第898話 異変への対応



「あ!」

「どうしたの、モニカさん?」

「あっち! あそこ、獅子亭がある方で爆発が!」

「……確かに獅子亭の近くだね」

「だが、少し外れているか。ともあれ、獅子亭の近くで戦闘が行われている事は確実なようだ」


 急に大きな声を出したモニカさん。

 指を刺す方を見てみると、上空から見ても目立つ大きな通りから少し離れた場所で、煙が立ち上り始めた所だった……おそらく、今しがた爆発したんだろう。

 ソフィーの指摘通り、獅子亭がある場所からはズレているようだけど、近くなのは間違いない。


「早く、父さん達を助けに行かないと!」

「落ち着いて、モニカさん! 獅子亭にはマックスさんやマリーさんだけじゃなくて、ルギネさん達もいて、戦える人達ばかりだから! あの人達なら、そう簡単にやられたりしないはずだよ!」

「そうだな。王都の時も私たちとは別で、冒険者達を引き連れて魔物と戦っていた人達だ。……相手が何者かわからないから、不安は残るが……きっと大丈夫だ。私達も、まだまだあの二人には勝てないだろう?」

「……そ、そうね。確かに、父さん達ならなんとかしそうね……ごめんなさい、リクさん、ソフィー」


 獅子亭が危険、と感じて取り乱したモニカさんが、エルサから身を乗り出しつつ叫ぶ。

 エルサは飛ぶ時に結界を張っているから、落ちても無事だと思うけど、危ないから慌ててソフィーと一緒にモニカさんを止める。

 マックスさんやマリーさんは、元Bランク冒険者だし、ルギネさん達はCランクの冒険者だ。


 そんじょそこらの相手にやられるような人達じゃないから、きっと大丈夫……と、モニカさんを落ち着かせながらも自分にも言い聞かせる。

 マックスさんとマリーさんは、この世界に来て最初にお世話になった人達だから、俺もすぐに助けに行きたいけどね……。


「あっちでも爆発が……あちらは、冒険者ギルドの近くでしょうか?」

「あちらもだな。向こうは、確か街の行政区画だったか」

「……冒険者ギルドにはヤンさんが、行政区画はクラウスさんがいる」


 冒険者ギルドは、戦える人達が多くいるので集まってくれていれば多少の事はなんとかなるはず……ヤンさんが指揮していそうだし。

 クラウスさんの方は……行政区画という、街の中枢とも言える場所である代わりに、手厚く守れるべき場所でもあるので、すぐにどうこうという事はない……はず。

 悠長にしていられないけど、とにかく街の人達への被害が一番少なく済む方法を考える。

 既にあちこちで爆発しているから、被害が出ないなんて事はできないけど……ただ、最初に見た立ち上る煙が消えていたりと、鎮火作業をしているようにも見えるため、黙って破壊され放題というわけではないのが救いか。


「よし、決めた」

「リクさん?」

「エルサ、門の内側にある広場に降りてくれ! 空から見る限り、そこに今人はいなさそうだ。できるだけ、周辺の物を傷つけないように!」

「了解したのだわー」


 数秒だけ考えて、すぐに行動に移すため、エルサに指示。

 モニカさんが首を傾げて俺を見ているけど、考えを丁寧に教えている暇はあまりない。


「エルサ、そのまま大きいままですぐに飛べるように待機!」

「ドラゴン使いが荒いのだわぁ」


 下降し、門の内側にゆっくりと降りたエルサに、そのまま待機するように言う。

 着地の際、ちょっと周辺に置かれていた馬車を倒したような気がするけど、馬は繋がれてないのでなんとかなるだろう。

 そして、エルサの背に乗ったまま、呆気に取られている様子の皆に振り返る。


「モニカさん、フィネさんと一緒にここから獅子亭に向かって! 多分、途中で原因になっている何かと遭遇するだろうけど、対処は自己判断で! とは言っても、兵士さんとかと戦っている様子っぽいから、ぐに判断できると思う。無理に戦う必要はないけど、兵士さん達や街の人達が襲われてヤバそうだった羅、助けに入って欲しい!」

「わ、わかったわ!」

「了解しました! 騎士でもあるこのフィネ、街の者達を守るために斧を振るう事、躊躇いはしません!」


 急な指示で、戸惑いながら頷くモニカさんと、ベテラン冒険者で騎士でもあるフィネさんは頼もしい返事。


「ソフィーは、ユノやアルネと一緒に街の各地を回って、騒ぎが起こっている場所の鎮圧。多分、戦闘行為をしている何かがいるから、ユノと一緒に対処を!」

「わかった!」

「うむ、了解した」

「わかったのー」


 俺一人では、街中全てを回るのは時間がかかるため、皆に協力してもらって各地の状況改善を図ろうという考えだ。

 モニカさんは、獅子亭の様子を見たいだろうから、そちらへ向かう……さすがに一人だと危険なので、頼りになるフィネさんと一緒だ。

 フィネさんがいてくれたら、無理しすぎる事もないだろう。

 ソフィーとアルネは、ユノを戦闘メインにしていれば大抵の事は対処できるだろうから、各地を回って騒動の把握と鎮圧をお願いした。


 それぞれにモニカさんとソフィーを分ける事で、土地勘のないフィネさんやアルネが迷わずに済むようにも考えた。

 ユノもヘルサルには大分慣れているから、道に迷う事はないだろうけど、なんとなくソフィーがいた方が安心するからね。


「ソフィー達は、できれば冒険者ギルドの方も見て欲しい。何かあればそちらに助力。もしヤンさんがいれば、指示を仰ぐ事もできると思う!」


 ここでは大雑把な指示しかできないし、状況を知らなさすぎるため、動き方がわからなくなってしまうかもしれない。

 なので、多少は俺達よりも状況をわかっているであろうヤンさんがいれば、最適な行動を指示してくれるはずだ。

 モニカさん達の方は、もちろんマックスさん達がいるから、到着できればそちらで独自に動いてくれるだろうからね。


「リクさんとエルサちゃんはどうするの?」

「俺とエルサ……いや、俺は元凶を探す! エルサは、俺が元凶を見つけて向かった後は、行政区画に行ってくれ。そちらはクラウスさんやトニさんがいるはずだから!」

「わかったのだわ」

「それじゃ皆、くれぐれも無理はしないように!」

「えぇ!」

「わかった!」

「了解です!」

「了解した!」

「わかったのー!」


 モニカさんの質問に答え、皆の顔を一度見てから、無理をしないようにだけ伝えて散会を促す。

 それぞれ、力強く頷いてエルサから飛び降りて、指示通りに別れて走って行った……いや、わざわざ飛び降りなくても良かったんだけど……エルサ、大きいままだから結構な高さなのに。

 まぁ、怪我をしていないようだからいいか。

 雰囲気って、凄いなぁ。


「っと、俺は俺で、元凶を探さないと……エルサ、さっきくらいの高度で」

「わかったのだわ」


 皆が走り去ったのを見送った後、エルサに再浮上してもらう。

 俺が探す元凶……ヘルサルは近くのセンテやルジナウム、ブハギムノングよりも大きな街だ。

 さすがに王都程ではないけど、それだけ大きな街の各地で爆発を起こすような騒動となると、絶対にそれを指揮や指示、先導している元凶が必ずいる。

 何者かが移動しながら爆発を起こしている、というわけではなく、同時に各地で爆発が起こっていたから、単独でない事は明白だからね。


 そして、爆発には爆薬なんてないんだから、当然魔法が使われているはずだし、きっと違和感と言わないまでも、何かがあるはずだ。

 その何かを見つけるためには……。



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