第930話 王城にいた人達への事情説明



「管理が容易になるのは助かるな」

「畑は周囲を見渡せる場所が多いため、魔物の接近には気付きやすいので逃げるだけなら簡単だが……食物を生産している関係上、被害に遭う事が多い。出入口以外では侵入ができず、そこを重点的に見ていれば不届き者の出入りも管理できるとなれば、被害に遭う作物が減る。それだけで国の生産力は上がるだろう」

「そうですね……少なからず魔物の脅威にさらされる事で、収穫できる作物も減ってしまいます。それが全てではなくとも、ほとんどなくなると考えれば……それだけでも生産力は跳ね上がるでしょう」


 ヘルサル農園での事を話し、姉さんやエフライム、ヴェンツェルさんやハーロルトさんがそれぞれ唸りながら感心している。

 まぁ、姉さんはスイカが多く食べられそうな事が嬉しいようだけど……俺も嬉しいから気持ちはわかる。

 畑の管理がしやすくなるのは、特に興味を引いたようだね。

 とは言っても、結界を使うから範囲を限定する必要があるし、俺が張り直したりしない限り広げようとしてもすぐにはできないとか、必ずしも便利な事ばかりじゃないけどね。


 あと、ヘルサルは魔力溜まりがあるから作物の成長が早いだけだし。

 それでも、魔物からの被害を減らせるなら、駄目になる作物も減るから魅力的なんだろう。

 温度管理が魔法具によってできるようになれば、気候的に難しい物も作れるだろうし、場所ごとに集中して別々の作物を栽培する事だってできる。

 今更ながらに、姉さんがハウス栽培に力を入れる理由がよくわかるね。


「それでヘルサル農園の様子を見た後は、獅子亭の手伝いをしばらくしていたんだけど……そろそろ落ち着いてエルフの集落に行こうか、というところで……」

「……カーリンと会ったのか。リク殿、姪のカーリンが世話になった。助けてくれた事、感謝する。最近はあまり会えていないが、あの子は昔から料理を楽しそうにしていたからな……弟子になった先も、マックスであるなら安心だ」

「会ったのは本当に偶然なんですけどね。人手が足りなかったので、マックスさんも喜んでいましたよ」


 ハウス栽培の話はまた別に詳しくとし、カーリンさんを助けた事へと移る。

 伯父にあたるヴェンツェルさんは、カーリンさんがヘルサルへ行っていたのを初めて聞いたらしいけど、マックスさんのところへ弟子入りした事を喜んだり、俺に頭を下げたりしていた。

 まぁ、命が危ないという状況ではなかったけど、お金を盗まれたんだから路頭に迷う事になっていたかもしれないからね、偶然でも助けられた良かったと思う。

 それに、昔からよく知っている親友でもあるマックスさんに弟子入りし、マリーさんもいるのだからヴェンツェルさんとしても安心なんだろう。


「アメリの事と言い、リクが拘わる相手は何かに繋がっている事が多いのね……」

「狙っているわけでもないし、そんな事狙えないとは思うけど……どうしてかそういう事が多いんだよなぁ…」


 偶然ばかりで狙っていたわけじゃないんだけど……姉さんが呆れ気味に言うのもわからなくもない。

 俺が誰かを助けたり何かに巻き込まれると、必ずどこかで何かに繋がっている状況が多いからね。

 仕組まれているわけではないだろうし、全てではないと思うんだけど……ほんと、どうしてそうなるのか。


「ん? もしかして……?」


 ユノが話をしているだけなのに、ニコニコしているのが気になったのと同時、頭の中でもしかしてという考えが浮かぶ。

 ただ、さすがにそこまでの事はないだろうと、頭を振って考えを打ち消し、話の続きをする。

 今はそちらの方が重要だし、俺が考えた事はそのうち聞いてみればいいだけだからね。


「で、エルフの集落から戻ってきた時に……」

「そこから、そこで簀巻きになっているのに繋がるのね」

「カーリンからの話が、そう繋がるわけか」

「組織から抜け出した者、ですか……」

「ふぬ? ふぬぬーっ!」


 エルフの集落での話は、ハウス栽培にも繋がる事なので後回しにして、まずクラウリアさんの事。

 皆との話を始めてから、床でスヤスヤと寝始めたクラウリアさんは、皆から注目されて何か気配でも感じたんだろう? 起きて身動きが取れない状況を思い出し、またビチビチと跳ね始めた。


「成る程ね……ツヴァイと一緒か。それはさすがに、街の者達の手には負えないわね。――ヴェンツェル、ハーロルト?」

「はっ。直ちにツヴァイと同じ処置をするよう手配いたします!」

「ツヴァイとは別方向からの情報が得られるのは大きいですね。リク殿が聞き出した話しが真実かどうかの確認も含めて、確実に情報を引き出します」

「ふぬぬ!? ふぬ、ふぬぬぬーっ!」

「クラウリアさん、ちょっとうるさいからおとなしくしてて欲しいんだけど……」

「ふぬーっ! ふーぬーっ!」


 ヘルサルでの騒動を話を終え、クラウリアさんの事を伝えると、すぐに姉さんがヴェンツェルさんとハーロルトさんに指示。

 というより、二人共やる気だしどうするかを予め考えていた様子だ。

 クラウリアさんは、皆から注目されて……特にハーロルトさんに見られて不穏な気配を感じたのか、はげしくビチビチと体を動かす。

 可視化された魔力もお漏らししているし……ちょっとうるさいなと思ったので注意しても、静かになってくれない。


「これは……確かにツヴァイと似ているな……」

「そういえば、ヴェンツェルはリクと一緒にツヴァイを捕らえたのだったか」

「はっ、陛下。ローブを身に纏い、可視化できるほどの膨大な魔力を放出している姿は、異様でした。ツヴァイはエルフで、我々人間よりも元の魔力量が多いはずですが……この者はどう見ても人間。それでツヴァイと変わらぬ魔力を持てるというのは驚きです」

「ツヴァイもこの者も、魔力を与えられたようだけどね。まぁ、リクの話では魔力の大元はわからないそうだが……」

「その事も含め、情報を引き出します」

「まぁ、リクへ嘘を吐いていないのであれば、協力的なのだから難しい事ではないし、無理矢理にもならないわね。嘘を言っていた場合は……」

「はっ、ツヴァイと同様に……」

「ふぬぬ!?」


 クラウリアさんから漏れ出た魔力を見て、ヴェンツェルさんが頷く。

 地下研究施設にはヴェンツェルさんも一緒に入って、俺がツヴァイを倒すところも見ていたから、これくらい近くで見ればわかるんだろう。

 おもあれ、情報の引き出しというか取り調べに関してはハーロルトさんが担当するらしく、意気込んでいる。

 協力的であれば、あまりひどい事はされないと思うけど……その後の罰とかは、俺が関与する事じゃないし。


 俺に話した内容がもし嘘だった場合は……と、姉さんとハーロルトさんが不穏な空気を醸し出しているのを感じ、体を硬直させるクラウリアさん。

 まぁ、事ここに至っても魔法を使って抵抗とかしていないから、嘘は言っていないと思うんだけど、とりあえず静かになってくれて良かった。

 ビチビチしながら俺に近付いて来ようともしていたので、モニカさんがクラウリアさんを睨んでいたり、不穏なオーラを放ちながら足を引っ張って距離を離したり、ちょっと怖かったからね。

 ……ソフィー達や姉さん達は、そんなモニカさんを見て見ぬふりをしていたけども……触らぬ神に祟りなし、とかかな? いや、神様はユノだけど――。



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