第786話 命を弄ぶ行為は禁止



 魔力を大量に持っているうえで、分け与える際に繊細な制御が必要になるらしいから、俺がやると酷い事になりかねない……というか、なる想像しかできない。

 できるのなら、誰かをツヴァイのように強力な魔法を使うようにできるのかもしれないけど、失敗する確率が高すぎるし、人の命をそんな実験に使いたくないからね。

 ちなみにだけど、ユノやエルサに確認したところ、魔力を与えてもその与えた分の魔力を使い終わったら、通常に戻るんじゃないかと思ったんだけど、どうやら違うみたいだ。

 なんでも、本来の魔力を包んで与えられた魔力がその人に根付くため、与えられた側が持っている魔力として総量が上がる……という事らしく、無理矢理魔力の入る器を大きくした状態になると言っていた。


 そりゃ、無理矢理広げた器だと、何かの拍子にこぼれてしまう事も考えられるから、暴走したら悲惨な事になるのは当然の事のように思えるね。

 本来あるはずがない魔力を与えられて、自分の魔力と反発する事だって考えられるし、危険な要素が多過ぎてちょっと試す……なんて、気軽にやっていい事じゃない。

 ツヴァイの場合、エルフだから元々の総量というか器が大きい事や、多くの魔力を制御するのに長けていた事が幸いして、暴走はしないのかもしれない。


「ともあれだ、人を実験に使うのは我が許さぬ。リクの魔力を他人に与えるというのは、許可できんな。もちろん、魔物の研究もだ……観察しての研究であればともかく、命を徒に弄ぶ行為は今後も禁止する。良いな?」

「「「「はっ!」」」」


 女王様モードの姉さんが、強めの口調で禁止する旨を徹底させるように通達する。

 ヴェンツェルさん、ハーロルトさん、エフライムと宰相さんの四人が短く返事をして頭を下げ、俺やフィリーナ、アルネは黙って頷く。

 この場では、国に直接所属している人が女王である姉さんの命令に従い、俺やアルネ達エルフは、国民ではあっても直属というわけではないから、恭しくする態度で示すだけなのが好ましいと教わったからね。

 一応、この場は畏まった会議で公式の場ではあるけど、参加人数が多いわけでもないし、ひとまず報告を聞いて話し合うだけなので、気軽に練習をさせてもらっている。

 大体は、姉さんとヒルダさんにそうしたらと提案された事だけどね。


「さて、では次にだが……報告では帝国が拘わっている可能性があると聞いた」

「はっ。先程話した、死んだ男から得た情報や他の情報を考えると、帝国が関与している可能性はかなり高いと思われます」

「……そうですな。私は直に見ておりませんが、今回突入した建物の規模はかなり大きかったと聞きます。それに、ルジナウム、ブハギムノングでの事にも拘っているとなると、個人やちょっとした組織ができる事ではないと考えます」

「うむ。……帝国が関与していると見せかけている、という事はないか?」


 次の議題というか話し合う事は、俺がヴェンツェルさんと一緒に男から聞き出した情報……帝国が拘わっている可能性があるという部分だ。

 正確には、帝国がというよりも、帝国に近い場所でツヴァイによって連れ去られた事、使っていた馬車などから帝国に拘わる事柄が多いからの推測ではあるけどね。

 とはいえ、ツヴァイはフィリーナが知らないエルフで、この国のエルフではない事や、アテトリア王国に対して何かしらの行動を起こそうとしているのだから、帝国しかあり得ないだろうとも考えられる。


「そこまでははっきりと言えませんが……あれだけの規模を、国が拘わらずに行う事は不可能でしょう。もちろん、我が国にいる良からぬ事を考えている者の可能性も考えましたが……」

「その先は私が。国内の情報を集積していると、不穏な者達の情報も集まります。ですが、バルテルの凶行に端を発し、そういった者達は縮小を余儀なくされている傾向でもあるのです。そして、残った者達では、同じ規模で何かを行う……といった事は不可能と考えられます」


 ヴェンツェルさんの言葉を継ぎ、ハーロルトさんが情報部隊からの観点を報告。

 ルジナウムでは魔物を集めるための道具……これはクォンツァイタを使った物だったけど、それとブハギムノングを繋ぐための仕掛けを使っていた……こんな事、個人でやるには大規模すぎる。

 さらに、ブハギムノングの鉱山ではモリーツさんが隠れてエクスブロジオンオーガの研究をしていたけど、研究に使う試験管のようなガラスなどを、作ったり運び込むにしても、小さい組織ではできない事だね。

 そのうえ、ツヴァイ達がいた地下研究施設とカモフラージュの建物……建物だけならなんとでもなるだろうけど、地下にあれだけの施設を作るのに、それなりの組織が拘わっていたとしてもできるとは思えない。


「つまり、国に寄らない組織や個人では不可能なために、帝国が関与しているという事だな」

「はっ、必ずしも帝国そのものが拘わっているという、証拠はありませんが……状況を考えれば間違いないかと存じます。帝国に関係しそうな状況や物が、多く見つけられましたので」

「そうか。宰相はどう思う?」

「陛下……これは我が国への明確な攻撃意思とも取れます。報告によれば、ツヴァイなる者は魔物を使って戦争をとも言っておったとか。帝国が我が国を使った実験をし、国力を削ぐとともに侵攻する前段階なのではないかと」

「確かに、そうとも考えられるな。バルテルの凶行があった際には、軍事行動を起こそうとしていた……いや、起こしていたと言うべきか。そうだな、ハーロルト?」

「はっ! 国境では、帝国側に軍が集結していたのは確実です。バルテルの凶行を、リク殿が早々に収めて下さらなければ、我が国は侵攻されていたでしょう」


 帝国がアテトリア王国に対して、攻撃する意思があるのは以前からわかっていた。

 バルテルの事が収まってからは、残党のような奴らがエフライムやレナを捕まえたままにしていたくらいで、明確な何かがあったわけではないけど……今回判明した事を含めて考えると、まだ諦めているわけではなく、虎視眈々とその機会を狙っているように感じるね。


「そうだな……あの時はさらに魔物の襲撃もあったからな。リクがいなければ我が国は帝国によって蹂躙されていた可能性も高いだろう」

「お爺様の子爵領も、私を人質にして動ける状態ではありませんでした。そして、魔物が王城に襲撃した際に大打撃を受けてしまっていれば……」

「その先は言わなくてもわかる。最悪、開戦から短期間で王城陥落すらあり得ただろうな」

「はっ……」


 姉さんにエフライムがクレメン子爵領の事も付け加える……その表情は、自分が人質にされたうえ、レナも巻き込まれているからか、悔しそうだ。

 自分では何もできなかったからだろう……妹思いというか、シスコンの気があるから尚更かな。

 こうして考えると、結構綱渡りというか、帝国の術中にはまりそうでなんとか事前に防げているから、侵攻されずにすんでいるという感じだね――。



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