第906話 治安悪化の原因



「そういえば、ツヴァイもそうだったけど……クラウリアさんは毒を仕込んだりしていないの? 直接聞くのもどうかと思うけど」


 組織に所属している人達は、自分から情報が漏れる事を防ぐために、仕込んだのか仕込まれたのか……口の中にある毒を使う事がある。

 ヘルサルで捕まえた人も同様な人がいたみたいだし、幹部にまでなったクラウリアさんなら当然仕込まれていると思うんだけど……。


「あ、ありますよ。見ますか? あー……」

「いや、見せなくてもいいんだけど」

「そうですか? 残念です」

「何を残念がっているのか、俺にはよくわからないけど……ともかく、クラウリアさんは自分でその毒を使ったりはしないんだね」


 というか、魔力か何かに作用させてなのか、情報を漏らそうとしたらその毒を取り除かれていない人は、意思とは関係なく使用される……とかなんとか聞いたようなkもするけど。

 ともあれ、毒の事が気になると言ってもさすがに口の中を覗き込んで見る趣味はないからね。

 口を開けて見せようとしてきたクラウリアさんには、はっきり断っておく。

 そこで残念がられるのはよくわからないけど。


「使いませんよー。私は死にたくないから、組織に返り咲こうとしていたわけですし。そうじゃなければ、さっさと毒を使っていますから」

「まぁ、それはそうか……」

「私から離れた元部下達は一部、それを嫌って自分で毒の仕込まれた歯を抜いたり、とかしていましたけど……女の子がする事じゃありませんから、私はそのままです。それに、与えられた魔力のおかげで自分で使う以外、他の意思を介在させないようにできましたから。幹部になれたおかげですね!」

「そ、そうなんだ……まぁ、それはいいか……」


 一度は幹部になれた事を、自慢するように話すクラウリアさんだけど、俺にはその組織の何がいいのかわからないので、一切自慢になっていないというのはともかく。

 部下というのが気になったので聞いてみると、ヘルサルで治安を悪くしている原因だった人達は、元々クラウリアさんの部下だったらしい。

 組織から身を隠すために、表立って働いたりする事もできないため、外から人が多く来ているこのヘルサルに紛れていたとか。

 ただ、働かない以上収入がないわけで……一部の部下や元部下が、勝手に行動した結果が治安への影響が懸念されるような事態になったのだとか。


 そのうえで、クラウリアさんの下を離れた元部下達は、毒が仕込まれているのを嫌って自分で歯を抜いたりしたらしい。

 毒を仕込まれたままの人は、クラウリアさんの部下だったという事で、ヘルサルで問題を起こして捕まった人達の中で、毒の有無はそこで別れていたんだろう。

 部下のままの人達はともかく、クラウリアさんから離れても捕まった際に情報を渡さず、ただヘルサルへ集まるだけみたいな感じで話していたのは、組織だけでなくクラウリアさん達からの報復を恐れての事だろう、と予想してた。

 まぁ、クラウリアさんも元々は組織にいた人間だから、口封じをするくらいわけないだろう。


「えーと、それじゃヘルサルに紛れてなんとか生き延びながら、機会を窺ってこの街を潰せば、組織に戻れると考えた……ってわけだね?」

「はい……部下もどんどん離れて行っていましたし、部下も捕まったり数が少なくなっていったので、さっさと行動に移さないといけないと思い……まぁ、こうして阻止されたわけですけど」

「うーん……」


 まぁ、今回の騒動を起こした理由はわかったけど……本当にそれで組織に戻れたのかは、疑問だ。

 情報が漏れないよう、毒を仕込んだり処分したりといった事をしている組織だから、一度離れた人間を迎えるとは思えない。

 クラウリアさんは、手柄さえ立てれば戻れると考えているようだけど、それはちょっと難しいと思う……なんにせよ、こうして俺に止められているから、叶わない事なんだけどね。


「まぁ、そもそもあれだけの爆発とか、こんな規模でヘルサルを潰せると思うこと自体があれだけど……」

「あれ!? あれってなんですか!?」

「いやまぁ、だって……クラウリアさん自身は魔力が与えられて、強力な魔法も使えるんだろうけど……爆発の規模とかを見る限りねぇ……?」


 正確な人数はわからないけど……爆発自体散発的にだったから、多くの人を使ってというわけではないんだろう。

 冒険者ギルド付近や、行政区画に偏っていたのも人数を考慮してだろうし……本当ならもっと広い範囲で大規模に、同時に事を起こした方が効果的だと思う……俺が考える事じゃないか。

 まぁ、その中でも街の主要部を狙っていたのは、冗談とかではなく本気だったからだろうけど。

 爆発させている人の魔力には限界があるし、広いヘルサルの全体を爆破する事はできないうえ、ヘルサルには当然衛兵さん達や冒険者がいて、阻止しようと動くはず。


 少ない人数で頑張った方なのかもしれないけど、元々不可能な計画だと言わざるを得ない。

 小さな建物はともかく、大きな建物すら倒壊させられていないのが、その証拠だろう。

 あと、クラウリアさん自身は確かに可視化された魔力を滲み出せる程、多くの魔力量なのは間違いなくても、それだって街一つ破壊できるわけじゃない。

 それに、魔法を使えば魔力が減るのは当然……一人で、街にいる全ての人を相手にはできないだろうからね。


 魔法そのものは強力だし、一対一だったらクラウリアさんに敵う人はほとんどいないだろうけど、いずれ力尽きるのは目に見えているから。

 犠牲は出るだろうけど……まぁ、その前にこうして降参させたんだから、良しとしようか。


「さて……まぁ、もっと深い事情……組織に関する事は俺だけじゃなく、皆がいる時に聞いた方がいいか」

「なんでも聞いて下さい、なんでも答えますよ!」

「いや……答えてくれるのはありがたいけど、どうしてそこまで……」


 ツヴァイと違って、こちらの問いに答えてくれるのはありがたいけど……本当かどうかはともかくとしてね。

 けど、組織に戻ろうとまで考えていた人が、組織を裏切るような事をしていいのかな? とは思う。


「先程の魔法、そしてそれでも衰えない魔力……私には決して敵わない相手だと悟りました。そして、組織の事なんかも一緒に吹っ飛びましたから! 私は、あなた様の忠実なしもべです!」

「しもべって……さすがにそれは……まぁ、魔力や魔法を見て、叶わないと感じて変に抵抗したりされるよりはいいのかもしれないけど……」


 変な意味で懐かれた……かな?

 情報を引き出すために、問いかけには答えるようにというのも含めて、時折怒りと一緒に魔力が滲み出ちゃったりもしたけど。

 これでいいのだろうか? と思ったりもするけど、まぁ、話を聞いた後はクラウスさんとか街や国に引き渡せばいいだろうから、気にし過ぎなくてもいいか。


「まぁいいや。とにかく街の方も落ち着いたようだから、連行するよ。……クラウスさんの方へ連れて行けばいいかな。じゃ、行くよ? もし抵抗したり、逃げようとしたりしたら……」

「ぴぃ! 絶対に抵抗したり、逃げたりしません! ですけど……」

「ん?」

「その、足が動かないんですけど……?」

「あぁ、そういえばそうだった。んー、焼けば融けるかな?」

「熱そうなので止めて下さい!!」



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