第778話 エルフの話をしていたらアルネが来た



 ソフィーやフィネさんは、歴史については詳しくないらしく、聞いてはいるけど俺と同じようによくわからないといった雰囲気。

 歴史と言えば元神だったり、長年生きているエルサだけど、そちらは特に興味なさそうにして……ユノは何やら、「アルセイスは……」なんて呟いているけど、何を言っているのはっきりと聞こえない。

 なんだろう?


「なんにせよ、エルフとはこれからも協力関係を築いていくべき、という事ね。幸いにも、アルネやフィリーナが言うには、エルフも人間に協力的になって来ているようだからね」

「まぁ……一部はまだ微妙な様子だけど……それでも、俺がエルフの集落に行った時はほとんどのエルフが、協力的だったよ」

「りっくんはエルサちゃんと一緒にいるし、集落を魔物から救ったりもしたから、協力的になるのは当然よね」

「……大きな怪我をしたエルフを、魔法で治したりもしていましたから」

「それだけやれば、確かに協力的になるわよね……」


 なぜか、また俺を褒める流れになってしまっている……話を変えなければ!


「エルフとは言っても、ツヴァイのようなのもいるから、全面的に信用するわけにもいかないようだけどね?」

「そうね……フィリーナのようにこの国にいるエルフではないようだけど、エルフだから信用するわけにはいかないわね。まぁ、人間も同じようなもので、それぞれの考えがあるし、信用できる人もいれば信用できない人もいるって事よね」


 報告は受けているのか、ツヴァイに関してアルネやフィリーナと同じエルフであっても、全てを信用するわけではないと言う姉さん。

 だからといって、エルフが……とか、この国にいるエルフに対して何かをしようと考えているわけではなく、それぞれ個人を見て信用できるかを判断するという事だろう。


「それにしても、そのツヴァイというのもエルフだから魔力が多いのに、さらに尋常じゃない魔力を持っていたらしいじゃない?」

「私はその場面を見ていたわけではありませんが、話を聞くと……常に可視化された魔力を纏っていたようです。それだけの魔力がある時点で、恐ろしい程の魔力量だと想像が付きます」

「そうよね……魔法を使う時だって、可視化されるのはエルフでも相当なものなのに……そんな相手を圧倒したりっくんは、やっぱり凄いわね!」

「そうですよね陛下!」

「……どうしても、その流れにしたいんだね、姉さん」


 悪乗りを続ける姉さん……フィネさんは真面目に同調しているんだから、もう少し控えて欲しい。

 どうあっても俺を褒める方向へと持って行く姉さんは、楽しそうなんだけど……もしかしてしばらく俺が戻って来なかったから、そのストレス発散をしているんじゃないかと疑ってしまう程だ。

 話題を変えてもこうなら、どうしたらいいのか……と思った瞬間、救いの主は部屋の外から訪れた。


「リク様、アルネ様が来られました」

「戻ったか、リク」

「アルネ。うん、ただいま」


 扉をノックされる音にヒルダさんが反応し、誰が来たのかを確認した後アルネを招き入れてくれた。

 話題を変えるまでもなく、アルネのおかげで変に褒められる流れを阻止できた、ありがとう!

 褒められるのは嫌とかじゃないんだけど、褒められたいと思ってやった事じゃないし、なんだかむず痒いんだよね……そういう時には大体、姉さんが拘わっているからな気がしなくもないけど。

 ……やっぱり、姉さん相手だと気恥ずかしいと言うかなんというか……。

 その姉さんは、アルネが入って来て話が中断されたからか、一瞬だけ不満そうな表情になったけど、煤に気を取り直していた……クォンツァイタやエルフの話ができると考えたからだろう。


「フィリーナから、クォンツァイタを受け取った。本人は言葉少なに、今日は休むと宿へ向かったが……しかしあの鉱石は凄いな。試しに俺の魔力を注いでみたんだが、一人では蓄積量が限界になる事はなかった。とはいえ、俺自身も限界まで魔力を使うわけにはいかないが」

「エルフの魔力でもそうなんだ。それじゃ、かなりの魔力を蓄積できると見て、間違いないね」


 フィリーナは、クォンツァイタをアルネに渡してすぐに休んだそうだけど、これは拘束者の連行中に男が死んだという事が関係しているんだろう。

 ともあれ、アルネは上摂ったクォンツァイタを早速とばかりに魔力を注いで、色々試し始めたようだ。

 エルフの魔力は人間より多いというのは周知の事実で、それでも満タンにならなかったのならかなりの量が蓄積できると考えられる。

 本人も言っているように、魔力の枯渇を避けるために抑えてはいたみたいだけど、それでも人間一人分よりは多いはずだ……数人分くらいの可能性もあるね。


「あぁ、それは保証する。調べた文献には、大量の魔力を蓄積しか書かれていなかったから、どれだけ蓄積できるかは不安だったんだが、あれなら問題なくリクの魔法を維持するのに使えるだろう」

「良かった……それじゃ、姉さんの考えたハウス栽培もできそうだ」

「ついにできるのね!」


 実際にどれだけの魔力を蓄積できるのか、見つけた文献には詳しく書かれていないため、試してみないとわからなかったんだろう。

 俺の魔法……つまりは、ハウス栽培のための結界を維持するのに使えると聞いて、姉さんが喜んでいる。

 嬉しいのはわかるし、国全体にも拘る事で国民の生活を豊かにするためでもあるのはわかるんだけど、女王様が万歳して喜ぶのは、止めた方がいい思うよ? ほら、フィネさんがポカンとしているし。


「陛下、クォンツァイタの事が先になり、順序がおかしくなってしまいましたが……ツヴァイという男がした事、同じエルフとして謝罪致します。どうか、エルフ全てが罪を犯す者ではないと、ご理解頂きたいのです」


 喜んでいる姉さんに、アルネが改めてツヴァイの事を謝罪。

 フィリーナもそうだったけど、人間と交流を持つ事を推奨しているエルフは、種族的な人数が少ないのもあって敵対するようにはしたくないんだろう。

 まぁ、姉さんが怒ってエルフの集落を……なんて事はないだろうけど、ただでさえ奇異の目で見られる事の多いエルフだし、悪い印象を与えたくはないんだろうね。


「わかっているし、アルネが謝罪するまでもないわ。ツヴァイは、この国いるエルフとは別の場所から来たエルフであり、アルネやフィリーナを始め、この国のエルフとは考えその者が違うという事もね。それに、これからはエルフにも協力してもらわないと、と考えていたのよ。共に、国を豊かに、そして国民が安心して暮らせる国を目指しましょう」

「はっ! 陛下のお言葉、ありがたく……」


 アルネの謝罪を受けて、姉さんが改めてエルフへの協力を求める。

 エルフの集落皆が、同じ方向を向くかどうかや、決定権まではアルネが持っているか微妙なところだけど、一応代表として来ているのだから、とりあえずの友好関係は約束されたと思っていいかな。

 エヴァルトさん達と接した経験から、おそらく反対される事はないと思う……長老たちは別だろうけど、なんか俺が怒った事で、弱まっていた発言力がさらに弱まったらしいから、大丈夫だろう――。



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