第797話 フィネさんからの申し出
「迷惑でないのなら、このまま同行させて欲しいと思います。リク様達と一緒にいることで、私もまだまだ学べることが多いかと。……いえ、思うではいけませんね。リク様、このまま私が同行する事、お許し頂けるよう、お願いいたします」
「あー…えっと……?」
「いいんじゃない? フィネさんは頼りになるとリクさんも言っていたし、私もそう思うわ」
「そうだな。Bランクになるまでにも様々な経験をしているだろう。その話も聞いてみたいな」
「フィネ、いい人なの!」
改めて、俺達に同行する事を頭を下げてお願いしてくるフィネさん。
フィネさんにとっての利点があるのかはわからないけど、一緒にいてくれれば頼りになるのは間違いない。
とはいえ、すぐに俺が決めてもいいものかと、モニカさん達に視線をやると、皆頷いて肯定している様子。
ユノの、根拠のないいい人という主張はどうかと思うが……いや、いい人じゃないというわけではなくだな……懐いているようだからいいんだろうけど。
ともあれ、反対する意見もなさそうなので、これからはフィネさんにも同行してもらう事にしよう。
いや、同行というより、仲間として一緒にいてもらおう。
「わかりました。それではフィネさん、これからよろしくお願いします。頼りにしてますよ?」
「はい。きっと、リク様のお役に立てるよう、微力を尽くします!」
「……俺の役にというより、仲間として一緒に……ですね」
いつまでという期間は特に決めていないけど、フランクさんやコルネリウスさんのところへ戻るまでは、仲間としてやっていけばいいだろう。
フィネさんの申し出に頷き、手出してお互い握手。
それにモニカさんやソフィー、ユノも手を重ねて、仲間として受け入れる事を承諾した。
あ、一緒にいて、それもただ同行するだけだったり、お客さんのような扱いではなく仲間としてなら、注意しておく事があった……。
「……フィネさん、早速なんですけど……気を付けて欲しい事があります」
「はい、何なりと。朝は早く起こした方がよろしいでしょうか? それとも、ゆっくり寝て頂く方がよろしいでしょうか?」
「いや、それじゃフィネさんがヒルダさんみたいな、お世話係とかになってしまいますから、さすがに違いますよ……」
フィネさんに言いたいのはそういう事じゃない。
というかフィネさん、俺達のお世話をするとか、そういうことを考えていたんだろうか?
もしかすると、コルネリウスさんといる時に似たような事をしていたのかもしれない。
冒険者でありながら、貴族家に仕える者として率先してやっていたのかもしれないけど……。
「そうじゃなくて……エアラハールさんは知っていますよね?」
「はい。リク様達と一緒にいらしたお爺さんですね? 確か、元Aランクの冒険者で、リク様達皆の訓練をしているとか……」
「そうです。そのエアラハールさんなんですが……油断すると、体を触られるので気を付けて下さい」
「……え? 体を、ですか?」
「はい。えっと……この先はモニカさん達が話した方がいいかな? さすがに、男の俺から説明するのもね……」
「そうね。わかったわ。えっと、フィネさん。エアラハールさんは元Aランクだけど……」
エアラハールさんに関する注意はしておかないといけないよね……フィネさんも十分に魅力的な女性だし。
初めて会った時のように、油断してモニカさんやソフィーのお尻を触ったりされないようにしなきゃいけないし、そこで変にトラブルを起こしてもいけないからね。
事細かに説明するのは、さすがに男の俺から言うのは憚られたので、モニカさん達に任せる。
ただモニカさん、どこそこの部分を撫でられてどの程度の強さかとか……細かく説明するのはどうなんだろう? フィネさんの顔が真っ赤になっているんだけど。
女性同士の方が、男同士よりもこういう事を赤裸々に話す……というのは、姉さんから聞いた事があるけど、その時は小さかったのでよくわからなかった。
……あれってこういう事だったかな? いや、違うかもしれないけど……。
ともかく、変に聞いてしまって俺まで赤面してしまったらいけないので、エルサの手を使って耳を塞いでおいた。
エルサに文句を言われているっぽいけど、耳を塞いでいるので聞こえない……手を使ったのは、モフモフで気を紛らわせようとしたからだけどね。
……エルサの手って、肉球はないけど手の平の部分までモフモフしてて気持ちいいから。
「……」
「ん、あぁ、終わったんだね」
「……勝手に私の手を使うなだわ」
ソフィーに肩を軽く叩かれて、話しが終わったんだと気づく。
多分、声も出してくれてたけど、耳を塞いでいたから聞こえていなかったんだろうね。
エルサの手を耳から話すと、案の定頭上から文句を言われたけど気にしない……結界を使って塞ぐって方法もあったけど、どうせならモフモフを感じた方がいいからね。
……耳がモフモフに包まれるのは、また違った幸福感だったなぁ……フッカフカのイヤーマフを付けている状態、というのがわかりやすいかもしれない。
「えっと……とりあえず、町を見て歩こうか。そっちの方が気分転換できるだろうし……」
「……はい……すみません……」
「……ちょっと、私も突っ込んで話し過ぎたわ……」
耳を塞いでからは、どんな事を話していたのかわからないけど、結構赤裸々にモニカさんが話したらしい。
顔を真っ赤にしているフィネさんとモニカさんは、まだ平常心で話せる状態じゃなさそうに見えたから、気分転換に町を見ながら歩く事を提案。
元々そうするつもりだったからね……ソフィーは積極的に話に参加していなかったようで、平常心に見えるし、ユノはニコニコするだけだけども。
でも、リンゴみたいに真っ赤になる程って……どんな事を話していたんだろうか? なんとなく、エアラハールさんの事だけじゃない気もするけど……気になっても聞かない方が良さそうだ――。
「そういえば、モニカさんとソフィーさんは、Bランクになるのを急いだりしないんですね?」
ある程度町の歩き、適当に見て回っていたおかげか、モニカさん達が落ち着いた頃合いにフィネさんから質問された。
俺に、というよりモニカさんとソフィーにだけど。
「なれるのなら、Bランクになりたいと思うけど……急がなくてもねぇ?」
「そうだな。まぁ、リクと出会う前だったら飛びついていただろうが、今はな……」
「今は、どうしたんですか? 目指していないというわけではなさそうですけど」
フィネさんの疑問に、モニカさんとソフィーが顔を見合わせて、なぜか俺へ視線をちらりと向けながら話す。
二人の反応に、不思議そうに首を傾げるフィネさん。
ユノはそんなモニカさん達の様子は気にせず、俺の頭からエルサを奪って腕に抱き、行き交う人や通る店を見て楽しそうにしていた……昨日もモニカさん達と歩いたはずだけど、ユノにとっては賑わう人を見るのが楽しいのかもしれないな。
見た目とは違って、ユノは本当に子供というわけじゃないから大丈夫だろうけど、急に興味を引かれた何かに向かって走り出さないよう見ているので、モニカさん達の話は聞くだけにしておこう――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます