第903話 戦意喪失させる事に成功
「馬鹿を言うな! 私がこれくらいの事で、諦めるわけがないだろう! くっ、この……くぬ……ぬぬぬぬ動かせぬ! それに寒い!」
「まぁ、ローブも端々が凍っているし、足は直接凍っているみたいだから、寒いよね……」
無理に足を地面から引きはがそうとしているのか、体をばたばたさせているけど、凍っている部分が割れて動かせるようになるわけでもなく、単純に上半身だけで奇妙な踊りをしているようにしか見えない。
うーん、最初からそこまででもなかったけど、完全に真剣な雰囲気が霧散したなぁ。
「く……これでは奴にも笑われてしまうではないか! いや、そもそも今回の事を成功させねば、笑われる以前に私は処分を待つばかりだというのに!」
「奴、処分……どこかの関係者っぽいね。まぁ、最近の事を考えると、答えは一つだろうけど」
なんだろうね……偶然と言えるのかわからないけど、なんでこう、行く先々で遭遇するのだろうか。
まぁ、本来人間どころかエルフの魔力量すら越えて、ツヴァイと同等の魔力を持っている事から予想はできていた事だけど。
とにかく、捕まえて色々話を聞かないといけないのは間違いなさそうだ。
「とりあえず、戦意喪失してもらおう。えっと……火で炙られるのは好きかな?」
「す、好きな者がいるわけがないだろう!」
「そうだよね。フレイちゃんを呼ぼうと思ったけど、女性みたいだから引ん剝くのはやり過ぎかなぁ?」
「ひっ、変態!」
俺が引ん剝くと言ったら、動く手で体を隠すようにするローブの女性……いやまぁ、確かに女性らしい反応だろうし、引ん剝くと言われたらそうなるのかもしれないけど。
街中で全身を黒いローブに包んで、目深にフードを被っている人の方が、よっぽど変態とか変質者だと思う。
軽く言っても不審者だね。
まぁ、とは言ってもツヴァイの時、フレイちゃんに任せたら火加減をしてくれて生かすように燃やしてくれたけど、当然ながら来ていたローブはほとんど燃えて、服も同様……裸に近い状態になっていたし、所々肌も火傷していたから、女性に対してやるのは躊躇ってしまう。
「とりあえず、氷を使っていたからこっちも同じ氷を使おうかな」
「な、何をする気だ!? いや、こちらも反撃を……」
「アイシクルエクスプロージョン」
「ぴっ!!」
火遊びは危ないから、氷を使おうと決め、ツヴァイの魔法を真似して使ったアイシクルエクスプロージョン。
一度使っているから、イメージはしやすいし魔法名も決めているから、発動までの時間もほぼかからない。
ローブの女性が、凍った足をどうにかするよりも先に反撃のために何かをしようとするのを遮り、巨大な氷の槍を作り、顔のすぐ近くを通過させた。
さらに、結界も同時に発動させ、ヘルサルの外壁に突き刺さる直前で壁として当たってもらい、追加の結界で爆発を閉じ込める。
槍が通過した瞬間、体を硬直させた女性が、上半身と首だけでなんとか後を振り返り、そこで起こった光景を見た。
ローブに包まれているからわからないけど、だらだらと冷や汗を流している雰囲気に思える……偉そうな事を言っていたけど、ツヴァイみたいにプライド任せという程ではなさそうだね。
「い、い、い……今のは、ツヴァイの……いけ好かないあいつの魔法……? でも、大きさも爆発威力も比べ物に……いや、なぜか周囲にはあまり広がらなかったけれど」
「あ、やっぱりツヴァイの事を知っていたんだ? 予想通りではあるけど」
「!? き、貴様、ツヴァイを知っているのか!?」
「聞いているのはこっちなんだけど……まぁいいや。知っているというかなんというか……サクッと倒して捕まえた? いや、倒したのはフレイちゃんか。とりあえず、魔法合戦して適当にあしらった、といった方が正しいのかな?」
「ツヴァイを、ツヴァイを適当にあしらった、だと……? 倒したとも……いけ好かない奴だったから、いい気味だ……って、それどころじゃない。私もしかして、相手にしてはいけない人を相手にしている? それもものすごく偉そうな事を言って……?」
ツヴァイが使っていた魔法を真似したものだから、ローブの女性も知っていたらしい。
なんとなくそうかなぁとは考えていたし、ツヴァイの事を伝えたら戦意喪失してくれるかな? と期待しての魔法だったけど……何やら俯いてブツブツと呟き始めた。
これは……どう判断したらいいんだろうか?
「す、すすすすす!!」
「す?」
「すみませんでしたぁ! 調子に乗った事を言ってしまい、本当に、本当に申し訳ございません!」
「えーっと……?」
俯いていた顔をガバっと上げ、すを連呼してどうしたんだろうと首を傾げた次の瞬間、凄い勢いで頭を下げた。
足が自由になっていたら、土下座とかしそうな勢いだけど……。
戦意喪失どころではなく、完全に謝罪モードに入っているようで……これ、どうしたらいいんだろう?
「どうか、どうか命ばかりはお助けを!」
どう対応したものか困っていると、女性は命乞いまで始める始末。
いや、元々命を取ろうとまでは考えていなかったし、とりあえず捕まえようと思っていただけなんだけど……。
戦闘の中で仕方なくとかはまだしも、おとなしく捕まってくれるのであれば、無駄に傷付けようとは思わない。
「お願いです、どうか命だけはぁぁぁぁ! 所属していた組織を追われて、戻るために仕方なくやっただけなんです! だから、だからどうか……!」
必死に命乞いをする女性……だから命を取ろうとはしていないんだけど……。
とりあえず、もう本当に何かを企んでいたりしないかとか、確認はしておかないとね。
気になる事も言っていたし。
「んー……とりあえず、もう抵抗しない?」
「はい、しません!」
「魔法、使ったりしない?」
「はい、しません!」
「反省してる?」
「はい、しませ……いえ、しています!」
「うーん……とりあえず、話を聞いてみるかな?」
「どうぞ、なんなりとお聞きください! この口は、あなた様の思うがままです!」
「いや、思うがままって……まぁ、話してくれるって言うのなら、いいのかな?」
いくつか確認して、ブンブン首を縦に振る女性からは、もう敵意のようなものは感じられない。
かと言って、すぐに信用していいかはわからないし、ヘルサルに仕掛けたのは確かなので、それじゃあもういいよ……なんて言えるわけはない。
調子のいい事を言って、頃合いを見て逃げ出そうとしているかもしれないからね。
思うがままとか、そういうのはともかく……本当かどうかは別として、話をしてくれるのであれば色々聞かなきゃいけない事がある。
「それじゃあ……まず、どうしてヘルサルの各地で爆破行為を?」
「……ヘルサルは、アテトリア王国の主要都市の一つです。そのため、この街に大きな被害をもたらせば、国力が下がると考えました」
「どうして、アテトリア王国の国力を下げる必要が?」
「私達……いえ、私が以前いた組織では、アテトリア王国に向けて様々な妨害工作が考えられていました。その中の一つとして、各都市を攻撃し、国力を低下させる実行部隊に所属していたのです」
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