第865話 エルフの集落へ向かって移動中



 ヴェンツェルさんの家柄について、貴族であるフランクさんから聞いたとフィネさんから説明を受ける。

 話しを要約すると、どの代が最初かはわからないけど、ヴェンツェルさんの父親が騎士爵を持っていて、家名も持っている。

 その父親が爵位を返上したり亡くなったりする前に、ヴェンツェルさんが騎士爵を叙爵され、家名もそのままになっている、という事かな。

 なので、親族は家名を名乗る事を許されていて、一族はそれで続いているんだろう。

 武門の家系かぁ……フィネさんも言っていたけど、カーリンさんやその両親が、なんで料理をしてお店をとなっているのかは確かに不思議だ。


 ……単純に、料理が好きだったからって事もあり得るけど。

 とりあえず、王都に戻った時にヴェンツェルさんや姉さん、ハーロルトさん達にお土産話ができたね。

 ハーロルトさんはともかく、姉さん辺りが面白がりそうな話だね――。



「今日はここくらいかな。お疲れ様、エルサ」

「了解なのだわー」


 大きくなったエルサに乗って出発し、真っ直ぐ南下してしばらく……日が暮れ始めた頃合いを見計らって、地上に降りる。

 無理をすれば、今日中にエルフの集落へ到着できるだろうけど、向こうには何も報せていないのに、いきなり夜中に行くのは迷惑だからね。

 一刻も早くいかないと! という状況でもないので、のんびりだ。


「ふむ、少し懐かしく感じるな……」

「どうしたのアルネ?」


 地上に降りて小さくなったエルサを頭にくっ付けつつ、各自で野営の準備をし始めている中、アルネが周囲を見渡すようにしながら何やら呟いていた。


「いやなに、この場所……正確には違うが、初めてリクやエルサ様と会ったなと思い出してな」

「そう言えば、アルネやフィリーナと会ったのはエルフの集落に行く途中だったっけ」

「ああ。人間に助けを求めようと、集落を離れている時だったな。オーガに追われて大変だったが……」

「それをエルサが見つけて、俺とソフィーが倒して……だったね」


 出会った場所と全く同じではないけど、わりと近い場所だから思い出したんだろう。


「でも、アルネとフィリーナならオーガ二体くらいなら、なんとかできるんじゃない?」

「それは、今だからこそだな。あの頃はあまり戦闘はできなかった……だからこそ、集落を離れるようエヴァルトから言われたのもあるのだろうが。もちろん、長年生きているから魔物を見た事はあるし、戦った事もある。だが、元々エルフは非力だからな……」

「エヴァルトさんを見ていると、非力とは思えないけど……でもアルネやフィリーナは、細いし確かに非力だって言われても納得できるかな」


 フィリーナなんて研究で編み出した魔法を使って、ツヴァイの研究所でオーガと戦っていたからね。

 なんであの時は逃げていたんだろうと思ったら、まだ戦闘に不慣れだったからという事のようだ。

 エヴァルトさんは、美形のエルフなのにマックスさんやヴェンツェルさんのように筋骨隆々としているので、非力には見えないけど……アルネやフィリーナはエルフというイメージそのままで、美形で線が細い見た目だ。

 アルネやフィリーナだけでなく、集落のエルフ達も魔法以外に弓を使う事はあっても、剣とかで直接戦闘をするのは苦手っぽかったから、オーガは相性が悪い相手と言えるんだろうと思う。


「まぁ、リクが集落にいる時、ソフィーから剣について習っていた者達もいたし、戦った経験も得られた。いまなら俺もフィリーナも、オーガ二体くらいは対処できるだろうな。集落にこもっていた頃より、俺達もそうだが他のエルフ達も体力含めて、大分変っただろう。ただエヴァルトは、エルフでも特殊な例として考えておいてくれ」

「あはは、まぁエヴァルトさんはいいとして、エルフの皆が簡単に魔物にやられなくなるのはいい事だよね」

「まぁな。だが、さすがにあの時と同じように、もう一度多くの魔物が押し寄せて来たら、どうしようもないだろうが」

「それは仕方ないと思うよ。いくら魔物を相手にできるって言っても、限界があるから」


 集落へ魔物が押し寄せてきたのは二回あったと思うけど、その両方とも集落にいるエルフの数倍は数がいたからね

 ヘルサルや王都、ルジナウムの時程多くなくても、一つの集落ではどうにもできないだろう。

 

「限界があるのかどうかすら怪しいくらい、大量の魔物を相手に立ちまわるリクに言われてもなぁ……」

「いや、俺も色んな人に助けてもらっているから、できた事なんだけどね」

「リクさーん、ちょっとこっちを手伝ってー!」

「あ、わかったー!」

「まぁ、リクに限界があるかはともかく、以前の事を思い出すよりもまずはここで一晩過ごす準備をしなければな」

「そうだね。あ、寝る時は同じテントだから、遅くまで研究をしようとか考えちゃだめだから」

「な、なんだと……」


 アルネと話していると、野営の準備を進めていたモニカさんから声がかかった。

 そちらを見ると、テントを張るのに手間取っているみたいで、手伝いが欲しいようなので手を振って応える……ソフィーは、焚き火用の枝を拾っているか。

 フィネさんもいるけど、さすがに二人で二つのテントを設置するのは苦労しそうだと、アルネとの話を切り上げてモニカさんの待つ方へと向かった。

 途中、アルネに夜な夜な研究しないでと注意をする事も忘れない。

 同じテント内でごそごそと研究をされたら、気になって熟睡できないし、エルサが文句を言いそうだからね……アルネの寝不足解消のためでもある――。



―――――――――――――――



 ――翌日、テントなどを片付けて再びエルフの集落に向かって出発。

 起きる時間や朝食も少し遅めでのんびりしていたから、到着するのは昼過ぎくらいかな……途中で、エルサが騒ぎそうだから昼食も用意しないといけないし。

 ちなみにアルネは、荷物に入っているソフィーから預かった剣をチラチラと見ていたけど、エルサに「うるさくしたら安眠できないのだわ」と言われて、渋々だけど横になってくれた。

 まぁ、これまで寝不足が続いていたからか、横になったらすぐに寝息を立てて熟睡していたけど。


「……ここが、エルフの集落なのですね。私は初めてですが、本当に人間が入っても変な目で見られないのでしょうか?」

「大丈夫だ。ここには以前もリク達や他の人間が来た事がある。以前から人間との交流を持とうと進めていたし、あの時の事もあって人間を邪険に扱う事はないだろう。それに、リクがいるからな……止めないと総出で歓迎しそうだ」


 途中、お昼休憩を挟みつつ、日が傾くより前にエルフの集落付近へ到着。

 さすがに、集落のど真ん中にエルサで降り立つ事はできないから、歩いて数分くらいの場所で降りた。

 入り口へと向かいながら、初めてここへ来るフィネさんが何やら緊張した様子。

 もしかすると、エルフの人間に対する偏見みたいなことを聞いていて、それが原因なのかもしれない……長老さん達とか、酷く人間を嫌っている様子だったからなぁ――。



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