第741話 食事は皆で平等に



「いや、ふと思いついただけなのだから、間違っていると思うんだが……」

「結構、正しいんじゃないかと思えるよ?」

「周囲に魔法を扱える者が多く、基本となる部分を忘れがちになっていたのかもしれません。ソフィー殿の言っている可能性は考慮するべきでしょう」


 魔法が使えないからこそ、意識する部分だったのかもしれないから、俺やマルクスさんでは思い当たらなかったのかもしれない。

 魔法が使える事が当たり前と感じると、使えない人がいる事や、使える条件なんて改めて考えたりしないからね……。

 特に俺は通常とは違う魔法みたいだから、基本以前に人間が使う魔法の事をほとんど学ぶ機会がなかったわけだし。


「だが、それなら魔法を使える者に魔力を与えて強化する、と考えないか? わざわざ魔法が使えない人間に魔力を与えるというのは……」

「それこそ、気まぐれかもしれないし、俺達にはどういう条件で魔力を与えているのかわからない。もしかしたら、研究のためだけに魔力を与えた可能性だってあるから、ないとは言えないよね?」

「ですな。まぁ、ツヴァイと同じなら、詳しく話を聞こうにもここでは聞き出せない可能性は高いですが、できるだけの情報を引き出しておきます。もちろん、魔法が使えるかどうかもです」

「お願いします。フィリーナにも後で見てもらって確認して欲しいんですけど、俺が探知魔法を使った感じでは、オーガと魔力の質は似ていましたし、地下に充満していた魔力と同じだと思います」

「畏まりました。今は……お忙しそうなので、後にしましょう。念のためツヴァイと同等の処置をしておきます」

「そうですね。男の方もまだ意識が戻っていないようですし……」


 フィリーナの目で見てもらったら、俺が確認しただけでなくちゃんとした確証が持てるからね。

 感覚的な部分で、説明が難しいし証明できるわけでもないから、一人がそうだと言うより、二人が確信を持っている方が信頼度は上がるはず。

 俺の言葉に頷いて、すぐに確認してもらおうと思ったのだろう、マルクスさんが目を向けた方では、モニカさんが合流してフィネさんも一緒に夕食の準備が始まっていた……大量の食事を用意しないといけないから、邪魔をしちゃいけないと考えて、後にする事となった。

 ツヴァイと同じ処置というのは、念のため魔法が使えないように声が出せない状態にするという、魔法具を多めに着けるという事だろうけど、ヴェンツェルさんが高価だと言っていたわりには、多くを持って来ているみたいだね。


 まぁ、あの時はヴェンツェルさんが追いかけるのに持って来ていないというだけだったし、魔力を使った研究という事もあって、備えていたのかもしれない。

 奇襲するように突入したから、慌てている人が多かったけど、当初はもっと向こう側から魔法が使われるのも一応予想していたからね。

 実際には、研究者は戦闘員ですらなく、慌てて逃げ惑うくらいだったからオーガが少し厄介だったくらいだけども。



「研究者達……罪人にも食事を与えるのですか?」

「罪人とは言っても、話を聞く限りじゃ騙されていただけみたいだしね。それに、私がいる以上誰かを飢えさせるなんて事はできないわ!」


 マルクスさんと話した後、俺も料理ができないながらも物を運んだりと料理の手伝いをして、夕食の時間。

 ここで野営をするようになって、いつものメンバーとなったヴェンツェルさんやマルクスさんも加えて、焚き火を囲みながらの食事中、ふとフィネさんが遠くで兵士さんに見張られながら食事をしている、研究者さん達を見ながら呟いた。


 まぁ、騙されていたから許されるというわけじゃないけど、話を聞かなきゃいけないし、王都にも連れて行かなきゃいけない。

 ここで何も食べさせずに飢えさせるのは人道的とは言えないだろうし、モニカさんは獅子亭で生まれ育ったというのもあって、誰かが飢えるなんて事にはさせたくないんだろう。

 ちなみに、食材に関しては俺達が食べる分も兵士さん達が食べる分も、全て同じになっており、今はそれなりに料理されているので、始めの頃のように兵士さん達から不満は出ていない。


「それは確かにそうですが……罪人に与えるにはいささか上等かな、と思ったのです。モニカさんが主導して作った料理ですし、不満があるわけではありませんので……」

「えぇ、わかっているわ。まぁ、フィネさんが少し厳しいかなと思わなくもないけど、ここじゃ食材や設備が限られているし、差を付けるのも面倒だから」

「まぁ、だろうな。捕縛したとはいえ、調べもせずにただ飢えさえるなどという行為は、我が軍では行っていない。最終的に処罰をする者であっても、一人の人間として扱うようにしている。モニカ殿、感謝する」

「いえいえ、私は皆が美味しく食べてくれたらそれで満足です」

「ほんと、モニカさんの料理は美味しいよね。毎日食べても飽きないからすごいよ」

「え……毎日……」

「はぁ……」

「リクって、時折クリティカルを出すわよね、無意識に……」

「ん? 皆どうしたの?」


 厳しい事を考えるフィネさんは、不満があるわけではなく、ふとした疑問だったんだろう。

 モニカさんの言うようにちゃんとした設備がある場所じゃなく、焚き火を使っての料理なんだから、差を付けるのも面倒というか、難しいんだろうね。

 ヴェンツェルさんが言う軍の規律のようなものは、姉さんらしいなと思う……まぁ、姉さんが決めた規律じゃないのかもしれないけど。

 感謝されて少し恥ずかしそうにしているモニカさんは、マックスさんと似ていて、美味しそうに食べる皆の姿が見たい……と考えているようだ。


 さすがモニカさんだ……なんて感心しつつ、野営中でも美味しく飽きない料理を作ってくれる事に感謝しながら話すと、なぜか周囲の皆が溜め息を吐いたり呆れた顔をしていた。

 ヴェンツェルさんとマルクスさんでさえも、首を振ってやれやれといった雰囲気だし……フィネさんも同様。

 フィリーナは呆れて何やらクリティカルがどうのとか……エルサも声は出さなかったが、キューを食べつつも首を振っていた。

 どうしてこんな雰囲気になっているんだろうか?


「ま、まぁ……リクさんも皆も美味しく食べてくれるのなら嬉しいわ! えぇ、そうよ……特に他意はないのよね……はぁ……」

「そ、そうだな……」

「ん~?」


 微妙な雰囲気を払うように、ほんのり頬を赤くしたモニカさんが皆に大きな声で話し、途中でトーンダウンして最後には溜め息を吐いていた。

 俺以外の皆はそれに同意するようにコクコク頷き、なぜかモニカさんを労わるような雰囲気で次々と、美味しいとか、ありがとう、などの感謝を伝えていた……さらに近くにいた兵士さんまでも……。

 俺だけよくわからない雰囲気に、微妙に納得がいかずに首を傾げるだけで誰も教えてくれなかった。



 モニカさん達が作ってくれた料理をありがたく食べた後は、エアラハールさんの訓練を思い出しながら、ソフィーやモニカさんと一緒に剣の訓練。

 さすがに時間が遅いので本格的にではなく軽くだけど、何もやらないで寝るよりもいいだろう。

 その訓練にフィネさんも参加していたんだけど、小さめの斧とはいえ、女性が両手にそれぞれ一つずつ持って素振りをしたりしている姿は、なんとなくシュールだった。

 ……いや、武器は自分に合う物や使いやすい物を使うべきだから、フィネさんが満足しているならそれでいいんだけどね――。

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