第871話 種族間交流は食事の幅も広げてくれる



「へぇ~、そうなんですね。これも、交流をしたおかげかぁ」

「また、我々が食材を譲り受けたり、新しい料理のレシピを聞いたりもしています。おかげで、毎日の食事が楽しくなったエルフもおおいのです。かくいう私も、その一人です」

「それぞれに食に対して、使っているいる食材やレシピにも違いがあるものね。それこそ、ヘルサルでよく食べられる料理と、クレメン子爵の所で食べられる料理は違ったわ」

「言われてみれば、そうかな?」


 種族が違うのもあって、これまで食べている物や使っている物が違ったんだろう、そのため、交流する事でお互いの料理を教えたったりとかしたのかもね。

 感心している俺に、モニカさんがクレメン子爵領など、同じ国内でも離れていれば作られる料理も違うのだと教えてくれる。

 あんまり意識していなかったし、美味しい料理を頂いて満足していただけだけど、言われてみれば違ったような気がする。


 もっと意識してみれば、ブハギムノングやヘルサルで比べても違いがありそうだ。

 それぞれ、街の特色というかその場所で採れる食材が違ったりもするから、なんだろうね。

 日本でも、地域によって食べ方が違ったり、料理の仕方が変わったりするものだし……地域色って事かな。

 とりあえず、エルフさん達は人間との交流で、新しい味を体験できて少なくとも楽しんでいる様子が伝わってきた。


「リク、感心するのもいいが早く食べないと、食べる物がなくなるぞ?」

「そんな、あれだけの料理があったんだから、何くなるなんて事は……って、もうほとんどお皿が空だ!」

「はぐはぐはぐ! んぐんぐ……だわぁ」

「んぐ! はぐはぐ!」


 種族は違えど、交流をする事で暮らしが豊かになるのはいい事だなぁ……なんて感心していたら、ソフィーに注意された。

 まさか置く場所すらない、十人以上で食べきれるかどうかくらい大量にあった料理が、なくなるなんて事はないだろうと思っていたら、いつの間にかテーブルには空のお皿が目立つようになっていた。

 料理を運んで来て、置く場所がなくて持ったままになっていたエルフさんも、今は空のお皿を持っている。

 一体どうして……と見渡してみると、エルサとユノが競い合うように食べ続けているのを見つけて、戦慄した。

 何が恐ろしいかって、食べ始めからずっと食べる勢いが変わっていない事だ……数人分の料理を食べてもまだ、勢いが衰えないなんて、どこのフードファイターかな? と思うくらいだ。


「って、まだ俺お腹いっぱいじゃないのに! エルサ、ユノ、もう少し加減して食べてくれよ!」

「はぐはぐ! だわ? 早い者勝ちなのだわー」

「そうなの! はぐはぐんぐ! 先に食べた方が勝ちなの!」

「……競い合っているわけじゃないんだけど……そういう事なら、俺も急いで食べないと!」


 多少は料理を食べてい入るけど、まだまだお腹いっぱいになっていない。

 さすがに、追加を頼むわけにもいかないし、お腹を減らしたまま一晩過ごすのは嫌だと、エルサやユノに負けないよう俺も近くにあった肉料理に取り掛かった。


「あらまぁ……リクさんまで」

「こういう事はあまりなかったが、お互いが競い合って引っ込みがつかなくなったんだろうな」

「リク様、必死で追い付こうと食べていますね。大丈夫でしょうか?」

「まぁ、エルサちゃん達と競ったら、後が大変になりそうだけど……でも、あぁやって食べてくれるのは、料理を作る側としては嬉しいものよ。ほら、エルフさん達も笑っているわ」

「……あれは、リクやエルサ達の様子が可笑しいからだと思うが……まぁ、そういう事にしておこう」


 何やら、モニカさんやソフィー、フィネさんが話している気がするけど、今はそれどころじゃない。

 エルサやユノに食べつくされる前に、俺もお腹いっぱいにならないといけないからな。

 そうして、エルフさん達が何やら笑いが漏れているような気がしたけど、それには構わず料理を食べ続けた。

 まぁ多分、あれだけの量を食べつくす勢いが凄いとか、それくらいだろうと思う……。



「あー、ちょっと食べ過ぎたかな?」

「もうこれ以上はいらないのだわー」

「ちょっと頑張り過ぎたのー」


 夕食後、膨れすぎたお腹を上に向けて、用意された部屋のベッドで仰向けになりながら呟く。

 同じくというか、俺以上に食べまくっていたエルサとユノは、満足そうというには少し苦しそうにして、俺と同じように仰向けになっていた。

 俺もそうだけど、皆お腹がぽっこりしているのはご愛嬌と言ったところだね。


「モニカさん達、呆れていたなぁ」

「うー……だわぁ……もうキューしか入らないのだわぁ」

「モニカ、なんだかニコニコとして嬉しそうだったの。エルフ達も同じくなの」

「そうだったかな? まぁ、お腹が苦しいから、明日からは気を付けよう。――というかエルサ、キューが入るならまだ余裕があるんじゃないか?」

「余裕なんてないのだわ。けど、キューだけはお腹が張り裂けても食べられるのだわぁ」


 仰向けでパンパンになって苦しいお腹を持て余しながら、エルサやユノと話す。

 あれだけ食べる事に集中していたはずなのに、モニカさんだけでなくエルフさん達の様子を見ているのは、さすがユノというべきだろうか?

 エルサの方は、それだけキューは特別って事なんだろうけど、お腹が張り裂けたり命を懸けて食べる物じゃないから。

 伝説まであるドラゴンが、食べ過ぎで……っていうのはさすがにね。


「ふぅ……そろそろ動けるかな? そろそろお風呂に入らないと」

「お風呂、入るのだわー」


 しばらくして、ようやくお腹がこなれて来るしさもなくなり、動けるようになった頃にお風呂に入ろうと起き上がる。

 エルサも、満腹感からウトウトしている様子ではあったけど、お風呂と聞いて起き上がった。

 本当、お風呂が好きなんだな……モフモフを維持するためにも、しっかり洗わないとな。


「……」

「ユノはモニカさん達と一緒に……ん? どうしたユノ?」


 俺はエルサと一緒に入るから、ユノはモニカさんと一緒に……とお風呂を勧めようと声をかけたら、何か様子が先程と違うユノ。

 仰向けのままなのは変わらないんだけど、何やら押し黙って目を天井に向けたまま微動だにしないのがちょっと怖い。

 時折モゴモゴと口を動かしているのは、さっき食べた料理を反芻しているわけではないと思うが、いつも元気なユノが俺の声に反応しないのは珍しい。


「……微かに感じるのだわ。異質な気配、なのだわ」

「異質な気配? 俺は何も感じないけど……」


 俺と一緒にユノの方を見ていたエルサが、ベッドの上で鼻をあちこちに向けて、何かを感じ取った様子。

 どうでもいいけど、モフモフな見た目も相俟って完全に子犬に見えるぞエルサ。


「リクは鈍感だから、感じないのだわ」

「何を言っているんだ、俺が鈍感なわけないだろう?」

「はぁ~、だわ……」


 ユノの様子は相変わらずで、エルサは何かの気配を感じているようだけど、俺には何も感じられない。

 念のため、探査魔法で魔力を広げてみたけど、何も反応がないのはどういう事なんだろう?

 というかエルサ、俺が鈍感って……ため息まで吐いているし……俺が溜め息を吐かれる程鈍感って事はないと思うんだけどなぁ……ないよね?



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