第712話 良い子は褒めてあげましょう
「……おっと、一応念のために……結界っと。熱いからねー」
フレイちゃんが炎で包み込んだツヴァイと一緒に、少し空間に余裕を持たせて結界で研究者達に熱が及ばないように、結界で壁を作っておく。
完全に覆ってしまわないのは、なんとなく酸素がなくなるとツヴァイはともかくフレイちゃんが嫌がるというか……火が燃える事ができなくなるんじゃないかと考えてだ。
まぁ、火の精霊だから、そんな事関係ないのかもしれないけど……魔法とか、日本で学んだ物理現象じゃ説明できないし……炎に包まれているツヴァイは、少なくとも呼吸は難しそうだけどね。
「リ、リク殿……? まぁ、あれだけの魔法を使う者だったのだから、殺してしまうのもやむなしだが……やり過ぎではないのか?」
「ん? あぁ、大丈夫ですよ。フレイちゃん……えっと、火の精霊なのでやりすぎてしまう事はないと思います。……見た目は確かに燃やし尽くす勢いなので、心配もわかるんですけどね」
「そ、そうなのか……?」
凄惨な光景からか、離れていたヴェンツェルさんがこちらへ来て、冷や汗を流しているような、少し引いているような表情で尋ねられた。
見れば、いつの間にか半分くらいの研究者が、各々の白衣やら何やらで縛られて動けなくなっているので、戦っている間に逃げないようにしてくれていたらしい……結界を使っていたから、最初のアイシクルエクスプロージョン以来、周囲に大きな被害は出ないだろうと判断してくれていたんだろうね。
研究者達の方は、縛られなくとも逃げる気力すらなさそうだけど、それはともかく。
フレイちゃんに任せておけば、見た目はともかく本当にやり過ぎないだろうと、ヴェンツェルさんに安心するよう言う。
俺が魔力の調節に失敗して、強力過ぎる魔法を使ってしまう可能性を考えたら、よっぽど信頼できる。
……アメリさんを助ける時に、オーガだけでなく広範囲を凍らせたり、エルサから文句を言われたので、さすがに自分の魔力調節に関しては過剰な自信を持たないようにしているからね。
まぁ、これまでにも失敗して思ったよりも威力が高い事が多々あったし、それで自信を持つのは無理な話か。
「だが……最初は暴れていたようだが、もう今は動きが見られない。死んでいるのではないか?」
「多分、酸素がなくなって動けない……もしくは失神しているだけだと思います。まぁ、そろそろ良さそうですかね?」
最初、フレイちゃんが包み込んだツヴァイは、炎から逃れようと暴れていたようだけど、動いてもすぐにまた包み込まれて……という風に完全に飲み込まれた。
ヴェンツェルさんが俺に話し掛けてきたくらいになると、もうほとんど動いていなかったから、内部で酸素がなくなって息ができなくなったとか、動けなくなったとかそういう感じだろう。
死んでいないのは、なんとなくフレイちゃんの内部でツヴァイの魔力のようなものが感じられるから、確信している。
よくわからないけど、召喚した俺と召喚されたフレイちゃんは、魔力の繋がりがあってその辺りがなんとなーくだけどわかるようだ。
探知魔法と似たような感覚だから、フレイちゃんのいる場所だけわかる、局地的な探知魔法に近いのかもしれない。
「酸素? よくわからんが……リク殿がそう言うなら信じよう。私は、引き続き周囲の者達を拘束する事にする」
「はい、お願いします。――フレイちゃん、そろそろ大丈夫そうだから戻っておいでー」
「チチー!」
「……」
ヴェンツェルさんが、また研究者達を拘束するのに向かうのを見送り、フレイちゃんを呼び戻す。
フレイちゃんが離れたツヴァイは、今まで身をすっぽり包んでいたローブは灰すら残らず、内側に来ていたのであろう服は、半分程度が焼けてなくなり、露出した肌は所々火傷をしているように見えた。
ローブは異常な程高い熱量で溶かされたんだろうけど、内側はその程度で済んでいるのは、フレイちゃんの火力調節が見事だからだろう……俺だったら、体ごと焼いてしまいそうだ。
ようやく炎から逃れられたツヴァイは、やはり意識を失っているらしく、何言わず静かに地面へと倒れ込んだ。
俺に呼ばれたフレイちゃんは、ユノのような……いや、もっと無邪気な子供みたいで楽しそうな声を出して、炎を収めて俺の前に飛んで来るフレイちゃんは、見た目そのままの精神年齢と思った方が良さそうだ。
善悪の概念というか、単純に召喚された俺に従うのが嬉しくて、人を焼く事に対しては遊んでいる風にすら見える……一歩間違うと危険そうだから、指示の出し方は気を付けないとね。
「チチ、チチチ?」
「うんうん、ありがとう。えーと、大丈夫かな……うん、えらいえらい……?」
「チー!」
ツヴァイの様子を見ていた俺の視界を遮るように、顔の前に浮かんで首を傾げるフレイちゃん。
どう、頑張ったでしょ? と言っているようで、表情も褒めて欲しそうにしていた。
意思次第で焼く相手を決定するフレイちゃんだから、大丈夫だろうかなと思い、ゆっくり手を伸ばした俺に頭を差し出して燃え盛っている炎のような髪に触れさせるフレイちゃん。
うん、全く熱くないね……見た目は完全に、炎に手を突っ込んでいる状態なのに熱さは感じず、むしろふんわりとした柔らかい何かに包み込まれているような感覚だった。
不思議な感覚に包まれながら、フレイちゃんの頭と思われる部分を撫でると、嬉しそうな声を上げながら両手をバンザイさせて喜んでくれた。
ユノとはまた違った……なんだろう、親戚の子供に懐かれた気分? そんな子今までいなかったし、ツヴァイを簡単に焦げさせた物騒な子だけども。
「チチ、チチチーチチ!」
「あ、うん。わかった。またね」
「チー! チチチチ!」
「うんうん、必ずまた呼ぶから」
「チー!」
このままこうしていたいけど、そろそろ帰る……と頭を撫でられながら告げて来るフレイちゃん。
その表情は、もっと撫でて欲しいと言っているようなものだけど、まぁ、ずっと召喚しっぱなしっていうのもできないだろうから、仕方ないよね。
魔力を消費し続けるって事でもあるし、エルサ辺りに文句を言われそうだから。
また絶対召喚してね! と脳内に響くフレイちゃんの声に頷いて約束し、手をフリフリして満面の笑みで消えていくフレイちゃん。
うーん、ウィルオウィスプを召喚したつもりだったけど、まさかここまで意思がはっきりとした精霊……フレイムスピリットだったっけ……を召喚できるとは思わなかった。
もしかすると、これも俺の魔力量が増えた影響なんだろうか? 落ち着いたらエルサに聞いてみよう、知っているかわからないけど。
「さて、フレイちゃんはいいとして……ツヴァイだね。えっと……ん!?」
元いた場所……がどこかはわからないけど、帰って行ったフレイちゃんはともかくとして、意識を失っているツヴァイの事だ。
魔力も多く使っていたし、すぐには目を覚まさないだろうけど、とりあえず今のうちに拘束しておかないとね。
そう考え、残りの研究者さん達を拘束している最中のヴェンツェルさんを尻目に、床に倒れているツヴァイへと近付いて上から見下ろす……と、見慣れない……ある意味見慣れた部分に気付いた。
これって……。
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