第904話 組織からのはぐれ者
女性が言う組織というのは、ツヴァイがいた組織で間違いないだろう。
ツヴァイの事を知っていたし、魔力量も通常では持ちえない量を持っているから。
これまでの事から、なんとなくアテトリア王国に対して様々な妨害とか攻撃的な意思を持っている、と想像していたけど、女性の話が本当なら明確に敵対的な意思を持って行動しているという事か
「所属していたっていうのは?」
「……組織に所属し、私は一時幹部にまでなりました。その結果が、先程見せた魔法や魔力です。ですが私が行った作戦が失敗し、降格……のちに組織から追放、そして処分される事が決まりました」
「処分? 追放しているのに?」
「はい。授かった魔力は、その者と同化しているため引き剥がせないのです。その魔力を持って、組織に盾突く事や情報を他へ漏らさないように、との意味もあり、追放された者は処分されます」
「成る程ね……」
まぁ、いわゆる口封じみたいなものだね。
幹部にまでなれた人なら、それなりに情報を持っているのは間違いない……ツヴァイと同等くらいだと思うけど。
それでも、情報を漏らさないためと、厄介な裏切り者にならないために処分する……やり方としては絶対賛同できないけど、機密を守ると考えたら合理的なんだろう。
「でも、それならなんでヘルサルを? 処分される組織から逃げている……とかならわかるけど、目立つ事をしない方がよさそうなもんだけど」
「それは……組織に返り咲こうと、考えました」
「返り咲く? そんな事できるの?」
「それはわかりません。ですが、私が失敗した作戦というのは、元々ヘルサルを潰すのが目的だったのです。できる事なら、周辺の街や村をも巻き込んで……」
「……成る程……」
「ひぃ! こ、こんな魔力が……」
「おっと……失敗したんだし、今回も同じく失敗だろうから、落ち着かないと……ふぅ」
失敗した作戦というのはわからないけど、この女性が元々ヘルサルや周辺の街や村を潰すつもりだった、というのはわかった。
お世話になった人達が多くいる街を潰す、と言われて思わず怒りともに魔力が可視化して滲み出てしまった……女性がそれを見て怯えたので、深呼吸して自分を落ち着かせる。
ちなみに可視化された魔力は、女性含めこの辺り一帯を包む程だったので、ローブの女性が可視化させていた魔力どころではない……実は俺自身驚いていたりする。
「あれ程の魔力……お、恐ろしい……まるで、あの時失敗した原因の魔法を見ているようだった……」
「ん? 失敗した原因の魔法?」
「え、あ、はい……そもそも今回の事は、以前の作戦程ではなくとも、ヘルサルをどうにかすればその功績を持って、組織に返り咲こうとしたのが目的なのですが……前回失敗した際に、ヘルサルへけしかけた大量のゴブリン達を、一度に全て消し去った魔法を見まして……」
「ゴブリンを……それって……」
間違いなく、俺が使った魔法だよね? 大量のゴブリンって言っているし、他にヘルサルにゴブリンが多く襲い掛かって来たなんて話は聞いていない。
それに、一度の魔法で消し去った……というのは、俺があの時ほとんど我を忘れた状態で使った魔法の事だと思う。
「先程見た貴方様の魔力、あの時にゴブリンを消し去った魔法にも近い魔力量とも感じられました……」
「いやまぁ……あの魔法使ったの俺だからなぁ……」
「うぇ!? い、今なんと?」
「だから、ゴブリンの大群を消し去った魔法を使ったのは、俺なんだ」
「……は……は……」
あの時は、やりすぎなくらいだったと今でも思うけど、ともあれ俺が使った魔法だと教える。
ただ行っただけじゃ信用してくれないと思うけど、さっきの可視化された魔力を見た後で、しかも女性自身もあの時の魔法と近い魔力量と思った今なら、信じてくれるだろう。
まぁ、驚いた後念を押すように、俺が使った事を伝えると、呆然自失という言葉がぴったりな程、口を開けて何も言わなくなってしまったけど……。
「あんまり長話もできないから、とりあえずヘルサルを騒がせている人を止めないといけないかな……」
街の方では、ほとんど爆発音が聞こえなくなっているから、街の人達やモニカさん達が頑張ってくれているんだろうけど、だからといってここでずっと話しているわけにもいかない。
そう思って、とりあえず目の前の女性をどうするか考える。
……空気穴を作った結界に閉じ込めておけば、足下の氷が解けても逃げられなさそうだし、それでいいかな。
「おーい、そろそろ戻って来てー」
「はっ!?」
「とりあえず、落ち着いて話を聞きたいから、街の騒ぎを止めてからだね。えっと、しばらく……」
「街の方でしたら、お任せください。すぐに皆の暴挙を止めて見せます!」
「いや、その暴挙をさせたのは貴女でしょうに……」
「……申し訳ございません。今は、浅はかな事をしたと、猛省しております」
「うーん……まぁ、とにかく、止められるのならお願いするよ」
「魔法を使っても?」
「攻撃の意思がないならいいよ。……もし何か仕掛けて来ようものなら……」
「いえいえいえいえ! そんな、そんな事は絶対にしません!」
声をかけて女性を正気に戻し、とにかく先にヘルサルで起きている状況をなんとかしてから、他の人達も含めて落ち着いて話を……と思ったら、女性から止める手立てがあると提案を受けた。
元々ローブの女性の方が仕掛けた事なのに、暴挙とか……まぁ、反省しているようだし、本当に止められるなら手っ取り早いのでやってもらう事にした。
もし、それが見せかけとかだったら、もう容赦はしないけど……命を取るとかではなく、強制的にある程度は痛めつけるのも辞さない。
ヘルサルの皆の方が大事だからね。
一応、釘を刺す意味も込めて、魔力を少し放出して、周囲に可視化された魔力を広げるようにすると、手と首をブンブン振りながら否定したので、大丈夫だとは思う。
念のため、結界や他の対処がすぐできるよう、備えておこう。
「……んっ! アイスライトバースト!」
「空? 信号弾みたいだなぁ……」
女性が、少しだけ魔力を集め、手を空に掲げて真っ直ぐ頭上へと魔法を放った。
その魔法は、先程女性が使ったアイスバーストのような、氷線が一筋だけ放たれ、空高く上がった瞬間に弾けた。
さらに弾けた氷線は、上空の空気中にある水分を少しだけ凍らせ、キラキラと輝く青色の光を放ちながら、ヘルサル全体へと広がって行く。
空に向かって光を放つ……という発想が、なんだか信号弾を彷彿とさせた。
「これで、各地で工作をしている者達は、おとなしくなるはずです。こちらに戻って来るか、途中で捕まるかはわかりませんが……一部は、毒を持って絶命するかと」
「……やっぱり、口の中に毒を仕込んでいるんだ。まぁ、そのあたりは周囲の人達が対応してくれるかな? 衛兵さん達や一部の人は、その事を知っているはずだし」
さすがに、ここから誰も死なせないために、爆破工作をしていた人達を目指して走り回る……なんて事はできない。
そもそも、騒ぎを起こした側なので助ける義理もないし、無駄に死なれるのは嫌ではあるけど、ある程度は仕方ないと思っておいた方が良さそうだ……少しだけ、精神的な辛さは自覚しているけど。
ただ、衛兵さん達や冒険者など、一部の人達は治安が悪くなった際に、捕まえた人達から口の中に毒を仕込んでいて、という事も知っているからある程度は対処してくれると期待したい――。
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