第899話 空から窺うヘルサルの様子



「ありがとうエルサ。ちょっとだけこのまま滞空していてくれ」


 先程様子を見るために上がった高度と同じくらいまで上昇し、エルサにお礼を言ってしばらくそのまま留まってもらうようお願いする。


「了解したのだわ」

「それじゃ、探知魔法を……」


 魔法は魔力を使う。

 人間や獣人にも魔力があるわけだけど、爆発に魔法を使って魔力が減っている可能性もあるからね。

 特異な魔力を持っている人物とかがいるかもしれないし、魔物だったら判別も可能。

 ある程度細かな事もわかったりするから、爆発の近くで魔力が減っていない人物が怪しい……もしくは、大きめの魔力が複数あって移動していない、とかも怪しいか。


 ある程度の知り合いもわかるくらい、使い慣れてきているのもあって、怪しい存在を炙り出すのにも使えるから、探知魔法は便利だ。

 さて、どこがどうなっているかな……。


「……んーと、あっちの移動しているのがソフィー達で、向こうがモニカさん達だね」


 それぞれ、さっきの指示通り冒険者ギルドのある方と、獅子亭がある方へ向かっているのがわかる。

 人が多い街だけあって、全ての人が誰でどうか……まではわからないけど、馴染みのある人達だからね。

 俺が探知魔法を使う時、よく近くにいるため一番に反応を知れるから、覚えている。


「ん? モニカとフィネさんが止まった? あっちは……まぁ、大丈夫そうか。ソフィー達の方も、何かと遭遇したようだけど、ユノが張り切っているのかな? すぐに遭遇した誰かの魔力反応が薄くなった」


 モニカさん達は、多くの人が集まっているだろう魔力反応の場所で止まった。

 そこに誰がいるのかまではわからないけど、複数の人達で数人を囲んでいる様子だ……多分、爆破した犯人を取り囲んでいるとかだろうと思う。

 囲まれている方は、魔法を使ったからか魔力反応が少ないし、囲んでいる方にモニカさん達が加わったようだから、なんとかなるはず。

 対してソフィー達の方は、数秒前に爆発が起きた場所の近くで立ち止まり、こちらも数人の少ない魔力反応の近くで止まった。


 ユノの物と思われる魔力の持ち主が、数人に近付いたと思った瞬間、あっさり魔力反応が薄くなったから気絶させられたとかだろう。

 意識を失うと、魔力の動きが少なくなって反応が薄くなる、という感覚がある。


「リク、いつまでも様子を見ているだけじゃなくて、早くするのだわー」

「あぁ、そうだね。ごめんごめん。えーっと……」


 空に留まってくれているエルサに注意され、モニカさんやソフィー達の方を窺うのを止める。

 いつまでも皆の様子を見ているだけだったら、なんのために俺が別行動したのかわからないからね……反省。

 エルサに謝って、探知魔法で調べる範囲を少しずつ広げ、ヘルサル全体の事を把握するように集中する。

 探知魔法の範囲が広がったおかげで、ヘルサルの隅々まで調べる事ができるようになっているんだけど、さすがに情報量が多過ぎて、全てを把握する事は難しい。


 その中で、魔力の反応から得られる情報を自分が今いる地点を起点にして、少しずつ広げる。

 というより、近くの反応から情報を精査していく感じだね。

 例えば、南門付近には兵士さんっぽい反応や、逃げ惑う人々、何かを仕掛ける人はいないようなので、次は少し北の反応を見てみる……といった具合だ。

 ちょっと手間がかかって時間がかかってしまうけど、確実に調べて行くためだから仕方ない。


「成る程、兵士さん達が門の近くにいなかったのは、行政区画に集まっているからか……」


 多分、爆破が何度も起きているからだろう……門の付近ではこれまでもこれからも爆破がない事から、ヘルサルの主要部分を狙っているんだと思う。

 だから、あちこちに散らばって入るけど、一番重要な行政区画に兵士さんを集めているのか……門は固く閉ざされていて、逃げられないようにしてあるから十分なんだろう。

 もしかしたら、門を兵士さんとか関係者じゃないと開けられないような仕組みでもあるのかもしれない。

 ヤンさんからの書簡をマティルデさんに届けた時のように、知っている人しか開けられない魔法鍵のようなものとか……。


「それか、ある意味あぶり出しとかもあるのかも……?」


 爆破は散発的だけど、主要部分に偏ってもいるので、街の人達の多くは被害のなさそうな場所に避難しているっぽい。

 そこが必ず安全という保証はないけど、街の外に避難しようとする人がいないのは、ちゃんと誘導されている証拠だ。

 その中で、門の外に出ようとする人がいたら、それは怪しい人物と言えるかもしれないからね……数が多ければほぼ確定、少なければ捕まえて調べればわかる事……とか。


「クラウスさんというより、トニさんとかが考えそう、かな? まぁ、爆破されて少し燃えたり、建物の倒壊もなんとなく空から見えるけど、大きな建物とかまで被害は及んでいないから……」


 単純に、破壊工作をしている側の戦力不足だろう。

 ヘルサルは人口が多いだけでなく建物も多い。

 その分警備をする人だって多いわけで……小さい家とかを破壊する事はできても、大きな建物は破壊させないようにしっかり押さえられているのか。


「まぁ、人が多いって事は、それだけ戦える人が多いって事だからね……ん?」


 割合はともかく、兵士さん達が多いのは間違いないし、冒険者だって集まって来るから。

 と考えながら調べ続けていると、人の少ない区画で妙な反応があるのに気付いた。


「魔力が、尋常じゃないくらい大きい?」

「リクと比べたら、魔力が大きいのなんていないのだわー」

「いや、俺と比べてじゃなくだな……周囲にもそれなりに魔力を持った人がいるみたいだけど、こっちは人並みとも言えるか」


 エルサのツッコミは適当に答えておいて、発見した魔力が多い人物がいる場所を集中的に調べる。

 一人だけ、異常に大きい魔力を持っている以外、周辺の人達は特に魔力が大きいという程じゃない。

 いや、一般的な街の人達よりは大きいけど、魔法を使う冒険者と比べると同程度だから、人並みってくらいだ。

 ただ、その集団の中で一人だけ異常な魔力を持っているのがはっきりとわかる。


「これ……多分ツヴァイくらいの魔力、かな?」

「当たりなのだわ?」

「そうみたいだね」


 異常な魔力の持ち主は、街の北側……あまり人の多くない区画に陣取っており、周辺をそれなりの魔力を持つ人達で固めている。

 避難している人達にしては数が少ないし、子供とかの反応も見られないから、街の人達じゃないだろう……家族で避難していたら、子供が中に混じっているはずだからね。

 そしてこの状況で、混乱して右往左往しているとかでもなく、ただジッとしているだけ……いや、数人が別の方に移動を開始したか。

 予想だけど、人が来る確率が少ない場所で指示を出し、それぞれ破壊するへ割り振って向かわせているのかも……? ただなんというか、計画的とは言えないような雰囲気も感じる。


 だって各地で爆破をする事ができるなら、狙いにもよるけど一点に集中した方が効率的だからね。

 それこそ行政区画に入り込んで、油断しているのを見計らって一気に……とかもできたはずだ。

 それに、俺が見つけた魔力が異常に大きい人が何もしていないのが気になる……。


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