第900話 空から登場するリク
「とにかく、そこへ向かおう。エルサ、ここから真っ直ぐ北に行ってくれ。北外壁の近くだ!」
「わかったのだわー」
考えてばかりいても仕方ないし、わからないなら直接聞けばいい。
エルサに指示を出し、北へと向かってもらう……目標は、唯一門のない来た側外壁に張り付くようにして陣取っている。
「よし、それじゃエルサは行政区画に行ってくれ。多分クラウスさんやトニさんがいるから、俺から言われたと言えば大丈夫だと思う。兵士さん達はほとんどエルサを見た事あるだろうからね。あ、人を踏みつぶしたりしないよう、ちゃんと広い場所に降りるんだぞ?」
「リクは本当にドラゴン使いが荒いのだわー。わかったのだわー行って蹴散らしてくるのだわー」
「蹴散らすのはちょっと……相手が魔物でなく人間とかなら、威嚇するだけで十分だからな?」
「了解だわー」
エルサに指示をして、行政区画に行くようお願いする。
あっちは、街の人が住む家が少なく、広場などのエルサが降りられそうな場所があるから大丈夫だろう。
蹴散らすと、他の建物も巻き込んで実際の被害で一番大きいのが、エルサだったなんて事になりかねないため、威嚇に留めるように注意しておく。
まぁ、相手が何であれ襲い掛かってくるような魔物ならともかく、人間とかならエルサを見れば繊維を喪失するか逃げ出すだろう。
「それじゃ……っ!」
「結局、前と同じ事をしているのだわー」
やりたくなかったけど、ゆっくりエルサで降りている場合でもないので、背中から目標地点へ向かって飛び降りる。
ドップラー効果のように、エルサの声が小さくなるのを感じながら、自分で結界を張って落下の衝撃に備えた。
「なんだ!?」
「人が落ちてきただと!?」
「……ちょっと、勢いをつけすぎたかぁ。アメリさんの時より、高度も勢いもあったからなぁ」
ズドンッ! という爆発よりも大きい音を立てて、結界と共に地面へ突き刺さる俺。
飛んで移動するエルサの勢いと、以前よりも高度が高かったせいだろう……狙い通り、誰もおらず何もない場所に着地できたのはいいけど、下半身が埋まってしまう程の勢いになったのは、狙いとは違った。
結界のおかげで、痛みとかは全くないけどかなり間抜けな姿だ……これを着地と呼んでいいのか同化も微妙だね。
幸いなのは、音や衝撃と共に大きく砂埃が立って視界が悪くなったので、はっきりと俺の間抜けな姿を、周囲で騒ぎ始めた人達にはっきりと見られていない事くらいか。
「よいしょ……っと。うん、本当にあれはこれで最後にしよう。……さて」
「な、なんだお前は!」
「どこから来やがった!」
「どこからって、空からなんだけど……まぁ、いいか。ともあれ、やっぱり当たりだったようだね」
「……お前、何者だ?」
とりあえず埋まった地面から体を抜いて立ち、空から降りて来るのは本当にもうやらない事を決意。
砂埃が晴れ始めた中で、一際異常な気配を放っている人物へと視線を向ける。
少し戸惑っていたようだけど、他の人達は俺を取り囲んで各々が叫んでいた。
って、空から落ちて来たのを見たのに、どこからっていうのはさすがにどうかと……いや、言った本人ははっきり見ていないのかもしれないけど。
ともあれ、そんな混乱の中でも、目を見開いて驚いてはいるようだけど、慌てる事なく落ち着いた様子の人物が、高い声で俺に問いかけた。
この声……女性かな? 俺の想像は正しかったようで、その女性と思われる声が発されたと同時、周辺で取り囲んでいた人達が一斉に静まった。
ここにいる人達全員が、あの女性に従っているのだろう。
俺を囲んでいる人達は、ならず者と呼ばれても仕方ないような、身なりの悪さや人相の悪さ……男性だけでなく女性もいるけど、それぞれに抜き身の武器を持っているのもあって、お世辞にも善良な市民とは言えない人達ばかり。
そして、俺に問いかけてきた女性は、異様な雰囲気……というより可視化された魔力を隠そうともせず滲みださせ、目深に被ったフード付きのローブで全身を包んでいた。
……ツヴァイと一緒だなぁ、やっぱり。
魔力の大きさもほとんど同じだし……どちらが大きいかはわからないけど、とにかく怪しさ大爆発だ。
実は何もしていない罪もない人間です、なんて事は絶対にないと断言できるね。
「何者かって言われたら……うーん、冒険者……かな?」
「冒険者だと? 奴らはギルド付近に釘付けにしているはず……いや、だから空から降ってきたのか。貴様、何をどうやってここを嗅ぎつけたのかは知らんが、ギルドから来たのか」
「えっと……まぁ、それでいいや」
一応、英雄だなんだと言われていても、正しい肩書は冒険者……で合っているはず。
最近冒険者としての依頼よりも、色んな雑多な事をする機会が多いけど。
でも、単純に魔物を倒す事だけが冒険者じゃないから、それで正しいのかもね。
俺の言葉を聞いて、ローブで身を包んでいる女性は微かにフードを揺らしながら……勘違いした。
まぁ、方角的にはここからだとギルドの方から来たとも言えるし、わざわざ細かく説明してあげる義理もないから、それでいいか。
「しかし、辺りに砂埃を巻き上げるくらいの勢いで空から落ちても、傷一つないのは驚愕だが……まぁいい。一人で来た事を後悔するんだな……っ」
「「「フレイムエクスプロージョン!」」」
「話をするつもりはないみたいだね……」
まぁ、こっちも悠長に話をする気はないんだけど……。
女性が手を右上げた瞬間、俺を囲んでいたうちの数人が備えていたんだろう、一斉に魔法を放ってきた。
とりあえず、結界を張って自分を包み込む……瞬間、俺の周囲で大きな爆発が起こった。
結界の外だから音は聞こえないけど、勢いを見るに相当な音が発生したようだね。
大きな爆発と言っても、炎が燃え上がるので威力が高く感じるけど、実際には地面をちょっとえぐって土やらを巻き上げる感じだね……成る程、これだと小さな建物を破壊するのにも、何度か撃たなきゃいけないかな。
街の人達が抑えているというのもあるんだろうけど、大きな建物が破壊されていない理由がなんとなくわかった。
周囲に延焼する物が多かったりしなければ、すぐに消化すれば大きな被害はなさそうだ……火事になったり、建物の壁を壊すくらいはできそうだから、被害がないわけじゃないけど。
「くっくっく……一人で来た蛮勇は褒めてやるべきなのかもしれないが、人間があの魔法を複数同時に受ければひとたまりもあるまい。私は、血生臭いのは嫌いなんだが……」
「……うわっ! ゴホッゴホッ! あー……血生臭いのが嫌いなら、丁度良かった。俺も、魔法の爆発で爆散する趣味はないからね。」
結界を張っている外で、先程俺が落ちて来た時よりも多く、爆発の威力や炎に巻き上げられた土や砂が視界を塞ぐ。
俺もそうだけど、向こうからも俺が見えなくなった状態で、勝利を確信した女性が悪人っぽく笑いながら、勝ち誇った台詞が結界を解いた瞬間に聞こえた――。
延焼する物がなく、すぐに炎がなくなったから結界を解いたけど……せめて巻き上げられた土や砂がなくなってからにした方が良かったなぁ。
遮っていた結界がなくなったもんだから、一気に俺に降りかかって思わず吸い込んでしまい、むせてしまった……恰好付かないなぁ――。
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