第798話 再会と勘違い



「目指していないどころか、なれるならなりたいわ。ランクは高い方が便利だもの。もちろん、実力が伴っていれば、だけどね。でも、急がなくてもリクさんがいるから……」

「リクと一緒にいれば、ランク以上の依頼をこなす事が多いからなぁ。そして、協力してくれるおかげで失敗はないと考えていい。まぁ、実力不相応な内容にはさすがに手は出さないが、なんとかやれているというのが現状だな。エアラハールさんによる訓練で、実力に関しては向上しているのもある」

「おかげで、焦らなくても自然とBランクになれる気がするの。だから、焦らなくても着実にやっていければいいと思っているわ。以前も言ったけど、近くにランクに無頓着な人がいるから……」

「あ~……」


 モニカさん、ランクに無頓着な人ってもしかして俺の事かな?

 俺だってランクにこだわりは……特にないけど……でも、ランクで実力や人柄が保証されるというのはわかるから、高いランクというのはそれだけ認められた気がして嬉しい。

 さっきマティルデさんにSランクも検討中と言われたけど、さすがにそれは不相応じゃないかとは思ったりもしているけど。

 まぁでも、モニカさんやソフィーの言う通り、ランクは戦闘の実力や依頼の達成率や人柄も拘わる事なので、焦って昇格しようというものでもない気がするのは確かだね。


「冒険者になった以上、Bランクとかの高ランクには憧れるけど……近くにAランクなのを気にしていなかったり、元Aランクで実力は確かなのに、女好きだったりする人がいるおかげで、焦って昇格しようなんて思わなくなったわね」

「冒険者はCランクで一人前、Bランクで一流と言われ、AランクやSランクは戦術兵器だの戦略兵器だのと言われたりもするが……近くにいるのがあれだからな」

「そうね……一人前というだけでなく、一流と言われたい気持ちはあっても、その上があれだからね……」

「ユノちゃんと仲良さそうに手を繋いでいますね……平和で何より、と思う事にします」


 何故か俺とユノが手を繋いで歩いているのに注目されている気がするけど……仕方ないじゃないか、ユノにねだられたんだから。

 まぁ、こうしているとユノが急に走り出そうとしても止められるから、悪くないし嫌だったりはしないんだけど。

 あとソフィー……Sランクはマティルデさんが言うには、一人で戦況を覆せるとからしいからわからなくもないけど、Aランクが戦術兵器というのは言い過ぎじゃないかな?

 戦術兵器と言ったら頭に浮かぶのは銃火器だけど……それは俺が日本人だからか。


 ともかく、そんな人を危険人物のように見ないで欲しいような……いやまぁ、ルジナウムでの戦闘の事とかを考えると、あながち間違いではない気がしてしまうけどさ。

 あと、魔法関係なしなら、ユノの方が俺より強いだろうから……ランクとか関係なく戦略兵器と言っていいと思う……ユノを重要拠点に放り込んだら、一人で壊滅させそうだしなぁ。

 まぁ、手を繋いでいる今は、単純に好奇心旺盛なただの子供なんだけどね。


「あら? リク君じゃない! しばらく見なかったけど、王都に戻って来ていたのねー!」

「ん? あぁ、アメリさん」


 なんだかんだと話しながらも、町中を歩いて散策している時、通りかかったお店の中から女性が出て来て、俺を見てすぐに声をかけてきた。

 一瞬、以前のように人が集まってしまうのでは? と思ったけど、声をかけて来たのはアメリさんで、その他に集まってくる人はいなかった。

 人通りがあまり多くないから、助かった……のかな? 一応、こちらに視線を向けている人はいるようだけど。


「あら……あらあらあららぁ?」

「あ、アメリさん? どうしたんですか急に?」

「うふふふ、リク君も隅に置けないのね? いえ、英雄だから当然なのかしら……こんなに綺麗どころを連れて歩いて……ただ、子供は止めておいた方がいいと思うのよ?」

「へ……何を……って! そ、そうじゃありませんよ!」

「あらぁ、誤魔化しても無駄よ? しっかり手を繋いでいるし、他に三人も女性を侍らせているんだから!」


 お店の出入り口から、声をかけながらこちらに寄ってきたアメリさんは、俺達を見ながら急に面白そうなものを見つけた! という表情になる。

 どうしたのかと思っていたら、何を勘違いしたのか、アメリさんはモニカさん達の事を見て俺が女性を侍らせて歩いていると勘違いしてしまったようだ。

 そりゃ、モニカさんにしろソフィーにしろ、フィネさんもそうだけど、皆魅力的な女性だとは思う……けど、そういう関係じゃないですからね!

 しかも、手を繋いでいるユノまで……実年齢はともかく、さすがに俺は年端も行かない女の子を、なんて事は考えないから。


「誤魔化していませんよ! この人達……モニカさん達は、俺の冒険者仲間で……ユノは冒険者じゃないけど……」

「リクの妹なの!」


 勘違いしたアメリさんを放っておいたら、謂れのない噂が発生しそうだったので、慌てて訂正する。

 ユノは最近忘れがちだった、俺の妹設定を主張……そういえば、そんな話になっていたっけなぁ。

 姉さん以外は、ユノの詳細をはなしていなかったっけ。

 兄とかではなく、ずっとリクと呼ばれているから、皆には妹って言っているのを忘れかけていた……大体は、見た目からは想像のつかない強さのせいだと思うけど。


「ふーん、ほーん……そうなのねぇ……」

「……信じてません?」

「そんな、英雄リク君の言う事だもの。信じるわよ? もう、ちょっとお姉さんが気のない返事をしたら、気にしちゃうんだから!」

「気のない返事というか、信じてなさそうな相槌だったので……」


 なんだろう、アメリさんってこんな性格だったっけ? いやはっきりとどういう人かわかる程、一緒にいたわけじゃないけど。

 前は、オーガから助けたり、いきなり王城に連れて行ったりもしたうえ、姉さんやエフライム達と会って素を出す事ができなかったんだろう……と思う。

 苦手意識ではないけど、年上の女性相手になると逆らえないようになるのは、姉さんのせいなのは間違いないけど、アメリさんからはなんとなく近い雰囲気を感じるね。


「えっと、私がアメリ。リク君にオーガに襲われていたところを助けられたの。えっと、モニカちゃんとソフィーちゃん、フィネさんね? それとユノちゃん……兄なのにリク君の事を呼び捨てなのは珍しいけど、それも兄妹の形よね」

「あ、はい……モニカです。……ちゃん付けなんて、獅子亭の常連さんから呼ばれるくらいで、ちょっと懐かしいわね」

「ソフィーです……私は、ちゃんと呼ばれるのは初めてだな」

「えっと、フィネです。私だけ、さんなんですね……いえ、年齢が一人だけ上なのはわかっています……」

「妹でも、リクはリクで、ユノはユノなの!」


 アメリさんの勘違いを訂正する際に、同じ冒険者の仲間と紹介するついでに名前も伝えておいたんだけど、確かにモニカさんやソフィーをちゃん付けで呼ぶのは珍しいと思った。

 特に気にしなければ、呼び方なんてそれぞれの自由だけどね――。



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