第742話 捕まえた男の取り調べに参加
翌朝、朝食後に周囲を見回りつつ、拘束した人達を見張っている兵士さん達を労ったり、地下施設調査の進捗を聞いたりしているうちに、日が高くなって来た頃、昨日ヴェンツェルさんと一緒に男を追いかけていた兵士さんが駆け寄り、報告される。
「リク様、昨日の男が意識を取り戻しました。魔法を使っていたと言われた男は昨夜目覚めたので、既にこちらで調べを進めていますが……いかがいたしますか?」
「そうですね……ヴェンツェルさんやマルクスさんはなんと?」
「リク様がよろしければ、ツヴァイの時のように取り調べに参加してもらうように、との事です」
ふむ……魔法を使っていた方の男は、兵士さんの中に紛れ込んでいたわけではないので、大した事は聞けそうにない。
なので、昨日の食後に起きたと報告を受けたけど、そちらの取り調べは任せていたんだけど……もう一人の男の方はどうするかな? ヴェンツェルさん達は俺が取り調べに参加して欲しいと考えていそうだなぁ……よし。
「わかりました、その男の所へ案内して下さい。俺も取り調べに参加します。――あ、モニカさん。俺はちょっと取り調べに参加して来るので、こっちは任せるよ?」
「わかったわ。エルサちゃんの事は任せてー」
「了解しました。では、こちらです……」
取り調べに参加する事にして、兵士さんに案内をお願いするとともに、一緒にいたエルサを抱いているモニカさんに言って、その場を離れる。
今、モニカさん達はソフィーやフィリーナも含めて、なぜかフィネさんの斧を投げるためにはという講義を受けている最中だった。
自分が普段使っていない武器だから、興味があるんだろうけど……エルサを抱いていながら料理に使用している、包丁代わりの大型ナイフを持っているモニカさんが、ちょっとだけ怖い。
フィネさんから習って、そのナイフを投げるようになったりしなければいいなぁ……なんて考えながら、兵士さんに連れられて建物へ向かった。
ちなみにフィリーナは魔法だけでなく弓を使った事があるらしく、何かを飛ばすという事に慣れているのもあって興味があるようだ。
ソフィーの方は戦いの手段として、相手の意表を突くにはと考えているようだから、剣を使う以外にもナイフを投げたりなどの戦闘法の一つとして学んでいるみたいだね……相変わらず熱心だなぁ。
「ヴェンツェル様、リク様をお連れ致しました」
「おぉ、リク殿。来てくれたか」
「ヴェンツェルさん。今日はヴェンツェルさんが取り調べなんですね?」
「マルクスは兵士達に指示を出すので忙しいからな。それに、リク殿が捕まえたとはいえ、私も追いかけた身だ。部下に紛れ込んでいた、という者でもあるから話は聞いておかないとな」
建物の中、昨日ツヴァイを相手に話をした部屋の前で、ヴェンツェルさんが待っていた。
逃げた男の取り調べは、昨日と同じこの部屋でやるんだろう……ツヴァイは別の部屋に運ばれたか、厳重に見張りを付けて王都へ連行する準備中といったところかな。
取り調べとか不慣れな俺だから、マルクスさんがいない代わりにヴェンツェルさんがいてくれるなら、ありがたい。
マルクスさんと違って、拳を使って情報を聞き出そうとしそうな気もするけど……なんて考えていたら、ヴェンツェルさんが眉根を寄せて難しい顔、どうしたんだろう?
「……リク殿に来てもらったが、実際はそこまで注意して話を聞く程でもなさそうなのが、少々惜しいな。いざとなれば、私の拳を唸らせようとしていたのだが……」
あ、やっぱり拳を使って、とかは考えていたんですね。
握り締めたヴェンツェルさんの拳は、確かに人間の手なんだけど、金属の籠手を着けているのもあって、殴られたら痛いじゃ済まなさそうな気配を感じて、苦笑い。
俺の身長程はある大剣を振り回していたからなぁ……そんな力で殴られたら、籠手なんてなくても骨が折れるくらいはしそう……実際に突入した時に武装した人間を殴り飛ばして鈍い音とかしてたから。
「まぁ、使わないに越したことはありませんよね。という事は?」
「昨日、リク殿にやられたのが堪えたのか、それとも観念しただけなのか……とにかく知っている事は話す、という構えのようだな」
それはまた……ワイバーンの鎧を着て勝ち誇っていた昨日とは、随分な変わりようだね。
まぁ、鎧は俺とモニカさんで脱がしたし、頼る物がないので抵抗しても無駄だとかんがえたのかもしれない。
「あ、そういえば……口の中に毒を仕込まれていたりは?」
「ツヴァイと同じだな。意識を失っている間に調べたが、同じように仕込まれていた。もちろん、既に取り除いてある」
「それなら、話している途中で……なんて事にもならないので安心ですね」
取り除く方法は、聞かない。
だって、奥歯を噛みしめたら毒が滲み出るなんて、歯そのものに仕込まれているだろうし、それを大した器具もないここで取り除くなんて……考えられる方法は多くないから。
……あまり考えたくないね。
「とにかく、ツヴァイからは得られなかった情報を持っているかもしれないからな」
「そうですね。とりあえず話を聞いてみましょう」
ヴェンツェルさんと頷き合って、部屋の中に入る。
昨日のツヴァイがそうだったように、顔には複数の魔法具が着けられていて魔法を使う事はできず、声を出せなくなっている。
さらに、椅子に座らされて縛られて、逃げないように重い物に繋がれたうえで兵士さんに見張られている……ツヴァイとほぼ変わらない状況だ。
違う事と言えば、上半身が裸になっているくらいだ……って、なんで裸なんだろう? 男だから、視線に困るとかそういう事はないけど。
「服の中に、武器を仕込んでいる可能性もあるからな。念のために調べた。ツヴァイの方は調べて服を着せたが、今回は服を着せる前にリクが来たからな」
「あー、そういう……」
部屋の中で拘束されている男を見た俺の表情から、何を考えたのか察したヴェンツェルさんが説明してくれた。
まぁ、服の中に武器を仕込んだりっていう、暗器っていうだっけ? そういった物を仕込んでいる可能性を考慮して、脱がして調べるくらいはしてもおかしくないか。
これが女性相手だったら、色々と危険な方向に話が転びそうだったけど、相手が男だから問題は……多分ない。
うん、ないって事にしておこう……なんて、兵士さん達が喋る事ができるように、魔法具を外しているのを見ながら思考の彼方へ放り出す。
「お、お前は……! ひっ! こっちに近付くな化け物!」
「化け物とはひどいなぁ……」
「リク殿、話しは聞いたが……何をしたんだ?」
「昨日話した通り、みぞおちを殴ったくらいですけど。あ、剣に剣をぶつけて折りましたね」
「……通常、武器破壊は重量の違う武器で狙うか、盾を使ってやるものだが……リク殿の剣なら可能か。しかしまぁ、一番の理由は殴った事だろうな。ワイバーンの鎧相手に、素手で殴って拳が無事なんて、私でも不可能だ」
「えぇ……そういうものですか……?」
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