第931話 王国と帝国の国力の違い



「はぁ……助かったわ」

「いやまぁ、俺が連れてきたんだからあれくらいはね。ここで暴れられても困るし」

「さすがに先程のは、私だけでなく陛下にも危害が及びそうだったからな。リク殿、私からも感謝する。よく抑えてくれた」


 姉さんとヴェンツェルさんがホッと息を吐き、俺に感謝するように頭を下げた。

 ソフィーやフィネさん、アルネやフィリーナ、エフライムやヒルダさんも同じくホッと息を吐いていた……ユノは特に気にしていない様子だったし、モニカさんは笑顔のままだったけど。

 ……モニカさんの笑顔が、不穏なオーラのようなものを放っている気がするけど、気にしない。

 こうなったのは、クラウリアさんの話をした後、ハーロルトさんが部下を呼んで一緒に連行して行った事の影響だ。


 まぁ、簀巻き状態なのは相変わらずだったから、連行というより担いで運ばれただけだけど。

 その際、抵抗しようとしたのかクラウリアさんが、漏れ出す魔力を使って魔法を使う準備をしていたんだ。

 ヘルサルにいた時と同じように俺も可視化された魔力を部屋全体に広げて、クラウリアさんを脅して抵抗を止めさせた。

 一部を除いてホッとした雰囲気になったのは、クラウリアさんが魔法を使わなかったからであって、俺が可視化された魔力を放出したからではないと思いたい。


「それにしても、ヘルサルでのゴブリンも帝国の仕業だったとはね……」

「まぁ、はっきりと帝国そのものとは確定していないけど、クラウリアさんやツヴァイのいた組織がやったのは間違いなさそうだね。クラウリアさんの話が本当なら、帝国そのものとも深く拘わっているんだろうけど」

「そうね。ここまでの繋がりを考えると、やっぱり帝国が関係しているのはもはや疑いようがないわ。元々怪しんでいたし、そうだとは考えていたけど」


 なんとなく、王城への魔物襲撃やルジナウムでの魔物集結などは、組織や帝国が裏で手を引いていた……というのは考えていた事だ。

 でもゴブリンの大群がヘルサルに押し寄せたのも、組織が……というかクラウリアさんが行った事だというのは、姉さんやヴェンツェルさんも予想外だったようだ。

 ゴブリンを集め、大群と成すのがゴブリンロードの特性のため、偶然ヘルサルの近くに発生したと考えていた。

 俺が消滅させちゃったから、はっきりとゴブリンロードを確認したわけではないけど、ゴブリンジェネラルだとか様々な状況からいたんだろうとなっている。


 それが、クラウリアさんの証言でゴブリンロードを核から復元し、ゴブリンを集めて襲撃させたと、組織の関与どころか主導していたと判明したわけだからね。

 エフライムやレナが誘拐されていた事も考えると、相当前から帝国はアテトリア王国に狙いを定めていたと考えられる。

 まぁ、バルテルが深く帝国と拘わっていた事からも、長い期間だとわかるけど。

 一カ月や二カ月で、貴族と内通して色んな根回しや策略を巡らせるのは難しいからね。


「……陛下、祖父とも連絡を取り合い、おそらく帝国との衝突は避けられないだろう……と考えておりますが……」

「それは、私も考えているわ。これだけの事をされているのだから、王国としても帝国と敵対するのは避けられないからね。……リクの活躍があったおかげで、被害は驚く程少ないけど」

「ですな」


 エフライムが腕を組んで俯き、考えながら発現。

 それに対し、姉さんやヴェンツェルさんが頷いて同意する。

 平和主義とか戦争反対とか、色々考える事はあるけどここまで来たらそうなるのも仕方ないと思う……ツヴァイの研究施設を潰した後の報告会でも、そういう話になったし。

 どうあっても外交で国同士の衝突を避けようとするのではなく、この世界ではまだまだ戦争が行われるのもそれなりにあるらしいからね。

 さすがに、日常とまではいわないけど。


「ゴブリンの大群、王城襲撃、ルジナウムでの魔物集結……陛下、帝国は魔物を使って来るのでしょうね……」

「組織と帝国の拘わり次第ではあるけど、使わないと楽観視はできないわ。そもそも、王国と帝国で国の規模はこちらが勝っている。であれば、向こうが侵攻しようとするのなら、何か特別な手段を考えているはずよ」

「……そ、そうなんだ」

「ん、リク殿。何かあるのか?」


 これまでの事を考えたら、帝国が戦争時に魔物を使うのは当然だろう。

 組織が帝国と一切関係ないとかならともかく、おそらくその可能性は限りなく低いんだろうし。

 エフライムの考えに同意する姉さんの言葉を聞いて、ちょっと気になる事があったけど……今聞く事でもないので、とりあえず俺も同意するだけで済ませた。

 ……はずが、ヴェンツェルさんにぎこちなく頷いたのが見られたようだ。


「えっと……いえ、今聞く事でもないので、後にします」

「リク殿が気になる事、となると重大な事のように思えるが……」

「大した事じゃないですから、ほんとに」


 話の流れを切るのは申し訳ないし、本当に大した事じゃないので、後回しにしてもらう。

 俺が気になったのは、姉さんがアテトリア王国と帝国を比べたら、王国の方が規模が勝っている……と言った事だ。

 確かに以前、帝国はあまり大きくない領土だとか聞いた事があるような気はする。

 けど、帝国って事はいくつかの国を支配しているはずだから。


 皇帝というのは、支配している国や国王の上に立つ人への称号でもある。

 だから、いくつかの国が一つの帝国になって存在しているなら、単一で存在するアテトリア王国よりも規模が大きいと考えていたんだけど、違うのかな? と。

 歴史とか地理とかの話になるから、話しが逸れてしまいそうだし、重要じゃないから今聞かなくてもいい事なんだけどね。

 後々、姉さんやヒルダさんから話を聞いてみたら……。


 なんでも、帝国は百年以上前に小国のいくつかが一つになってできた国らしい。

 今の皇帝の何代か前の皇帝……当時は一つの国の国王だったらしいけど、その人が武力を持って周囲の国を侵攻、占領して統治したらしい。

 その際に、帝国として国の形態が変化したとかなんとか……侵攻された側の国王達は、最後まで抵抗した一部を除いて降伏、服従を誓って帝国貴族になっているらしい。

 とは言っても、帝国内での権力は各街の支配権くらいで、中央集権制の帝国皇帝やその付近の重鎮程はないとか。


 ちなみにその小国というのも、ヘルサルよりも人口が少ないくらいの国々だったらしく、帝国が生まれなければ、アテトリア王国が領土を広げる事になっていた可能性もある、と言われた。

 帝国に対し、アテトリア王国は貴族制度ではあるけど絶対王政を敷いており、他国への侵攻は積極的にはしていない。

 ただ、帝国になった頃には既に大国として広大な領土を持っており、それ危機感を持った初代皇帝が周囲の国々を一つにして抵抗しようと考えた……という事でもあるらしい。

 アテトリア王国には侵攻の意思がなくとも、いつ自分の国が奪われるかという恐怖を振り払えなかったため、行動に出たのだろうと姉さんは言っていた――。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る