第711話 ウィルオウィスプの進化?
使う魔法を決めて、集中してイメージを固める。
何度も使っているので慣れてはいるけど、こんな場面で失敗はできないから念入りにね。
「どうした……自分の魔力が少ないとわかって、怖気づいたか? だが、それももう遅い。今度はもう、よくわからない方法で受け止める事もできないだろう!……ぐ……くくっ……フレア……バーストォ!!」
俺が黙っていたら、何を勘違いしたのか調子に乗り始めるツヴァイ。
高笑いでもするのかと思う程、勝ち誇った声を放ち、先程までと同じように魔力を一つの場所へ集め始める。
無理矢理絞り出している可視化された魔力が、広げた腕に内側に集まり、周囲の魔力も含めて一つの魔法を使うための魔力へと固まって行く……。
さっきよりも時間がかかっていたり、絞り出しているためか苦しそうな表情だったりするから、多分今回が最後だろう。
「……よし、ウィルオウィスプ……!」
「何かをしようとしているようだが、無駄だぁ! 圧倒的な炎の力で焦がされるがいい!」
イメージから魔力を変換、魔法名を呟いてウィルオウィスプ召喚の魔法を発動。
その頃には、ツヴァイの方も魔法を発動し、俺へとかざした手から先程と同じように十本くらいの熱線が俺へと放たれる。
同じ威力でやろうとするから、過剰に魔力を消費するんだろうなぁ……イメージで魔法を使う俺とは違い、決まった効果を発動するだけの魔法は、魔力の調節というのはあまり考えられていないらしく、一定の魔力量を使う事でしか発動できないんだろう。
王城に帰ったら、一つの魔法に込める魔力量の調節に関して、アルネに研究してもらった方がいいかもね。
それはともかく、俺へと放たれた熱線だが、ウィルオウィスプを召喚するために壁としての結界発動は間に合いそうにない。
まぁ、直撃しても熱いのを我慢すれば、大きな怪我はなさそうではあるけど……とりあえず炸裂した火が周囲に飛び散らないよう、自分の周囲を覆う結界くらいはできそうかな?
なんて考えながら、ウィルオウィスプが現れるのをぼんやりと見つつ、自分へと近付いて来る熱線を視界の端で眺めていた……一応、並行して覆うための結界のイメージは初めてけど。
「はっはっは! 俺に逆らった事を後悔……ってなんだそれは!」
「チチ、チチチチ?」
「あれ?」
いつもより、ほんの少し召喚されるのが遅いような気が……? と思っていたら、俺の魔力を起点に目の前に現れた指の先程の炎。
それが突然大きくなり、ツヴァイの放った熱線を飲みこんで赤い人の形に収束していった。
その赤いものは、熱線などなかったかのように、こちらに叫ぶツヴァイを無視して俺へと振り返り、首を傾げさせた。
えーと……俺、また失敗しちゃったかな?
「チチー!」
「うん? あ、あぁ……こんにちは?」
首を傾げていた赤いものは、俺の顔を見るなり嬉しそうな表情になり、なぜか唐突に挨拶をされた。
思わず返してしまったけど……ウィルオウィスプってこんな感じだったっけ?
その赤い物は、人間の上半身の形をしており、当然顔もあるが、下半身はなく胴体から下は紐のように細くなっていって途切れているため、空中をフヨフヨと浮かんでいる。
なんというか、よくゲームや漫画で出て来るイフリートというのに近い感じなんだけど、一つ違うのが目の前のウィルオウィスプは子供と言える顔をしていて、男の子なのか女の子なのかもわからない中性的な見た目をしていた。
体自体もユノより小さいから、幼稚園くらいの子供と言えるだろうか?
ただ、下半身がない事を除いて人間とはっきり違うのは、全身が真っ赤で燃え盛っているようでもあり、さらに髪の毛が完全燃えている炎だって事だ。
うん、間違いなく火の精霊と言って過言じゃないだろう。
しかし……嬉しそうに挨拶してたけど、火の精霊ってそんなにフレンドリーなのかなぁ?
俺のイメージだと、もっと厳しそうで筋骨隆々……ヴェンツェルさんのようなオッサンのイメージだったんだけど……確かに、ルジナウムで召喚した時は、意思を感じさせるような動きや仕草もしていたように思うけど……どうして急にこんな形になったんだろう?
「えっと、ウィルオウィスプ……でいいんだよね?」
「チチ、チチチーチチチチッ!!」
え、違うの? 耳に聞こえる音は、チチチ……としか聞こえないのに、なぜか頭に入ると同時に喋っている意味がわかった。
これも俺が召喚をしたからとか、そういう理由なんだろうか?
ともかく、ウィルオウィスプは俺の問いに首を振り、否定して自分の正式名称? を告げてくれた。
「フレイムスピリット」というのが正しい名前らしい……まぁ、魔法名は俺が勝手につけただけだし、イメージの方が大事らしいから実際には違ってもおかしくないか。
……フレイムは火という事なんだろうけど……スピリットか……この場合は精霊と考えたら、火の精霊って事でいいんだろう……そのまんまだった。
「き、き、貴様! それは、それは一体何なのだ!」
ウィルオウィスプ……じゃない、フレイムスピリットを見て考え込んでしまっていた俺は、ツヴァイの叫びで正気に戻る。
そうだ、今は考え込んでいる状況じゃなかったんだ……ヴェンツェルさんを含め、研究者の人達もツヴァイと同じ疑問を持っているのか、何が出てきたのかよくわかっていない表情をしていた。
召喚した俺だってよくわかっていないんだから、説明できないんだけど……まぁいいや。
わからない事は後で考えよう、とりあえず。
「えーと、名前というか、愛称でフレイちゃんとか呼んでも大丈夫かな?」
「キー! キキー!」
フレイムスピリットと呼ぶのは長いため、とりあえず短縮してフレイちゃんと呼んでみたけど、考えていたよりも喜んでくれたみたいで、炎の髪を燃え上がらせて両手を万歳、さらに手の平の上に炎の渦を作っていた。
うん、喜びの表現としては最上級なのかもしれないけど、火の精霊だけあって表現が少々過激だね。
「とりあえず、そうだね……フレイちゃん、あっちのローブを来ている男を、適当に燃やしちゃって。あ、生きたままで……というのはできるかな?」
「キキッ! キー!」
「な、なんだ……何を……ちか、近寄るな! フレイム! アイシクルランス! ぐ、ぐわぁああああああ!!」
最初は、ウィルオウィスプを呼び出して脅しになればと思ったけど、なんとなくそんな事はどうでもよくなったので、さっさと戦いを終わらせる事にする。
まだ今のような形じゃなかった時も、俺の要望を聞いて燃やす物を選別できたようだったから、もしかしてと聞いてみたら、フレイちゃんは自信満々に頷いて、ツヴァイへと飛んで行った。
向こうからしたら、得体のしれない何かが接近して来るよあって、焦って叫びながら咄嗟に使える魔法を連発していたけど、火の魔法はフライちゃんが吸収し、氷の魔法は当たる前に蒸発して効果がない。
為す術なく接近を許したツヴァイへと、フレイちゃんが手を広げて抱き着くようにしながら、全身から炎を噴き出しローブごとツヴァイを包み込んだ。
完全に炎の中に入ってしまっていて、さらに中からツヴァイの悲鳴が聞こえるから凄惨な光景に見えるけど、フレイちゃんに任せればやり過ぎてしまう事はないだろうと信頼している……形は違えど、ルジナウムで一緒に戦った仲だから――。
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