第943話 落ち込むモニカさん



 クランを作る際の費用に関しては、モニカさんとマティルデさんが話すのをなんとなく聞いていたけど、多くの費用が掛かるクランもあれば、ほとんど費用が掛からないクランなどもあるとか。

 一応、あまり多くの費用はかけないように、というかギルドからの初期費用補助にも限度があるので、やり過ぎないようにとは言われた。

 うーん、まぁこのあたりは後でモニカさん達と相談して決めようと思う。

 なんでもかんでもクランで用意するのが、来てくれる冒険者さん達にいい事だとは限らないからね。


 ……本当にクランを作るとしたら、色々考える事が多いし、大変な事が増えそうだなぁ。

 のんびりするのはどこに行ったのか……はぁ……。



「はぁ……」

「どうした、モニカ?」


 マティルデさんやミルダさんとの話を終え、冒険者ギルドを出た俺達。

 先頭を歩く俺の後ろで、モニカさんが溜め息を吐き、ソフィーが様子を窺っている。

 マティルデさんと話している時には、俺が溜め息を吐く感じだったのに、今度はモニカさんとは……それだけ重要な話し合いだったと実感。

 用件は、クランを作るかどうかの一つだけなんだけどね。


「ソフィーも見ていたと思うけど……私、過剰に反応し過ぎよね? 統括ギルドマスターは、冗談交じりで言っているだけだったのに」

「まぁ……確かにな。以前はそこまで反応していなかったとは思う。ただ、私からは統括ギルドマスターは冗談だけではなかったとも思うがなぁ」

「本気か冗談かはともかく……クラウリアさんを見てからなのよね。なんだか、今までのように見ているだけじゃ、いけない気がして……」

「そこは私にはよくわからないが、仕方ないとも思うな」


 んん? 歩きながら、なんとはなしにモニカさんとソフィーが話すのを聞いているけど、二人が言っているのはクランの事とかではないのかな?

 モニカさんが反応し過ぎと言って、反省しているというか後悔しているのは、多分不穏な空気を出していた事に対してだと思うけど。

 確かに、クラウリアさんを連行した時から、表情は笑っているのに怒っているような事が増えたような気はする……まぁ、クラウリアさん以外にはマティルデさんくらいだけども。


「だが、街を見て回った時の事を考えれば、少し心配し過ぎな気もするな」

「そう、かしら?」

「これまで一緒にいて見て来たが……あのような反応と言えばいいのか、それらしい行動をしたのは、あれが初めてだぞ?」

「そうよね、私もあの時以外には知らないわ」

「だろう? それは、モニカの事を考えている証拠でもある。どの程度かは、鈍いと言うか素振りを見せないので私にもわからないが……少なくとも、他の誰かよりは近いと言っていいと思う」

「そう……そうよね……むしろあの時の事があったからこそ、過剰になっていたのかもしれないけど……もう少し自信を持ってみる事にするわ、ありがとうソフィー」

「いや、私から見た事を言っただけだからな。だが、自信以外にももっと積極的に言った方がいいとも思うぞ? フィネも、言っていただろう?」

「私から根掘り葉掘り聞き出した時の事ね。確かに言っていたけど……ちょっと考えて見るわ」


 聞き耳を立てているけど、具体的になんの事を話しているのかわからない……いや、聞き耳を立てなくてもこちらまで聞こえるから、盗み聞きにはならないはず。

 多分、俺に関係するような気はする……かな? だからこそ、微妙にぼかして話しているのかもしれない。

 とにかく、誰にしているのかわからない言い訳を頭の中で考えつつ、ソフィーに言われてモニカさんは元気を取り戻したようだ。

 どうして落ち込んだり溜め息を吐いたりしたのか、理由ははっきりわからないけど、モニカさんが落ち込んでいるよりは、笑顔で元気な方がいいに決まっているから、歩きながら少しだけホッと息を吐いた――。



「リク、私も頑張って考えたの!」

「そ、そうなんだ……? えっと、何を考えたんだ?」


 元気を取り戻したモニカさんやソフィーと、エルサのおやつをあげたり、ちょっとだけ城下町を見て楽しみながら、王城に戻る。

 部屋へと入った俺に対し、ソファーに座ったまま寝ているエアラハールさんとは別に、元気よくアピールするユノ。

 戻ってきた挨拶とかはそっちのけで、何か考えた事があるらしく、そちらを伝えたくて頭がいっぱいのようだ。


「お帰りなさいませ、リク様」

「ただいま帰りました、ヒルダさん」

「リク、リク。こっちなの!」

「わかったわかった。引っ張らないでくれー」


 礼をしながら、俺達を迎えてくれるヒルダさんに挨拶を返す俺の手を掴み、エアラハールさんが寝ているソファーへと引っ張るユノ。

 とにかく早く話したい何かがあるらしい。

 落ち着いて、クランについてゆっくり考えたかったんだけど、仕方ないか。


「どうぞ、リク様、皆様」

「ありがとうございます、ヒルダさん。――それでユノ、一体何を考えたんだ?」


 エアラハールさんやユノがいたからか、前もって準備してあったんだろう、ソファーに座らされた俺や、モニカさん達のもお茶を出すヒルダさん。

 お礼を言った後、ユノが何を考えていたのかを聞いた。

 ……これだけ騒がしくしても、座ったまま熟睡しているエアラハールさんは、ある意味大物なのかもしれない……騒いでいるのはユノだけだけども。


「えっとね、えっとね……昨日リク達が魔物と戦うって言っていたの」

「帝国との話の事か。まぁ、そうだね」

「それでね、私も魔物と戦う事について考えたの!」

「ユノが? でも、ユノなら改めて考えなくても、今まで十分戦ってきたと思うんだけど……」


 正直なところ、魔法を使わず武器を持っての戦いだったら、ユノに敵う人はいないんじゃないか、なんて思う。

 多分これも、本来の創造神としての力みたいな物だと考えているけど。

 ともかく、ユノが魔物との戦い方を改めて考える必要は、あまりなんじゃないなぁ……? どんな魔物が来てもかはわからないけど、ユノならなんとでもしそうではある。


「私がじゃないの。他の人がなの」

「ん、どういう事だ?」

「私やリクは、そこらの魔物にも負けないの。でも、他の人間達は違うの。昨日訓練するって言っていたの」

「あぁ、エフライム達が言っていた事か」


 人相手の訓練と魔物相手の訓練は違うとかの話だろう。


「そうなの。破壊神が干渉している帝国に負けたらだめなの。だから、ちょっとだけ私も干渉するの。……神としての力は今使えないから、知識で干渉なの」

「知識……でも、いいのか?」

「問題ないの。私が持っている干渉力は、この体になった時点でほとんどないのだけど……それでも提案できる事はあるの。それに、帝国に負けたらどうなるかわからないの。私にも、破壊神が何を考えて、何を企んで帝国に干渉したのかわからないの」

「……もし帝国にこの国が負けたら、破壊神の計画通りになるかもしれないってわけか」

「多分……わざわざ干渉した先の国が、負ける事で破壊の引き金を引くというのは考えづらいの。だから、この国が勝たなきゃいけないの」



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