第905話 ローブの女性との話



「……確かに、街の方で爆発するような音は聞こえなくなったね」

「でしょ? いや~私ってやればできるもんで……」


 耳を澄ませてみると、さっきまで散発的に聞こえていた爆発音は一切聞こえなくなった。

 その代わりに、人の叫び声が聞こえるけど……多分、工作をしている人達が急におとなしくなったので、取り押さえようとしているんだと思われる。

 でも……なんで目の前の女性がちょっと照れているんだろう? 確かに、さっきの魔法の合図で爆破工作自体は止まったみたいだけども。

 元はと言えば原因でもあるのに……まぁ、調子に乗りやすい性格なんだろうと思うけど。


「足下を凍らせて照れてもなぁ……」

「貴方様が凍らせたんですよ!?」

「いや、元はと言えばそっちの魔法なんだけどね……それはともかく、えっと……」

「あ、私の事はクラウリアとお呼びください。組織では、フィーアと呼ばれていましたけど」


 ローブの女性を前に、まずは何から聞こうかと考えていると、呼び名を名乗ってくれた。

 いつまでも怪しい女性とか、ローブの女性というのはちょっと面倒だったから助かるんだけど……組織では別名で呼ばれていたらしい。


「フィーアっていうのは? 素性がバレないようにとか、そういう呼び名でもあるの?」

「いえ、幹部になると名を与えられるのです。ツヴァイも同様でしたよ」


 コードネームみたいなものかな? 


「とは言っても、もう別のフィーアと呼ばれる者が組織にはいるかもしれませんけど……」 

「代替わりというか、クラウリアさんがいなくなったから?」

「はい。私がフィーアと呼ばれていたのも、幹部だったためです。その地位に就く人物が誰であれ、役職と呼び名は一つのものなので……フィーアは、王国への工作を担当していました。ツヴァイは、研究部門ですね」

「成る程……そういう事ね」


 役職名で呼ぶのと同様と考えて良さそうだ。

 確かに、ツヴァイは研究施設で研究をしていたようだし、俺が爆発するオーガに対処していたのも興味がありそうだった。


「幹部になれば、全員魔力を分け与えられます。他にも、試験的に魔力を与えられた人間がいますが……適合するかは運次第ですね」

「運なんだ……って事は、もし適合しないと?」

「自分の魔力と与えられた魔力がぶつかり合って、最終的に暴走します。その後は、大体想像がつくかと……」


 フィリーナやヴェンツェルさん達が、研究者達と一緒に搬送している途中で、魔力が暴走して壮絶な死を遂げた人物。

 おそらくクラウリアさんが言っているように、その人も試験的に魔力を与えられ、そして適合しなかったのだろう。


「大体数カ月程、何事もなく与えられた魔力が使用できれば、定着したとされています。とは言っても、与えられた直後から魔力を上手く扱えなくなったりという、異変がある人物は大体適合しません。私は、幸い与えられた魔力に適合したので、そのまま幹部としての地位に就いていました」

「適合しているかは、しばらく様子を見ないとわからないと。でも、異変がある人は……?」

「結果はわかりきっているので、ほとんどがアテトリア王国での活動に派遣されます。まぁ、自分達のところで暴走するくらいなら、工作を仕掛けている方で暴走しろ……という事らしいです」

「はた迷惑な……」


 魔力を与えられた人もそうだけど、それを責任もって管理するでもなく、とりあえず何かの役に立たせながらいつ暴走しても自分達に損害が出ないように……という事だろう。

 ツヴァイの研究施設だけでなく、ブハギムノングにいたモリーツさんやイオスを見ていて、魔物だけでなく人の命すら、道具としてしか見ていないというのがよくわかる。

 まぁ、そもそもそういう考えじゃなければ、魔物を多くの人が住む街に向かわせたりしないだろうけどね。


「それで、クラウリアさんはヘルサルにゴブリンを……と言っていたけど、どうやったの?」

「あぁ……貴方様に名前を呼ばれる光栄……んんっ! それはですね……」


 何故か、名前を呼ぶと一瞬だけ恍惚とした表情になるクラウリアさん。

 なんというか、変に懐かれてしまったというかなんというか……。

 ともあれ、ヘルサルに向けてゴブリンをけしかけた時の事を話し始めるクラウリアさん。

 ゴブリンロードを使って、という俺が知っている情報との齟齬がないようで、本当に組織からの命令で作戦を指揮していたのは間違いないようだ。


 なんでも、ゴブリンロードの核を発見し、それを復元しつつヘルサルの付近まで運ぶ。

 そこで完全に復元させて、しばらく待つ事で自然とゴブリンの大群ができ上がったらしい……とは言っても、他のゴブリンの核も復元をしたり、別の場所から捕まえて連れてきたりと、結構苦労をしたらしい。

 ゴブリンは知能が低いから、人間と見たら襲い掛かってきたりと管理も相当大変だったと言っていたけど、ヘルサルを潰すための苦労なんて、俺が知ったこっちゃない。

 ちなみに、ヘルサルも含めて周辺に知られなかったのは、ツヴァイの時と同じように地下に施設を作っていたかららしい……地下好きだなぁ。


 ツヴァイの研究施設とは違い、元々ゴブリンをけしかけたら放棄する場所だったので、居住性だとかは考えられておらず、ひたすらだけの広い地下だったとか。

 そうして、自然に集まるのに任せるだけでなく、手も加えた事で伝え聞いている数よりも多くの数が集まったそう。

 これなら確実にヘルサルや周辺の街や村を潰せる……と勝利を確信していたのに、俺の魔法で一瞬にして消え去ったと……。

 ちなみに地下施設はどうなったのかと聞くと、俺が魔法でゴブリンを消し去った時、一緒になくなったらしい……あそこにあったのか。


「もうほんと、あの時は何が起こったのか数日くらいわかりませんでした。心血注いで用意したゴブリンは一瞬で消されるし、地下の施設もなくなる。組織の方では貴重なゴブリンロードの核を失わせただけだと、追及されるしで、散々でしたよ」

「被害者みたいな事を言っているけど、ゴブリンを使ったクラウリアさんが悪いよね? 組織もそうだけど、平和に暮らしている人達に、ゴブリンをけしかけるなんて……」

「ぴぃぃっ!!」

「はぁ……もう済んだ事だし、ゴブリンはなんとかなってほとんど被害らしい被害はなかったから、今更怒っても仕方ないか……」


 自分が被害者のように話すクラウリアさんだけど、実際の被害者は俺達やヘルサルに住む人達だ。

 組織が大元なのは間違いないけど、所属して参加していたクラウリアさんも同罪だろう。

 罪悪感すらないような態度に、ちょっと滲み出た怒りと共に可視化された魔力が出でしまったけど、変な声を出して怯えるクラウリアさんを見て、溜め息と一緒に怒りを吐き出して自分を落ち着かせた。

 今ここで、怒りに任せてクラウリアさんをどうにかしても、あの時の事がなくなるわけじゃないし、そもそも人的な被害は出ていないからね。


 とりあえず、引き出せる話を聞くだけ聞くのが先だ。

 その先は……まぁ、国の法で裁かれるだろうけど――。



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