第866話 エルフの集落に到着
人間とエルフは対立とまでいかなくとも、今まで交流が少なかったのは事実。
エルフは人間を受け入れないという噂やイメージが広まっていても、おかしくないというか……実際にそう考えているている人は多いらしい。
まぁ、近くにアルネやフィリーナがいて、奇異の目を向けられる事はあっても王都やヘルサルとかで過ごしているから、少しずつ誤解は解けているとも聞いたけど。
さすがにアルネが言っているように、総出で歓迎は止めて欲しいけど、お互い少しずつ距離を縮められているように感じて、ちょっと嬉しい。
「また前のように広場で、エルフ達が膝まづいたりするの?」
「え、エルフが膝まづく……? リク様、以前来た時は何をされたのでしょうか?」
「いや、あの時はエルサが大きくなって見せたからで、俺に対してじゃないですから」
「リクは集落を救った。我々エルフもそれには感謝しているから……似たような事はあってもおかしくないな。いや、むしろ服従の誓いでも……?」
フィネさんに大丈夫と伝えるアルネの横で、以前の様子を思い出したモニカさんが、首を傾げながらポツリと漏らす。
そういえば、そんな事もあったなぁ……あの時は俺じゃなくて、エルサに対してありがたがっていた、というのが正しいけど。
ともあれ、同じ事はないとフィネさんに伝える俺を余所に、アルネが不穏な事を呟いたりもしていた。
いや、さすがに服従の誓いとかはないでしょ……ないよね? あっても、受け入れる気はないけど。
「ん? 前に来た時より賑やかな気がするけど……?」
「そうね。まぁ、以前来た時は魔物の襲撃があった直後だったから、静かだったんだろうけど」
「ふむ、暮らしていた俺からしても、少々賑やかに感じるな。何か、大物でも仕留めたか?」
「大物?」
話しながらエルフの集落へと近付くにつれて、賑やかな声のようなものが聞こえ始める。
声と言ってもただ騒いでいたり、誰かが叫んでいたりとかではなく、ざわめきというか雑踏のような賑やかさかな。
以前来た時は、入り口に近いとは言っても賑やかな音が聞こえてきたりはしなかったんだけど……アルネは何か思い当たる節があるようだ。
「集落の付近には、あまり見かけないのだが……魔物なりなんなりで、大型のものを仕留めて持ち帰ると、一時的に集落の者達が集まって宴会のようになる事があるんだ。もちろん、仕留めるのは単独ではなく数人以上で組んでだが、狩りの成果として歓迎するようなものだ」
「成る程ね……ちょうど、俺達が来るタイミングで、その大物を持ち帰ったから賑やかになっているって事か」
エルフの集落は半分が森の中なので、魔物が周辺にいるのは珍しくない。
けど、大物……つまり大型の魔物がいるのは珍しい事らしく、それを仕留めたら食料だとか素材とかで、お祭り騒ぎっぽいくなるって事だろう。
ラクトス付近や、ロ―タのいるオシグ村近くの森より、木々が密集しているのもあって大型の魔物は棲み付きづらいのもあって珍しいとか。
おそらく、どこかからはぐれたか気まぐれな魔物が、草原の方で見つかってエルフさん達が頑張って倒した……とかかな。
「しかし……それとは違う雰囲気な気もするな。大体、そういった魔物は集落の広場に持っていかれるから、入り口付近まで騒がしくなる事は少ない」
「広場とここじゃ、結構離れているからね。だとしたら、何か別の理由があるのかな?」
広場は集落の奥なので、俺達が今いる辺りまでは叫んでもほとんど声が届く事はないはず。
あっちが賑やかになっているなら、今いる俺達の所まで賑やかな音が聞こえるのは、ちょっと不思議だ。
「なんとなくだが、慌てたり争ったりという感じには聞こえないから、問題が起こっているわけじゃないんだろうが……」
首を傾げるアルネだが、とりあえず集落に入ってみればわかるかもと思って、そのまま入り口から中へと入る。
柵や建物があって、集落の内部がほとんど見えなかった視界が広がって、ある程度集落を見渡せるようになった。
相変わらず、不規則に建物が立っているので見晴らしがいいわけでもないし、入り組んでいるなと思うけど……これは……。
「人間が、集落の中で歩いている……だと?」
「どう見ても、エルフじゃない人間がいるね。あ、あっちには獣人さんも」
「……以前来た時は、こんな事はなかったな?」
「そうね。私達以外、エルフばかりだったわ」
「エルフの集落は、人間と一緒に暮らしていないと聞いていましたが……?」
「色んな人がいっぱいなのー」
内部を見て、賑やかな理由がなんとなくわかった……以前より人口が増えているというか、集落内を歩いている人の数が増えていたからだ。
それも、エルフだけでなく人間や獣人も一緒にいるのが、そこかしこに見えた。
この集落出身で、いつもの見慣れた光景が見られると考えていたアルネが、一番驚いている様子だけど、ユノ以外の俺達も驚いている。
前来た時は、俺達や途中から来たヤンさん達以外に、人間を見る事はなかったんだけどなぁ……。
「おや、お客さんかい? まぁ、最近はここもお客さんが珍しいわけじゃないか。――おーい! 新しいお客さんが来たみたいだぞー!」
「えーと、まぁ……客、で合っておるのかな?」
「アルネは里帰りだろうが、それ以外はな」
驚いている俺達の前を通りがかった男性、その人も人間だけど、俺達に気付いて声をかけられた。
すぐに、村のエルフ達の方へ向かって報せてくれる。
アルネはともかく、俺達は確かに集落にとって客で合っているか……とソフィーと顔を見合わせて納得する。
しかしこの男性、随分と村にと結婚でいると言うか、馴染んでいるなぁ……フィネさんみたいに、初めて集落に来た人だったら、こんな風にエルフへ向かって大きな声で知らせたりできないと思う。
「今日は新しい客の予定はないはずなんだが……どこかの旅人か? って、おぉ!?」
「でも、ここでは見ない顔だよ?……どうしたんだい、エヴァルトさん?」
「あぁ、エヴァルトさん。お久しぶりです」
知らせを聞いたエルフ達の間から、見覚えがあるというか、忘れようにも忘れられない筋骨隆々とした男性が進み出た……相変わらず、美形で線の細そうな顔をしていて、アンバランスな印象だ。
なにやら首を傾げていたエヴァルトさんは、俺達を見るなり驚愕する。
近くにいた男性はそんな様子を不思議そうにしている中、久しぶりの再会に会釈しながら挨拶をした――。
「……エヴァルト、どうなっているんだ? 俺がこの集落を離れたてから、大分様子が変わったようだが?」
エヴァルトさんとの挨拶もそこそこに、不思議がる男性を置いて以前寝泊まりするのに使わせてもらった、石造りの家まで連れて来られた。
現在ここは、誰かが寝泊まりするのに使われていないらしいが、有事の際には会議をするために使用されているらしい。
ちなみに、相変わらずの複雑な道を通って来たけど、その途中ですれ違う人達には、エヴァルトさん直々に案内しているのを見て、不思議そうな顔をしたり、何かあったのかと警戒する様子を見せている人もいた。
まぁ、すれ違うエルフさん達は俺の顔を覚えていて、すれ違う度に深々とお辞儀をするのもいたけど……不思議そうにしたりしていたのは、人間や獣人さん達だ――。
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