第907話 騒動を起こした張本人を連行



 とりあえず、クラウリアさんの凍った足が動かせるようになるまで、暇だったので戦闘の影響で抉れていた地面の整備をする事にした。

 結界で防いだけど、俺に爆破魔法を集中させた事もあって、一メートルくらいの穴以外にも結構荒れていたからね。

 ……穴に関しては、俺が空から落ちたせいだけども。


「はぁ……まったく。好き勝手やってくれて……ここは街の中なのに……」


 愚痴るように呟きながら、土に魔力を這わせて平坦な地面にしていく。

 爆発したり穴が開いたりしたけど、別に土そのものが消滅したわけでもないからね……この場所に建物がなく、開けた場所で良かった。


「いや……そのうち広範囲に地面を抉ったのは、貴方様なのですけど……いえ、なんでもありません!」


 俺の呟きに反応し、ようやく凍った足の外側が溶け始めていたクラウリアさんが、何かを言っていたので視線を向けると、すぐに口を閉ざした。

 そりゃまぁ……言われなくても実際に一番荒らしたのは俺だってわかっているんだけどね。

 魔法で囲んでいた人達を吹き飛ばした時、やり過ぎてしまったために、地面はかなり抉れていたから……クレーターとかまではさすがにいかないけど。

 ともあれ、それらの地面をならし、吹き飛ばされて気絶していたり動けなくなった人達を、適当に引きずって移動させ一か所に集める。


 とはいえ、捕まえて縛るための物は何もなかったので、ついでだと土を使って縄のように固めて縛っておく事にした。

 土の縄が、鉄くらい固くなっていたり、締め付けが強すぎるような気もしたけど、呼吸は問題なくできているようなので大丈夫そうだ。

 あとはそいつらの服を一部破って、口の中に突っ込んで毒を使われないように対処しつつ、後で回収してもらう事にする。

 一人や二人なら運べるだろうけど、十人以上いるから俺一人で運ぶのは無理だからね。


「男女構わず服を破って……なんて野性的な……」


 俺が最初に魔法で吹き飛ばした人達は、男性も女性もいたんだけど……口に服の一部を突っ込むために、服を破っていたら何故かクラウリアさんは、目を輝かせていたりもした。

 確かに男女関係なく服を破ったけど、別に肌を多く露出させるほどじゃないんだけどなぁ……袖の一部だし、猿ぐつわみたいに、口をかみ合わせないようにするだけだから。

 ともあれそうこうしているうちに、クラウリアさんの足下が溶け、固めていた氷が薄くなって脱出。

 ようやく自由になったクラウリアさんだけど、足が冷たいだとか、冷えたからまともに歩けない……なんて言い出した…。


 それなら温めようか? と炎の魔法を使う準備を始めたら、慌てて足が問題なく動く事をアピール。

 ……慌てるくらいなら、最初から言わなきゃいいのに……まぁ、本当に足が冷えてしまい、歩きづらそうにはしていたけど。


「ふんふんふーん……」

「なんでご機嫌かわからないけど、とりあえずあまりくっ付かないで……」

「えー、いいじゃないですかー!」

「良くないから。……よし」

「むー! なんか壁があります! 心の壁が!」

「いや、心の壁どころか本当に壁を作ったんだけどね……」


 クラウリアさんの部下たちは拘束したまま放置して、とりあえずクラウスさんの所へ連行しようと移動を開始。

 エルサが向かった方へ行けば、行政区画だろうしクラウスさん本人じゃなくても誰かいるだろう、と向かっていだけど……連行しているはずのクラウリアさんは、なぜか上機嫌で鼻歌を歌いながら、俺にくっ付こうとしてくる。

 逃げようとしたり、反抗しようとしないのは楽でいいけど、あまりくっ付かれたら歩きにくい。

 手で押して距離を離そうとしても、まとわりつこうとしていたので結界を発動させ、クラウリアさんを物理的にくっつけないようにしておいた。


 心の壁はともかく、本当に見えない壁があるからこれで問題なく歩けるね。

 ちなみにクラウリアさんは、移動を開始する前にローブのフードを取っており、顔を見せている。

 綺麗な長い金髪で、おそらく二十代くらいだろう……美人と言って差し支えない見た目をしていた。

 ツヴァイのように特徴的な耳をしているわけでもないので、クラウリアさんは人間で間違いなさそうだね。

 

「ク、クラウリア様……?」

「おとなしくしろ!」

「いやー、おとなしく捕まってようねー」

「……自分が指示したのに、随分軽いなぁ」


 クラウスさんやエルサがいるだろう場所へ向かっている途中、各地では爆破工作をしていた人達が衛兵さん達に取り押さえられていた。

 何人かはクラウリアさんに気付き、結界に阻まれながらも俺におとなしくついて来ている事を疑問に思ったのか、声を出したりしていたけど、抵抗しようとしたりした人は衛兵さんに怒られている。

 クラウリアさんからも、押さえられている人達に声をかけていたけど……自分の部下だったり指示した張本人なのに、言葉は軽かった……。

 なんというか、さっき話している時からそうだけど、クラウリアさん本人はあまり罪の意識とかなさそうだなぁ……だからこそ、自分のためにヘルサルへ爆破工作を仕掛けたのかもしれないけど――。



「あ、リクだわー。終わったのだわ?」

「エルサ、ご苦労様……かな。うん、頑張ったみたいだね」

「……お、おっきいモフモフ……」

「加減するのに苦労したのだわー」


 しばらく街の中を歩いて、行政区画に入って一番大きな建物……おそらく庁舎とかそんな感じの建物前にある、大きな広場でエルサと合流。

 周囲はいくつか爆破された痕があるけど、ほとんど物が壊れていないようなのでエルサが頑張ってくれたんだろう。

 足元には数人が倒れていて、それぞれ意識を失っているくらいなのでやり過ぎてもいないようだし、エルサが言っている通りちゃんと手加減したんだね。

 まぁ、さっき俺に向けられた爆発の魔法の威力を考えると、エルサには一切効かないだろうし、むしろ踏み潰さないようにする方が難しかったのかもしれない……後で、ちゃんと労ってキューを上げないと。


「はぁ~、やっぱりリクの頭が一番落ち着くのだわ~。……わかっているのだわ?」

「はいはい、あとでちゃんとおやつのキューはあげるから」

「さすがリクなのだわー。それで、この人間はなんなのだわ? さっきからこっちに手を伸ばしているけど……結界に阻まれているのだわ?」

「あー……この人が今回の首謀者みたいで、捕まえた……とは言えない状況だけど、とりあえず連れて来たんだ」

「ふぬー! んぬー!」


 俺が来た事で安心したというか、やる事は終わったと考えたんだろう、小さくなったエルサが俺の頭にドッキングする。

 遠回しにキューを要求しているようなので、忘れず後であげる事を約束。

 そんな中、先程から結界に阻まれながらもエルサへと手を伸ばしているクラウリアさん……おそらくモフモフを触りたいがためなんだろうけど、とりあえずこのままにしておこう。


「えっと……すみません、クラウスさんは?」

「はっ、リク様! クラウス様はあちらで街への指示をされておいでです!」

「あ、確かにいますね。ありがとうございます」

「はっ!」


 とりあえずクラウスさんと話を……と考えて、近くにいた衛兵さんに居場所を聞いてみると、広場の端、建物の入り口付近を示された。

 そちらでは、クラウスさんが人を集めて何やら指示をしているような様子が見られる。

 さっきまで、大きくなったエルサに隠れて見えなかっただけか。

 エルサ、ちゃんと建物を背にして守るようにして戦っていたんだな……キューは奮発しよう――。



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