第779話 ハウス栽培の問題点



 それにしても、国民が安心して暮らせる国かぁ……日本だと、そんな事を考える事もなく安穏と平和を享受していたけど、この世界、この国は違うからね。

 魔物がいて、野盗がいて、さらに他国との関係もある……中々難しそうだ。

 でも、姉さんが民を虐げるような人ではないというのはわかっているし、そのためのハウス栽培だから、俺もできるだけ協力したいと思う。


「あれ? そういえばハウス栽培って、寒くても暑くても関係なく、一定の作物を育てられる事だよね?」

「まぁ、そうね。私もあまり詳しくないけど、雨とかの天候に左右されず、やろうと思えば明かりを使って日を当て続けたり、逆に遮断する事も考えられるわ」

「俺もなんとなくくらいしか知らないけど、そうだよね……明かりはともかく、雨とかは結界によって確実に防げると思うけど……温度はどうなるんだろう?」

「そりゃ、中で管理して……」


 ふとした疑問。

 結界で農地を覆っているから、雨だけでなく外から魔物が入り込んだりする事すら防げるはずだ。

 明かりというのは光合成とかが関係していると思うけど、さすがに透明な結界じゃ日の光を遮断する事はできない……まぁ、周囲を木の板で覆ったりすれば遮断できるだろうけど、基本的にはそこまで管理する必要はないと思う。

 だけど……温度管理をしないと、日が差し込んで暑くなり過ぎたりする可能性もあるし、逆に寒くなるとのを防ぐ事も難しいような?


 俺が首を傾げて疑問を口にすると、姉さんが答えようとして途中で何かに気付いた様子。

 温度を管理するにしても、ただ単に結界で覆っただけでできるわけはない……よね?

 出入口があるし、かなり余裕をもって結界で覆っているうえ、植物を栽培しているわけで酸素に関しては大丈夫だろうけど、さすがに温度はどうしようもない。


「そうだったわ……温度を管理しないと、正しくハウス栽培と言えないわね。多少は効果あるとしても……場合によったら、中は外より暑くなるだけという事もあり得るのよね」

「俺が知っているハウス栽培の施設より、ヘルサルでの結界はかなり余裕をもって張ったから、暑くなり過ぎるという事はないと思うけど……」


 この世界、というかこの国の今の季節は、特に日差しが強いと感じる程じゃない。

 なんというか、春に近いくらいで動けば汗ばむ事だってあるけど、二、三枚くらいの重ね着は普通だね……魔物とかに対して防御をする意味合いも強いけど。

 夜は涼しいけど、薄着だと結構寒く感じるくらいだから、空間に余裕を持っているラクトスの結界内で、温度が上がり過ぎるという事はないはず。

 でも、昼は暑くなっても夜は気温が下がるから、一定の温度とはならないし……少しくらいは効果があっても、大きく効果は出ないんじゃないだろうか?

 うぅむ……ハウス栽培どころか、農業に関して詳しくないから、よくわからないなぁ……。


「とりあえず温度管理についてね……暑すぎず寒すぎず、一定の温度にする必要があるわ。まぁ、作物によって育つ状況が違うから、育てる作物次第で保つ温度を変えないといけないわね。暖かくするのは、火を付けるなどをして……冷やす時はどうしようかしら……」

「温度を下げる時は、外の空気を取り込む……というのは難しいかぁ。下げる必要がある時は、外も暑そうだし……」


 姉さんと俺で、うんうん唸りながら温度管理について話し合うけど、決定的な方法が見つからない。

 いや、温度を上げる方法なら、内部で薪を使って火を焚けばいいんだし、簡単な火の魔法や、明かりのように暖かさが持続する魔法具を使えばいい。

 ……ちなみに魔法具はおお風呂程度の温度になるくらいなので、大きな空間を暖めるのには適していないけど、多少の助けにはなるかなという程度だ……城や高級な宿のお風呂に使われていたりする。

 まぁ、そういった場所で、各部屋のお風呂を薪で沸かすわけにもいかないからね……値段は安くはないけど高くもないといった程度で、薪を使うより少し費用が高いくらいだそう。


 人の手間がかるので、ハウス栽培ではそちらにお金がかかって、魔法具より高くなりそうだとか、色々考えることは多そうではある。

 けど、その逆で冷やす方法というのがほとんどない……暖めるのは手間や費用をかければできるけど、冷やす方法と言ったら、魔法で氷を作って置いておくくらいかな?

 ただ、それだと魔法を使う人の魔力次第になるし、手間がかかり過ぎるからね。

 常駐して魔法で氷を作り出す人を使えばいいのかもしれないけど、それはそれでかなり費用が掛かってしまうし、一人や二人ではできない事なので、それだけの人が集められるかどうかという問題もあるし、氷だけじゃ頼りないというのもある。


「うーん……ただ農地を覆っていればいいと思ったけど、結構難しいね……」

「そうねぇ。まぁ、そこまで深く考えず、ハウス栽培を思いついた事に意識が向き過ぎていたわ。作物によって環境も変えなきゃいけないし、全て同じように管理運営はできないわね」

「そうだね、暖かい場所で育つ物もあれば、寒い場所で育つ物もあるから……全て同じやり方でできるわけじゃないね」

「どちらにせよ、雨などの天候に左右されないようになるのは、ありがたいから、結界を張るだけでも助かるのだけどね。魔物の侵入も防いでくれるから、被害に遭う事も少なくなるわ」

「まぁ、出入り口は作らないといけないから、絶対魔物が入らないわけじゃないけど、守りやすくはなるだろうね。……それじゃ、結界で覆うだけで温度管理はなし、と考えた方がいいのかな?」

「惜しい物をなくす気分だけど、仕方ないわね。一応、暖かくして育つ作物の方は、試してみる価値はあるだろうけど、暑くし過ぎた際の対応が難しいわ。少しずつ考えてやるしかないのかしらね……」

「……リク、陛下。お悩みのところ申し訳ないのですが……もしかしたら、というだけで、確約はできませんけど……」


 結局、管理が難しいだろうと、一部で試験的に試して試行錯誤する余地はあれど、とりあえず結界を張るだけで妥協しようという結論が出かけた時、アルネが声を上げた。

 あまり自信がなさそうではあるけど、何か打開策を思いついたのかもしれない。


「アルネ、何か方法が?」

「方法がある、とはっきり言えるわけではないが……今の話を聞いていて、とにかく暖かくする方法と、冷やす方法の二つを確立させないといけないのだろう?」

「うん。まぁ、暖かくする方は何とかできると思うけど、冷やす方がね。ずっと氷の魔法を使い続けているわけにもいかないし、できないわけじゃないけど……わざわざやる利点が少なくなってしまうから」

「……まだ研究をしなければいけないとは思うが……クォンツァイタなら、それを解決できるかもしれん」

「クォンツァイタが? でも、魔力を蓄積させるだけで、そんな事ができるとは思えないんだけど?」

「魔法具にも、水を出したりする物はあるけど、氷を作るようなのは魔力蓄積が足りなくてできなかったはずよ。水を作り出してさらに凍らせるというのは、それなりに魔力が必要なはずだからね」


 魔力蓄積が足りないのであれば、クォンツァイタを使えば解決できるって事なのかな? でも、氷を作り出すだけだと、冷やす装置としてはちょっと頼りない気もするけど……。


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