよ。国同士、人同士が争って殺し合って……って、エルサはそれに関係したりはしなかったのか?」
「そんな面倒な事しないのだわ。ドラゴンは世界を監視するために作られたのだわ。直接干渉、介入せずに見ているだけなのだわー。つまらなかったから、うるさくない所まで離れるくらいだわ。契約者のリクが関係するなら別だけど」
「そうなんだ……って、監視するのに戦争を見もせずに離れるって、どうなんだろう?」
「やり過ぎなければ問題ないのだわー。小さき者達……人間が勝手に争って、勝手にどうにかなるだけなのだわ。そうして、増減を繰り返す生き物なのだわ?」
「まぁ、それは否定できないのかもしれないけどね……」
一応、減るよりも増える方がいい事だと思うけど……同じ種族なのに争うのは、増え過ぎないように自分達で減らす目的があるんじゃないか? とか考える事もある。
まぁ、実際は考え過ぎなんだろう、日本なんてアテトリア王国とは比べ物にならないくらい、人口が多かったわけだし。
「とにかく、俺がもし戦争に参加するとしたら、エルサもって事になるだろうし……今までと違って我関せずでは済まないと思うんだけど?」
「面倒なのだわぁ、全部リクに任せるのだわ。私は、別に小さき者達がどうなろうと知ったこっちゃないのだわ。キューとリクからの魔力があればいいのだわー」
「……キューも、人間がいないと作れないと思うけどね。まぁ、エルサからはそんなもんか」
そっけないと言うか、人間の事はどうでもいい……という風に言い切るエルサ。
だけど、ルジナウムで頑張ってくれた事や、他にも色々と協力してくれているから、本心から人間をどうでもいいと思っているって事はないだろう。
素直じゃないからな……契約している影響からか、魔力と一緒に俺の考えとかも流れて行っているらしいけど、その逆もある。
はっきりとはしないけど、人間の事……この国や世界の人間というよりは、これまで拘わってきた人間の事を心配しているような、そんな気持ちが伝わってきているから。
「まったく、素直じゃないんだからなぁ……」
「……キューを食べる分くらいは、助けるのも悪くないのだわ……」
なんて、ポツリと呟いた後コテンと横に体を倒して寝た。
照れ隠しで、最初は寝たふりのつもりだったんだろうというのはわかっていたけど、ドライヤーもどきが気持ち良かったのか、本当に寝入ったのを確認。
仕方ないなぁ……という溜め息と共に、乾いてモフモフを保っているのを確認しながら、ベッドに入って就寝。
もちろん、寝る時もモフモフを撫でて堪能するのを忘れない。
……今日は考える事が色々あったから、体はなんともないけど頭が疲れている感じがするし、エルサのモフモフは丁度いい癒しだなぁ。
あー、このモフモフが俺を狂わせる……なんてよくわからない事を考えながら、夢の中へ意識を飛ばした――。
――翌朝、朝食を食べ終わった頃にモニカさん達と合流して、エアラハールさんによる訓練。
昼食を食べた後も、みっちり訓練をして多めにこなす。
俺はともかく、モニカさんやソフィー、フィネさんは次善の一手を練習する事が多かったけど。
その際にユノは指導側に回り、エアラハールさんは最善の一手が使える関係上、習得していると言えるのだけどまだ完璧じゃないので、一緒に練習していた。
エアラハールさん自身は、今更新しい技を練習しても……と言っていたんだけど、ユノが強制した形だ。
多分、指導側に回れる人を早めに多くしたいからだと思う。
模擬戦などもしたけど、皆が次善の一手を練習している時、俺は基本的に素振りだけ……疎外感を感じたりはしてないんだからね!
まぁ、練習が始まったばかりで、魔力を纏っている状態とも言える俺と模擬戦したら、色々と乱れるからとかユノに言われたから仕方がない。
「武器に這わせた魔力が、リクの魔力と干渉してしまうからじゃないか?」
なんて言っていたのは、様子を見に来たアルネの言葉。
魔力を使って、魔法ではない攻撃法に興味を持ったようだ。
「アルネとか、エルフは人間より魔力の扱いに慣れているから、できそう?」
「ふむ……まぁ、問題ないな。これくらいの事なら、研究の時に近い事をやっている。とは言え、俺達エルフは非力な事が多い……エヴァルトは別だが。魔力量は多くとも、技量や力で結果的に人間にはかなわないだろうな」
「そういうものなんだ……」
練習する皆を見ながら、次善の一手のように魔力を武器に這わせられるのか、アルネに聞いてみたらそれ程難しくなさそうな反応。
というより、特に練習しなくてもできそうな感じだね。
「魔力の扱いという点では、エルフの方がという自負はあるがな。というかだ、リクはフィリーナの新しい魔法を見たのだろう?」
「えっと、ツヴァイの地下施設に突入した時だったかな。見た、というか俺に向かって飛んで来たけど……」
ツヴァイを捕まえた後だったか……残っていたオーガに向かって、咄嗟にフィリーナが目標に対して誘導するようにした魔法を放っていた。
俺が原因ではないけど、オーガから逸れるどころか俺がいる方に向かって飛んで来たのは、驚いたっけ。
「あれは、魔力を見る事ができるフィリーナだからこそではあるが……次善の一手だったか、あれに近いものだぞ?」
「そうなの? 確か、誘導の魔法をとか言っていたと思うけど」
「リクやエルサ様から聞いた魔法の話から、研究して作った魔法なんだがな。魔法で作った風の刃に、魔力を這わせて誘導するように仕向けている。単純な魔力ではなく、変換後の魔力だから次善の一手とは違って、誘導にしか効果がなく威力への影響はないがな」
「へぇ~、そうなんだ。じゃあ、魔法に変換前の魔力を加えれば、次善の一手みたいに威力が上がったりするのかもね」
誘導は、フィリーナが魔力を見てその性質を見極めたうえで放つ事で、相手が避けたとしても当たるまで追尾し続ける……というようなものだったと思う。
その効果を付与するために、既に魔力を変換させているから次善の一手のように、威力が上がる事はないみたいだけど、確かに近いのも理解できるね。
だったらと、誘導は関係なく純粋な魔力であれば、放つ魔法にも次善の一手と同じ事ができるんじゃないかと思った――。
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