第944話 魔物との戦いに有効な方法



 どんな干渉をしたのかまではわからないけど、帝国が力を付けるような事をしたのは間違いない……少なくとも、向こうのエルフと人間を交流させる事によって、技術的には上がっているはず。

 干渉したはずの帝国が負けて、それが破壊神の計画通りかどうかは、確証はないけどほぼないと考えて良さそうだ。

 ユノの言う通り何を考えているかはわからないけど、干渉した先が負けるよりは勝つ事で何かのきっかけになると考える方が自然だからね。


「それで、魔物と戦う事についてか……」

「そうなの」

「それじゃ、ユノが兵士達に訓練するのか? 魔物との戦い方を教える……とか」

「違うの。私がするのは、あくまで魔物と戦う時に有効な手立てを教える事なの。訓練はできると思うけど、私一人で全てを見る事はできないの」

「まぁ、それはそうか……」


 ユノ一人で、国の兵士……最低でも戦争に向かう兵士の全てに教えるというのは難しいだろう。

 数が多過ぎて、一人一人にしっかり訓練してやれるわけじゃないから。

 そうではなく、魔物を相手にする時に有効な方法を教える、か……それが本当に有効で、しかも知る事で有利に戦えるのであれば、十分に有効だろう。


「それで、リク達が出かけている間に、お爺ちゃんと一緒に試していたの」

「エアラハールさんと?――もしかして、エアラハールさんがいま寝ているのって……?」

「つい先程まで、兵士の訓練場に行かれておりました。戻ってきた時のエアラハール様は、大変疲れていた様子で……お茶を飲んだらすぐに今の状態に」

「そういう事ですか」


 ユノに付き合わされていたから、疲れ果てて熟睡しているって事か。

 だから、これだけ周囲で騒いだり話したりしていても起きないんだね。

 エアラハールさん、それなりの年齢でお爺さんと言えるんだけど、それでも相当な体力を維持している人なのに……ユノはどれだけ無理をさせたんだろうか。

 まぁ、おかげでユノがはしゃぐくらい有効な手立てがわかったようなので、後でしっかり感謝しておかないとな。


「それでユノ、その魔物に有効な方法って?」

「最善の一手なの!」

「最善の一手……それって、エアラハールさんが作った? 開発した? ともかく、考えた技じゃないか。でも、あれは俺もそうだけど、誰でも使える技じゃないはずだけど……」

「そうよね。私は槍を使うから、リクさんやエアラハールさんのように、あれは使えないわ」

「剣を使う私でもそうなんだがな。あれは相当な訓練が必要だと考えているが、兵士達が使えるのかは……難しいんじゃないか?」


 最善の一手、エアラハールさんが編み出した技で、瞬間的に剣へと全力を込める事であらゆるものを切り裂く技……だと思っている。

 ただ全身に力を入れればいいだけじゃなくて、適度に力を抜く事で速度を持たせたり、剣を持つ力加減や振る際の動き等々、それらが合わさってようやく使える技だ。

 ルジナウムで、偶然俺も使う事ができたけど……あの時はほとんど無意識だったし、今はまったく使えない。

 ユノは簡単に使っていたけど、それは例外だし、現状でまともに使えるのはまだエアラハールさんだけだ。


「最善の一手をそのまま使うわけじゃないの。あれは、魔力を剣に這わせたり、体の動きとか色々条件が重なったらできる事なの」

「そ、そうなのか。というか魔力を使うんだ……」

「そうなの。でも全部の条件を重ねて満たすのは、誰にでもできる事じゃないの。だから、誰にでも使える有効な手立てをお爺ちゃんと考えたの!」

「誰にでも使える……それじゃ、最善の一手ではないんだ」


 胸を張るユノ。

 エアラハールさん、最善の一手の改良というか……誰でも使える技の開発に付き合わされたって事か。

 まぁ、最善の一手は元々エアラハールさんの技だから、その本人と考えるのは当然なのかもしれないけど。

 ……誰にでも使えるように、グレードダウン? させるようになんて、よく考えられたなぁ。


「んー、最善じゃないから……次善? うん、次善の一手なの!」

「……名前は重要かどうか微妙だけど、多くの人に教えるのなら説明する時に必要かな」


 最善よりは下だから、次善って事だろう……ちょっと地味かな。

 とりあえず、ユノにはあまりネーミングセンスがない事がわかった。

 無駄に恰好いい技名にしたらいい、というわけではないけどね。


「次善の一手は、最善の一手からヒントをもらって、魔力を武器に這わせるの。使う人の魔力だけだから、魔法を使えるかどうかは関係ないの」

「魔力を武器に……自然の魔力を集めるとかじゃないのなら、確かに魔法が使えるとかは関係なさそうだね」

「……私にも使えるという事か」


 人間だけでなく、エルフもそうなんだけど、魔法を使うには本人の魔力を補うために自然の魔力を集める。

 その自然の魔力を集めるための感覚というか、器官のようなものがあるかどうかで、魔法を使えるかどうかが決まるわけだね。

 エルフは当たり前のように誰にでも備わっているみたいだけど、人間はある人とない人かいる。

 モニカさんにはあるから魔法が使えるけど、ソフィーにはないから使えない……魔力は生き物ならだれでも保有しているけど。


 まぁ、そんな自然の魔力を集めるだとかを無視したのが、俺がエルサと契約した事で使えるようになった、ドラゴンの魔法らしい。

 とはいえこれは、自然の魔力を使わないので相当な魔力量を使うらしく、通常の人間では使えないけどもし使えば、すぐに魔力枯渇を起こして命が危ない。

 本来は、契約したドラゴンから魔力を借りて使ったりするらしいけど、それを完全に自分の魔力だけでドラゴンのエルサ以上の魔法を使っている俺は、異常だとかおかしいとか……以前エルサに言われたっけ。

 地球生まれの人間は時折大量の魔力を保有していて、俺もその一人だかららしいけどね。


「でも、魔力を剣に這わせるって、そんな事できるのか?」

「リクは近い事を一度やっているの。ヘルサルで……エルサに乗って空から地面に棒を突き刺して、魔法を使っていたの」

「あー、あの時か」


 確かあの時は、魔力溜まりの中で魔法を使うとどうなるかわからなかったからで、魔力溜まりから離れた空から地上の地面に対して魔法を使うためだった。

 適当に魔法で固めた土の棒に、魔法というか魔力を伝わせて地上で発動……地面を掘り返すとか土を操ったり動かす、とかだったかな。


「それと似たような事を剣や槍とか、武器にやればいいの。魔法ではなく、魔力を這わせればいいだけだから、練習すれば誰にでもできるの」

「武器に魔力をか……そうすると、どうなるんだ?」

「武器に……というより、武器に使われている素材によるけど、リクが持っている剣に近い物になるの。もちろん、魔力を這わせている時だけに限られるの」

「俺の剣に近い……?」

「リクさんの剣って、魔法がかかっていて持って鞘から抜いたら、勝手に魔力を吸われる……呪われた剣よね?」

「呪われたって……まぁ、確かに勝手に魔力を取られるから、近いのかもしれないけど……」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る