第902話 危ない魔法は結界で包んでポイしましょう



 ローブの女性は、俺が何かしらの魔法を使って爆発を耐えた、と考えているらしい。

 当たらずも遠からずというか、本当は結界で完全に俺自身を隔絶した、という感じだけど……透明な結界だから、ローブの女性からは俺が耐えたように見えたのかもしれない。

 本当に魔法を使って耐えたんだったら、体はまだしも服とかもう少し汚れたり破れたりするだろうに、相手をじっくり見るという気はないらしい。

 これも、自分が優位だと信じて疑っていないからかもしれない……もしくは、フードを目深に被っているせいで、よく見えていないとか? さすがにそれはないか。


「これを受けて、その余裕な態度を続けられるかな? いや、そもそもに生きてもいられぬだろうな……くらえ! ぐ……く……アイスバーストォ!」

「これ、前にも見たような……? あれの氷版かな」


 俺と話している間にも、ローブの女性は魔力を収束させ、周囲にある自然の魔力と一緒に魔法へと変換させていっていた。

 さらに勝ち誇った事を言いながら、追加で魔力を絞り出すようにして、発動。

 魔法名からも、発動された魔法も似たようなのを以前見た事がある……というか、ツヴァイの魔法を氷に変えただけだね。

 あの時は火の線のような熱線が、対象へと向かって行ったけど、今回は青い線が触れてた空気中の水分を凍らせてキラキラとした綺麗な線を描きつつ、俺へと向かう。


 氷線(ひょうせん)、とでも呼ぼうかな? 出した氷線は二十くらい……ツヴァイの熱線より多いけど、これまで魔法を使っていなくて魔力に余裕があるからだろうと思う。

 っと、綺麗な氷線に見とれたり、余計な事を考えている場合じゃなさそうだね。

 言葉通り、可視化される程の魔力を惜しみなく使っているから、さっき俺に向けられた魔法よりよっぽど威力がありそうだ……大きな怪我はしそうにないけど、霜焼けになったら嫌だ。

 寒くて風邪を引いたりするかもしれないし、とっとと防いでしまった方がいいだろう。


「少し後ろに下がって……結界っと」

「んなぁ!?」


 全ての氷線が、ローブの女性が俺へと向ける両手から出ており、いくつかは真っ直ぐ、いくつかは上下左右に広がって弧を描いて俺を目指していた。

 無差別じゃないようだし、狙いは確かなのは凄いと思うけど、正確さのおかげで一番の焦点となる俺が一をずらせばそれだけで直撃が避けられる。

 さらに、全ての氷線が集まって接触した瞬間、その場に結界を発動させて閉じ込めた。


 どうせ爆発するだろうからねぇ、なんて考えていたら閉じ込められた結界の中が一瞬にして凍り、四角く作った結界の形の氷が完成した。

 爆発じゃなくて凍らせる方だったんだ……まぁ、隔離されているので俺にはなんの影響もないからいいけど、当たっていたら霜焼け間違いなかったね。

 そんな一連の事象を見て、大きく口を開けてローブの女性が驚いていた。


「な、な、な……何をした! 避けるだけならまだしも、氷瀑後の爆発すら防ぐなんて事がっ……!」

「何をしたって、魔法で閉じ込めて周囲に影響がないようにしただけだよ。って、やっぱり爆発はする魔法だったんだね……」


 おそらく、結界の中に閉じ込められて凍った事で、爆発するような隙間すらなくなったため、そこで動きを停止したんだろう。

 ……もしかすると、結界を解いたら一気に爆発する可能性もあるかな。

 うん、それじゃお返ししようかな?


「……結界そのものは凍ってないから大丈夫そうだ。エルサに合わせて動かしている時の要領で……ほいっと」

「は? 何……きゃあああ!!」

「おぉ、本当に爆発した」


 結界は全て俺の魔力で作られているため、その後も動かしたりできるんだけど、エルサが飛んでいる時、移動するのに合わせて結界を動かしてローブの女性の足下へゆっくり近付ける。

 何が行われているのか理解できず、キョトンとしたような気配がした瞬間、結界を解いてみたら、凍っていた魔法が動き出し、一気に爆発……無数の氷の矢となって弾けた。

 その際、俺の方や周囲の広範囲に影響を及ぼさないため、空間に余裕を持たせて結界で覆っておく。

 小さな箱を、大きな箱に入れる感じだね。


 その大きな箱には仕掛けがあり、指が二本か三本くらい通る穴を空けて有り、そこから爆発の余波が外へ出るようになっている。

 もちろん、穴があるのはローブの女性がある方……つまり、女性は今収束された爆発の余波を受けたってわけだね。

 もちろん至近距離という程ではないし、穴も小さいので威力は低いし、弾けた際の小さな氷の矢もほとんどお互いにぶつかり合って、穴を通れないようになっていたけども。

 ローブの女性は、冷たい空気を筒状の物から勢いよく吹き付けられた状態に近いかな?


「さっきまで尊大な事を言っていたけど、悲鳴はやっぱり女性らしいんだなぁ……あ、結構凍っている。想像より威力が高かったのかもね」

「くっ……ぐっ……こんな事が……」


 上から目線で、自分が優位に立っている事を疑わず、尊大な話し方だったけどそこはやっぱり女性なのか、自分の魔法でやり返された際には女性らしい悲鳴を上げていた。

 まぁ、それはともかく、倒れたりはせずなんとか立っているけど、来ているローブの端々や直撃を受けた足下はパリパリに凍っていて、地面も少し凍っている状態だった。

 直撃した対象を一瞬で凍らせ、さらに爆発する際に無数の氷の矢が発生、余波を受けた周囲も凍るようになっている……ってとこかな。

 思っていたよりも凶悪な魔法だね……ツヴァイの時は、一瞬で召喚したフレイちゃんが吸収しちゃったから、細かな効果はわからなかったけど、もしかしたらあっちも同じような効果があったのかもしれない。


「一体、どこにこんな魔力が……いや、爆発自体は私の魔法だったが、しかしそもそも魔法なのか? こんな魔法、私は知らない……」

「世の中は広いからね、色んな魔法があって自分が知らない魔法だって、いっぱいあるんだろうね。でさ、そろそろ降参したりしないかな? 着ているローブも凍って寒いでしょ? それに、足下も地面と一緒に凍っているから、動けなさそうだし」


 自分の魔法から発生した余波を、なんとかやり過ごしたローブの女性は、愕然とした様子で呟く。

 女性の様子はフードで顔も隠れているから、表情とか細かい事はわからないけど、話す言葉の感じからなんとなくだけどね。

 あとどれだけ魔法の研究をしていようと、見た事のない魔法というのはあるはず……そもそも、イメージで魔法が使えるドラゴンの魔法の事を考えたら、知っている魔法と考える方が無駄にも思える。

 それはともかく、女性が余波で飛ばされたり倒れなかったのは、地面と足が凍りついて動けないからでもあった。


 さすがに凍ったのは足の表面くらいだけだろうから、無理に動かそうとして氷が割れて足が千切れる……なんて事はないけど、それでも簡単に動かせる状態じゃない。

 滲み出る可視化された魔力は、かなり減っているし、降参した方が楽だと思って聞いてみた――。



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