第942話 即断はせず考える時間が必要



 マティルデさんやミルダさんの笑顔に、隣のモニカさんが再び不穏な気配を醸し出しているんだけど、マティルデさんはものともしない……さすが統括ギルドマスター、強い。

 話を聞いたからもあるけど、冒険者ギルドの今後にも関わるから、受けるしかないかぁ……今後も冒険者として活動したいし。

 上手くいくかはわからないけど。


「はぁ……さすがに今すぐここで決めるわけにもいかないし、じっくり考えたりモニカさん達とも相談しないといけないので、とりあえず保留にさせて下さい」

「まぁ、私も話してすぐ決断できるわけではないと思っているわ。色よい返事を期待しているわね。……ん? 断られてもリク君の所へと考えれば、私にとってはどちらでも色よい返事になるのかしら?」

「……さすがにそれは止めて下さい。冗談だとは思いますけど……」


 決断が迫られているわけではないし、今すぐ決めなきゃいけない事ではないようなので、じっくり考える時間をもらうため、保留にしてもらう。

 マティルデさんは冗談を言っているけど、さすがにそれはなぁ……統括ギルドマスターが、簡単に辞めて離れられるとは思わないし……冗談のはずだ……冗談だよね?

 マティルデさんだけでなく、ミルダさんも笑顔なんだけど目が笑っていない気がするのは……多分気のせいだろう。


「あの……少しいいでしょうか?」

「ん、何か異論が?」


 保留にして決断を先延ばし……というか相談したりする時間をもらえてホッとしている俺の隣で、こちらも笑顔でマティルデさんを警戒しながら、声を出すモニカさん。

 チラッと見てみると、マティルデさん達と同じくモニカさんも目が笑っていなかったりする。


「いえ、異論というか質問……提案? まぁ、聞いておきたい事がありまして。クランをという話そのものには異論はありません。ソフィーもそうよね?」

「あぁ。パーティのリーダーはリクだし、そのリクが決めるのであれば私はクランを作る事にも反対しない。まぁ、無理が過ぎるのなら反対や意見は出させてもらうがな」

「リク君は慕われているわねぇ。それで、モニカが聞きたい事っていうのは?」


 モニカさんはクランに対して異論があるわけではなく、単純に聞きたい事がある様子。

 ソフィーの方を窺うと、そちらは無理過ぎたりしなければ、俺が決める事に反対はしないと言ってくれる。

 信頼の証だとは思うけど、俺の独断で全てを決めるわけにはいかないので、相談くらいはさせてもらうけどね。


「クランをリクさんが作ったとして、そこで集める冒険者についてです。さすがに、誰でもというわけにはいかないと思うので……」

「それはそうね。リク君がクラン員を募集したら希望者が殺到しそうだし、有象無象も来る事が予想されるわね」

「俺が募集しても、そんなに集まらないと思うんですけど……精々、数人程度じゃないかなぁ?」

「……それらを全員、私達が見て判断したり選ぶのは難しいと思うんです」


 多くが集まると言うマティルデさんに、反論して首を傾げたら、モニカさんも含めて皆にスルーされた……悲しい。

 いやでも、俺が募集したからって多くの人が集まるとは思えないんだよなぁ……。

 英雄だなんだと言われて、今では有名人になっちゃったけど、冒険者の中では特に慕われているとかではないだろうし……というか、冒険者の知り合いってルギネさん達以外には、ヘルサル防衛戦の時に知り合った人達くらいだ。

 知り合いだけが来るわけじゃないけど、マティルデさんが言うくらい集まる気がしないんだけども。


「確かに、モニカが言うのももっともね。数人程度ならまだしも、多くの冒険者が集まれば全員は見られないか……」

「モニカさん、それでは……一定の基準を設けて、私達の方で応募者の中から選び、モニカさん達に伝えるというのはどうでしょう?」

「それは助かりますけど、できるんですか?」

「元々、リク様がクランを作る際に、クラン員を募集するのは冒険者ギルドを通してになるでしょうから。その際に、リク様やモニカさん達にそのまま伝えるのではなく、こちらで水準を満たした人物を……とするのは容易かと」

「成る程。でも一定の基準ですか……どこまでわかりますか?」

「冒険者ギルドは、冒険者の全てを把握しているわけではないわ。でもそうね……悪事を働いていないか、依頼の達成率、これまでこなした依頼、現在のランク、主要な活動場所……などはわかるわね」

「悪事をというのは最低条件ですね。ギルドから勧めて作ったクランに、悪人を入れるわけにはいきません」


 俺の想像はともかく、多くの人が集まっても全員がどんな人となりでどういう人物かは見られないだろう、という話。

 モニカさんとマティルデさん、ミルダさんの三人で話を進めていく。

 俺はクランを作るかどうかの判断のため、黙って話を聞いておく。

 頭にくっ付いていたはずのエルサは、いつの間にか移動して、ソフィーにモフモフを堪能されていた……多分、モニカさんが不穏な気配を出しつつも笑顔を維持しているあたりで、移動したんだと思う。


「でしたら、ランクの方はともかく……依頼の達成数や達成率もそこまで重要視はしないですかね。いえ、ある程度は必要だと思いますけど。達成率が不自然に低い人は何かありそうですし。あとは……」

「こちらでも検討して、一定の基準を満たした人物を選ぶようにしておきます」

「そうね。それと、さっき言った低ランクの冒険者の受け皿という話もあるから……ランク以外にも、そちらの能力があるかどうか、というのも考えながら見るようにしておくわ。まぁ、そういった人物と私達冒険者ギルドとのやり取りが増えるだろうから、確かな人物が欲しいわね」

「……ギルドに都合が良さそうな人を選ばないで下さいね?」

「わかっているわ。リク君のクランを、ギルドの都合がいいように動かそうという気はないの。これからも冒険者ギルドの存続させ、これまでと変わらないようにするのが目的だからね。そこは約束するわ」


 なんだか、もうクランを作る方向で話している気がするけど……まぁ、もし作って人を募集した場合、という話だと思っておこう。

 モニカさんとマティルデさん、ミルダさんも交えて募集する際の一定の水準とやらを決めていく。

 他にも、俺達が直接誘いたいと思う人がいれば、自由に誘って構わないし、無理にだったり強制しなければ俺やモニカさんなど、クランの創設メンバーが許可すればクラン員に組み込む事なども決まった。

 クランはクラン員の面倒も見なくてはならないため、ある程度の初期運営資金は冒険者ギルドから出る事も引き出すなど、俺が特に気にしていなかった部分を詰めて考えてくれるので、モニカさんがいて良かったと思う。


 まぁ、クラン員の面倒をと言っても、事務関係をしてくれる人以外は依頼をこなしてもらったりするので、そちらの報酬で生活してもらうのは今までと変わらないから、最低限くらいらしいけどね。

 クラン専用の建物を用意するところもあるらしいし、人を集めるために色々と用意するクランも会ったり据えるけど、そこらは結局創設メンバーなどのクランを作る人次第だとか――。



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