第799話 アメリさんが同行者に加わる



 アメリさんからの呼び方を聞いて、それぞれが自己紹介をしつつ、顔を見合わせるモニカさんとソフィー。

 二人で小さな声で話しているけど……モニカさんが常連さんに呼ばれていたのは、俺も聞いているからともかく、凛とした雰囲気で口調も固め、女騎士然としたソフィーをちゃん付けで呼ぶのは新鮮だ。

 フィネさんは……まぁ、確かに俺達より年上なのは間違いないけど……詳しく聞いていないけど、二十代中盤から後半くらいとか……かな? アメリさんと同年代に見えるから、ちゃんではなかったんだろう。

 ユノは、とりあえずよくわからない主張……まぁ、兄と呼ばれたい趣味があるわけじゃないので、そのままでいいと思う。

 フィリーナとアルネも兄妹なのに、お互い呼び捨てだからね、エルフの習慣とかかもしれないけど。


「それで、リク君達はどうしてこんな所に? あ、やっぱり綺麗どころを侍らせてとか?」

「さっきも言いましたけど、違いますからね? 俺達は、ただ町を見て回っているだけです。まぁ、特に目的があるわけじゃありませんけど……」


 アメリさんの勘違いというか、そう思いたいだけのような気がしなくもないけど、モニカさん達に失礼なのでちゃんと訂正はしておく。

 ついでに、特に目的があるわけじゃなく見て回っているだけなのも伝える。

 目的は冒険者ギルドで、マティルデさんと話したりとかだったけどそれも終わったし、今は何も目的なく適当に話しながら歩いているだけだったからね。


「そうなの? それじゃ、私がご一緒してもいいかしら? リク君だけじゃなく、モニカちゃん達とも話してみたいわ」

「えっと……?」

「私は構わないわよ。……リクさんが、どう見ているかも観察しないと……」

「確か、聞いた話だとアメリさんはハーロルト殿の幼馴染なはずだぞ、モニカ? あぁ、私はもちろん構わない。他に何か目的があるわけでもないしな」

「私も構いません。王都には何度も来ているので、見たい場所があるわけでもありませんから」

「私も構わないの。お姉さんとお話しするの!」

「あらぁ、ユノちゃんは可愛い事を言ってくれるわね~?」


 ここで会ったのも何かの縁……とばかりにアメリさんが一緒にと提案。

 特に断る理由もないし、目的なく見て回るだけなんだから、人が増えても問題ないだろうと考えつつ、一応他の皆に視線を巡らせた。

 俺が勝手に決めて、不満が出たらいけないからね。

 皆反対意見あ出る事もなく、すんなりとアメリさんも同行する事に決まった。


「それじゃ、アメリさん。よろしくお願いします。まぁ、特に何かあるわけじゃないですけど……」

「はい、よろしくされました。目的がなく見て回るならそうね……ここしばらく王都を見て回っていたから、それなりに面白そうなお店を知っているわ。さすがに、くまなく見て回ったとは言えないけどね?」

「……王都なら、私も子爵様やコルネリウス様に同行して、何度も来ているので案内できますが……ここはアメリさんに任せた方が良さそうですね」


 アメリさんか俺達に加わり、王都の案内は任せて欲しいとばかりに胸を張る。

 まぁ、まだ長く滞在しているという程じゃないから、どんな場所でも案内できるというわけではなさそうだけど、噂の事を考えれば色んな場所で関りを作っていそうだから、任せてみよう。

 フィネさんの方が色々知っていて詳しそうでもあるけど……一歩引いて、今回はアメリさんに任せる事にしたようだ。

 なんにせよ、適当に散策しているので何か新しい発見とかがあれば面白いだろうけど、無理にそういうのは求めていないので、楽しく過ごせればそれでいいかな……なんて考えていたら。


「リクー、お腹が空いたのだわー!」

「お、そろそろそんな頃合いか……」

「そうね……そういえばもうお昼を食べる頃ね。それじゃ、私が美味しいお店に連れて行ってあげる! 色んな場所を見て回っていた時、偶然見つけたのよ!」

「わかりました、そこに行ってみましょう。皆も、それでいいかな?」

「えぇ」


 エルサの腹時計が昼食の時間を報せて、まずはお昼を食べる事になった……空を見てみると、確かにお昼と言っていい日の高さで、俺を含めて皆お腹が減って来ていた頃合いらしい。

 正確なお報せで、ある意味助かるね……というか、皆饅頭を食べていたのにもうお腹が減ったのか……あれから結構時間が経っているし、それも当然か。

 モニカさん達にも聞いて頷いたのを確認し、アメリさんを先頭にして昼食を食べに向かう。

 その道中、俺と一緒に王都に来てからの話を聞いてみた。


「ハーロルトは毎日お城で仕事だし、私の方はやる事がなくて暇なのよね。だから、自然と毎日王都を歩いてみて回っているのよ」

「ハーロルトさんは、役職的にも忙しい人ですからね」

「そう、そうなのよ! 夜遅くになって自宅に戻って来るんだけど、それ以外はほとんど出ているわ。帰ってこない日もあるくらいよ。まぁ、確かにハーロルトの仕事がどんなものなのか知ったから、どれだけ忙しいのかもわかるんだけど……。あ、でも内容までは教えられていないわ。私が知っちゃったらいけない事だろうからね」

「まぁ、重要機密とかもあるでしょうから」


 ハーロルトさんは情報部隊の隊長として、軍ではヴェンツェルさんの次くらいの地位だし、やる事がいっぱいあるだろうからね。

 ……書類仕事から逃げ出したヴェンツェルさんを捕まえるのも、その業務に入っているのかはとかく……ここ最近、俺も関わっている事が忙しい要因にもなっているとも思う。

 さらに言うと、帝国だとか研究施設だとかの関係で、これからさらに忙しくなりそうな……ハーロルトさん、倒れてしまわなければいいけど。


「まぁ、自由にさせてもらっているのは、いい事なんだけどね……王都での滞在費その他も、面倒を見てもらっているからね。重要な地位にいるというのはわかっているし、久しぶりに会った私の相手を……なんて、わがままも言えないわ」

「一緒にいたくてもいられない……お願いしたくても、相手が理由あって忙しいのもわかるから言えない……わかります!」

「そういった際には、大体男性の方は遅くに帰って来ても、ほとんど会話もなく休むだけ……なのですよね……」

「そう、そうなのよ! 何か話したいから、私から話題を振っても『あぁ……』とか、『そうか……』って言うくらいで、全然話が膨らまないの! 疲れているのはわかるんだけどね……」

「……こういう話は、私はよくわからないな……うーむ」

「俺も同じだよ。まぁ、俺の場合は男だし、ハーロルトさん側だからだろうけど……」

「モニカ達、凄い勢いなの!」


 アメリさんがポロっと愚痴のような言葉を漏らし、モニカさんとフィネさんが前のめりに反応。

 姉さんが邪推していたけど、アメリさんの方はまんざらでもないのか、ハーロルトさんに構って欲しい……という感じなのかな?

 こういった恋バナっぽい事は、俺にはよくわからないんだけど、モニカさんとフィネさんは興味がありそうだ……まぁ、女性らしいっちゃらしいのかもしれない。

 ただ、同じ女性のソフィーが首を傾げたり、よくわからなくて唸っているので、単なる個人差かもね――。


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