第796話 モニカさん達の昇格話



 モニカさんとソフィーが、Bランクに昇格するという話をマティルデさんから聞いた。

 それによると、俺と同じパーティでAランクやSランク相応の人間と一緒にいるからと、贔屓目に見られての昇格を良しとしない部分が、人柄として認められているという事だろう。

 あと、実力や実績に関しては、冒険者としての期間が短いモニカさんもいるため、もう少し依頼をこなすなどの実績を見せれば、昇格するに足ると判断されるって事かな。

 ソフィーはともかく、モニカさんは俺と同じ日に冒険者になったから、まだ一年も経っていないからね……仕方ないか。


「それじゃ、リク君に頼みたい依頼があるんだけど……モニカやソフィーにも、丁度いいと思うわ」

「あー、それなんですけど……」


 真面目だった雰囲気を少しだけ軽くしつつ、マティルデさんが俺達に次の依頼をと、依頼書を取り出そうとしてくれるのに対し、少し申し訳なく思いながら止める。

 依頼をこなしたい、こなした方がこれから先有利に働く……というのはわかっているんだけど、しばらくのんびりすると決めたからね。

 それに、エルフの集落にもう一度行く予定だから、今は依頼を受けない方がいいだろう。

 受けても、期日までに達成できるかわからないから。


「……そういうわけで、少しのんびりしながら色々と備えようかなと」


 エルフの集落とか、ハウス栽培に関してとかは説明していないけど、とりあえず依頼をこなすよりもまずエアラハールさんの訓練から、剣の技術を磨いたり、少しの間余裕をもって行動するつもりだと、マティルデさんに伝えた。


「そう、残念ね。まぁ、リク君たちじゃないといけない依頼というわけでもないし、さっきも言ったように、ギルドから冒険者に対して強制をする事はしないわ。でも……これ以上剣の腕を磨くのね……」

「まぁ、力任せな事が多いですから。もちろん、余裕を見て依頼を受ける事もあると思うので、一切冒険者として活動しないわけじゃありません」

「それなら問題ないわ。有望な冒険者には、どんどん依頼をこなして欲しい……というのがギルド側の本音だけれどね」


 マティルデさんだけでなく、ミルダさんも残念そうにしているけど、依頼ばかりだけでなくのんびりしながらでも、色々と見たり訓練をしたりしたいからね。

 全く依頼を受け付けないとかではなく、緊急性があったり余裕があれば、簡単な依頼を受けるくらいはしようと考えている。

 ともあれ、ルジナウムでの戦いで実感したけど……俺はもう少し力加減というか、戦い方を学ばないといけないと思うんだ……もちろん、もっとこの世界というか、この国を見て回ったりしたいという方が強いけどね。

 最善の一手を使えるように……とまではいかなくとも、力任せなだけでなく、考えて戦えるようになればルジナウムではもっと楽に対処できただろう。


 それに、魔力量も増えたらしくて慣れた魔法以外は制御が難しくなっているようだし、そちらの方も練習して失敗しないようにしたいからね。

 魔法関係は、エルフの集落に行った時に話を聞くのもいいかもしれない。

 ドラゴンの魔法じゃなくても、魔法関係はこの世界じゃエルフの方が詳しいみたいだから。


「それじゃ、また依頼を受けたくなったら来てね、リク君。あ、もちろんそれ以外でも、ここへ来てもいいのよ? それこそ……私に会いに来るってだけでも、大歓迎だから!」

「は、はぁ……」

「……むっ」


 なぜか胸を強調するようにしているマティルデさんに、ぼんやりとした返事しか返せない俺。

 とはいえ、年齢不詳で色気を振り撒いているようなマティルデさんだけど、協調している胸に関してはモニカさんの方が大きくて目を引く。

 隣では、そのモニカさんが不機嫌なオーラを醸し出しているので、どういう反応をするのが正しいのかわからない。

 ちなみにソフィーやフィネさんは、若干あきれ顔というか……やれやれと肩を竦めている……フィネさん、マティルデさんと初めて会ったのに、モニカさん含めてこの場の雰囲気がどういったものか、理解しているのかもしれない。


 なんにせよ、女性の一部分に注目するのは失礼だと、姉さんに小さい頃教え込まれているので、頭にくっ付いているエルサのモフモフに意識を向けておいた。

 ……そういえばエルサも女の子らしいから、それはそれで失礼なのかな?

 いやでも、モフモフに意識を集中しない……という事はできないから、これは仕方ない事なんだ、きっと。



「さて、それじゃ囲まれなくなった事だし、町を見て回ろうか……と思うんだけど、フィネさん?」

「なんでしょうか、リク様?」


 マティルデさんとの話を終え、預けてあるお金や報酬の確認も済ませた後、冒険者ギルドを出る。

 ……俺がヴェンツェルさん達に対して、全面的に協力した事を知っていたから、わざわざ報告に来る事はなかったかもしれないけど……直接報告に行くのは重要だと考える事にしよう。

 ともあれ、自分から目立つ事をしなければ町を歩けるようになったと、以前使ったギルドから近い地下通路の出口になっている建物を、少し感慨深く眺めながら、ずっと一緒にいるフィネさんに問いかける。

 フィネさん本人は、俺から何か聞かれると思ってなかったらしく、キョトンとして首を傾げていた。


「いやその……一応王都に到着したので、フィネさんはもう自由に行動していいんじゃないですか?」


 フランクさんからの頼みは、コルネリウスさんとの距離を物理的にも離す事で、とりあえずフィネさんを王都まで同行させるだけのはず。

 それ以後の行動はフィネさんの自由だし、聞いた話では滞在する際の宿代もフランクさんが出しているという事で、モニカさん達と同じ宿に泊まっているらしいけども。

 宿に関して、フィネさんは適当な宿に止まれればと言ったらしいけど、迷惑をかけるのでフランクさんがちゃんとした宿に泊まりなさいと言われたらしい……高級な宿に泊まるのはと躊躇していたフィネさんは、モニカさんから泊まっている宿の事を聞いて、それならばと同じ宿にしたとの事だ。

 勲章授与式の際には、モニカさん達に用意された宿はほぼ満室状態だったらしいけど、貴族達がそれぞれの場所へ帰った後は、部屋に余裕がある状態だったらしい。


 まぁ、いい宿でも高級だから誰でも泊まれるわけじゃないよね。

 それはともかく、今はフィネさんの事だ。

 王都まで来たし、冒険者ギルドにも来たんだから、もう一緒に行動する理由はないと思うんだけど……フィネさんが嫌とか、一緒に行動したくないとかではないんだけどね。


「私は迷惑でしょうか……?」

「いやいやいや、フィネさんが迷惑だなんて事はないですよ! 頼りになる人だと思ってます。研究施設でもさすがBランクだなと思わされる動きでしたし、模擬戦でも学ぶ事が多かったくらいですから」


 冒険者になってからの期間とかは詳しく聞いていないけど、ソフィーと同じくそれなりの経験を積んでいるようだし、参考になるうえに頼りになる人なのは間違いない。

 とは言っても、フィネさん個人として十分な力量で、ソロだったとしても王都の冒険者ギルドになら、相応しい依頼があるだろうしで、これからのんびりする事が多い(予定)俺達と一緒にいる利点が、フィネさんになさそうかなと思うんだ――。



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