第870話 研究成果を受けるには代わりの研究が必要



「リク、その暖める魔法具の研究をしているのは、俺と同じくらい長く研究しているエルフなんだが、なんというか研究をする事そのものが生き甲斐でな」

「研究が生き甲斐って、アルネみたいに没頭するって事?」

「それもそうなんだが、研究をする事そのものが命よりも大事、という奴だ。しかも厄介な事に、誰かに成果を提供するのは構わなくとも、代わりの研究を欲する。つまり、人の手に渡った研究ではなく、自分だけが研究する内容を求めている、という事だな」

「だとすると、技術提供を受けるためには、別の研究を代わりに用意しないといけないって事?」

「そういう事だ。提供した技術は人の手に渡り、自分以外も研究するとなって興味をなくす。だから、代わりに没頭できる研究を欲するわけだ。奴は、そもそも成果に興味はなく研究する事そのものが目的になってしまっているようだからな」


 そういう意味で偏屈って事かぁ。

 研究する事そのものが好きで、成果がどうなろうと特に興味はない……成果ができて外に出したりした時点で、興味をなくして別の研究対象にうつると。

 だから、そのエルフから研究している技術の提供をうけるなら、代わりになる研究を上げないといけないわけだね。

 うーん……代わりになる研究って、俺には用意できそうにないんだけど。


「アルネは、その事を知っていたんだよね?」

「まぁ、な。だが、長く続けている研究だから、もしかしたら別のエルフに受け継がれて、奴はまた違う研究をしているかもという希望もあった。だが、エヴァルトの反応を見る限りでは……」

「まだ変わっていないな。ある程度研究は形になっているらしいが、まだ満足は行っていないらしい。暖め続けるための、魔力蓄積が上手くいっていないんだそうだ。……リクさん達がさっき言っていたクォンツァイタ、だったか? それを利用すれば完成しそうではあるが……」

「奴は自分で答えを求めないと気が済まないからな。誰かが外から持ってきた答えやヒントをやると、意固地になって別の方法をも模索して研究しそうだ。そうなったら……」

「技術提供を受ける事もできなくなる、というわけだね」

「そうだ。だから、代わりになる研究を用意してやる必要があるんだが……困ったな。誰も手を出していない研究なんて、今の俺は知らないぞ?」


 そのエルフさんがやっている研究も、あと一歩……クォンツァイタを足せば完成するらしいんだけど、こちらから答えを提供するのは逆効果になるんだそうだ。

 つまり、自分で答えを見つけるか、別の研究に興味を向けなければいけないという事。

 話には応じてくれるが、相応の何かがなければ動かないんだろう……さすがに、無理矢理というのは駄目だし、アルネの様子から別の研究というのはなさそうだね。

 うーん……。


「まぁ、ここでこうして考えていても、いい考えが浮かびそうにない。今日のところはひとまず休んで、ゆっくり考えるのはどうだ? アルネはしばらくぶりだから、集落にを見ているうちに何か思いつくかもしれんしな」

「……そうだな。研究からまた別の研究に派生する事だってある。先に冷やす魔法具を研究するエルフと話をしつつ、何かないか探ってみるとするか」

「そうだね。今すぐ何か新しい研究って言っても、そんなにすぐ出るもんじゃないよね」


 アルネは王城の書庫で色んな書物を読み漁っていたらしいけど、それでも新しい研究は思いつかないんんだろう……集落に来たのも、もし別のエルフが引き継いでいたらという希望もあったようだし。

 クォンツァイタの事もある程度見込みができたし、後は温度管理の魔法具を待つばかりになっているので、新しい研究内容を見つける時間もなかった。

 あと、姉さんから直々に頼まれているのもあって、引き伸ばす事もできないし……俺から頼めばできるかもしれないけど、アルネはからは頼みづらいだろうからね。

 とりあえず、今日のところは話を切り上げて、ゆっくりと休む事にした。


「……こんな事なら、リクから聞いた魔力を練る方法や、それに伴う魔法威力の増加を研究させるんだったか? いやでも、あれは俺自身が研究したい事でもあるから……」


 話を切り上げたはずなのに、アルネはブツブツと何やら呟きながら、ずっと考えている様子だった。

 というか、研究に対しての姿勢というか、没頭具合は偏屈らしいエルフさんもアルネも、似たようなかんじだよね。

 成果を求めるアルネと、研究を求めるエルフ、という違いはあるけど――。



「夕食をご馳走になるのに、こんな事をいうのはなんだけど……」

「そうだな。以前もそうだったが、やはり量が……」

「うん。でもまぁ、ユノとエルサが頑張ってくれるから……」

「はぐ、んぐ、はぐはぐはぐ!……美味しいのだわー」

「んぐ、はぐはぐ!……あ、エルサ、それは私のなの! とっちゃ駄目なの!」

「エルサ様も、ユノちゃんも、大量にあるのですからゆっくり食べましょう?」


 エヴァルトさんに今いる石造りの家をまた使ってくれと言われ、集落全体に俺達が来た事を報せに行った後、しばらくして料理を持ったエルフさん達が押し寄せてきた。

 そのエルフさん達は、エヴァルトさんが手配して俺達の夕食を用意してくれたらしく、皆笑顔で歓迎してくれる様子だったのは嬉しい。

 けど、以前フィリーナが持って来た料理もそうだけど、やっぱり料理が多過ぎる。

 所狭しとテーブルに並んで、挙句に置く場所がないので椅子や持って来てくれたエルフさんが持っているお皿があったりもする中、俺とモニカさんとソフィーが軽くため息を吐く。


 アルネはさっきの話からずっと研究に関して考えているらしく、心ここにあらず状態なんだけど、ずっと手を動かして料理を食べている……よくのどに詰まらせたりしないものだと感心する。

 というか、いつもより多く食べているけど、考えに没頭しているためか気付いていないらしい、後でお腹が痛くならなければいいけど。

 それとは別に、俺達の中で一番よく食べるエルサとユノが、競い合うというか奪い合うようにガツガツと食べてくれている。

 フィネさんはそんなエルサ達を見て、止めようとしているのは慣れてきている証拠か……エルサもユノも、聞く耳を持っていないようだけど。


「そういえば、前来た時よりも肉料理が多い気がするけど……いや、野菜も多いかな?」

「そうね。まぁ、後半はむしろお肉の料理ばっかりだったけどね」


 所狭しと並ぶお皿に載った料理を見て、ふと気づく。

 以前来た時は、野菜類の料理が多かったのに今回は、肉料理も多くて……総じて種類が豊富だ。

 モニカさんも言っているように、魔物を倒した後はその魔物を使った肉料理が多かったりもしたけど、その時とは違って料理そのものや食材の種類が豊富な気がする。


「人間の方達と交流を進めている影響です、リク様。集落を訪れる、人間や獣人の方達が元々この集落にはなかった食材を持ち込んでおられますので、その影響ですね」


 俺の疑問に、空になったお皿を下げたりと世話をしてくれるエルフの一人が、答えてくれた――。



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