第743話 紛れ込んだ方法



 魔法具が全て取り外され、声が出るようになって開口一番、俺を見て怯える上半身裸の男。

 うーん……まぁ、グリーンタートルの甲羅を破壊できるくらいだから、大丈夫と思ってやっただけなんだけど……。

 魔力が多過ぎて、意識が変わるとそのおかげで俺の体そのものが硬くなるとかなんとか……だっけ? おかげでできた事っていうのは理解できるけどなぁ。

 いや、確かにモニカさんの槍で一切傷が付かない鎧を、素手でへこませると考えたら、以上とも言えるか……うん、あまり考えないようにしておこう。


「まぁ、そう怯えないでください。変な事をしなければ、何もしませんよ?」

「ひっ!」

「駄目そうだな。よほど、昨日のリク殿に恐怖を植え付けられたらしい。仕方ない、ここは俺が代わりに話を聞くとするか。リク殿は、少し離れた場所で聞いていてくれ」

「わかりました……」


 手を上げて、何もしない事をアピールしたのに、男にはさらに怯えられてしまった。

 仕方ないので、ヴェンツェルさんの言う通り少し離れて部屋の隅で話を聞く事にする。

 昨日、ツヴァイを脅すために使ったフレイちゃんの気持ちが少しわかったかもしれない……怯えられるって、ちょっと切ないかもなぁ……。

 フレイちゃんは、むしろ喜々として脅していたような気がしなくもないけど。


「ではまず……お前は、どうやって我が隊の中に紛れ込んでいたのだ? そして、紛れ込んでいた際には来ていなかった、ワイバーンの鎧を着ていたのかもだ。もし隠すようなら……」

「ん?」

「ひぃっ! 話す、話すから!……元々、こうして捕まった以上、隠し事はできないくらいはわかっているつもりだ。ツヴァイのように、焼き殺されてはたまらんからな……」


 ヴェンツェルさんが、男は語り掛けながら俺へ視線を向けたので首を傾げると、男が再び怯える。

 ……俺、男への脅しに使われているのか……まぁ、話が聞けるならそれでもいいか。

 というかこの男、まだツヴァイが焼き殺されたと思っているのか……本当は生きているんだけど、意識を取り戻したばかりなので、教える暇はなかったんだろう。

 ツヴァイのように、という理由で取り調べがスムーズになるなら、今はまだ教えなくていいか。


「ではまず初めに、先程問いに答えてもらおうか……?」

「あ、あぁ……この建物の地下には、外へ続く道が複数ある。道自体は一本道だが、雑な工程で掘ったために横道とまではならないが、身を隠すくらいには使える程度の隙間があるんだ……」


 最近鉱山を見てきたばかりだからよくわかるけど、整備していない道だと、岩肌がせり出していた李もしていたから、そこに身を潜めて隠れるくらいはできる、という事だろう。

 俺はここの地下から外への逃げ道に行った事はないけど、整備されていないのなら、照明が不十分で薄暗いどころか、真っ暗なところもあるんじゃないかと想像できる。

 そんな場所だからこそ、注意深く見ていても見逃してしまう事だってあるだろうね。


「お前達が突入して来た時、俺はあの地下にいたんだ。そして、すぐに近くにあった道から外に逃げようと駆け込んだ。しかし、もしかしたら外でも待ち構えられているのかもと考えて、一旦身を潜める事にしたんだ」

「追っ手がかかるとは考えなかったのか?」

「それも考えたが……もしかしたらやり過ごせるかも、とも考えた。明るい外で身を晒すよりも、一旦やり過ごして様子を見た後、逃げる方が確実だろうと考えたんだ。俺の予想は当たっていたようで、外から複数の人間が道に入ってきた」


 突入後、地下の部屋に入ってきた抜け道を調べていた小隊の事だね。


「そいつらは俺に気付かず通り過ぎようとしていたので、一番後ろの兵士を捕まえ、眠らせて身ぐるみをはいだのだ。幸いなのか、ツヴァイからそういった薬品は受け取っていたからな……オーガが暴れた時や、裏切り者が出た時のための物だが……」

「そして、兵士に成りすまして紛れ込んだという事か?」

「あぁ。幸い、外と通じている道が暗いためか、入って来た人間達の進みは遅かったからな。……音を立てないようにするのが苦労したが……鎧を着てしまえば追いつくのは簡単だった」

「そして、地下施設に戻って俺達と会って、合流したフリをして逃げる機会を窺っていた……と」

「そ、そうだ。紛れてもどった地下は完全に制圧されていたからな……バレずに過ごせば逃げる機会ができると考えていた……」


 見つからないよう身を潜めて、兵士さん達が通り過ぎようとした時、最後尾の一人を捕まえて眠らせて……か。

 これが全身鎧とかを着ていたら、難しかったんだけど……一部の兵士さんは金属鎧はあっても、部分鎧しか着ていないため、丁度良かったんだろう。

 新人さんはワイバーン素材の全身鎧を着ているけど、それ以外の兵士さん、特に周辺を捜索する兵士さんは部分鎧を着ていたから……木々が生い茂っている場所もあるから、全身鎧だと動きにくいからね。

 しかも、兜はしっかり被っているから、見慣れない顔でもバレる心配は少なかったという事か。

 その後もバレないように過ごせていたのは、上手くやったもんだと思うけど……兜をできるだけ外さないようにしていたんだろうね。


「……という事は、最初から紛れ込んでいたというわけではないんだな?」

「そうだ。何度も言うが、お前達が突然押し入ってきた時まで、俺はここの地下にいたんだ。地下がどうやって制圧されたかなどは、拘束されている研究者から聞き出した。見張るフリをしてな」

「成る程な……慎重に調べていたのが、裏目に出たか……」


 やっぱり研究者から聞いたから、ツヴァイが焼かれた……なんて教えられたんだろう。

 多分、俺とヴェンツェルさんが突入した部屋にいた研究者の一人なんだろうけど、あの様子を見ていたら、ツヴァイが全身を炎に包まれて倒れたのは確かなので、焼かれて死んだと思ってもおかしくはない。

 ヴェンツェルさんと話していたけど、研究者たちから見たら死んだようにも見えただろうからね 


 それにしても、慎重に調べずに疑いを持った時点でしっかり調べていれば、逃げられずに捕まえられたのかもしれないな……と、ヴェンツェルさんも考えているだろう事を、俺も考える。

 とは言っても、誰がどうやって紛れ込んだかもわからない状況だったから、慎重にならざるを得なかったし、こうして捕まえられたんだから良しとしておいた方がいいだろうね。


「……ヴェンツェルさん、その眠らされた兵士さんがどうなっているのかが気になります」

「ん、おぉ、そうだな。迂闊にも眠らされた兵士か。帰ったらみっちり鍛えてやらないといけないが、今は無事を確かめるのが先か。――おい、地下から外への道を全てくまなく調べるよう伝達しろ。他にも同様な者がいないとも限らんしな。必ず、一度だけでなく複数回、複数人でお互いを確かめながら確認するよう、厳命しろ!」

「はっ! 直ちに伝達して参ります!」


 眠らせた薬というのは、オーガ用と言っていたから、人間相手には強力過ぎる可能性だってあるため、ヴェンツェルさんに言って、捜索してもらうよう促した――。


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