第710話 魔法の真似をするリク


「……アイシクルエクスプロージョンっと!」

「なっ……!!」


 さっき見た氷の槍のイメージを頭で浮かべ、より鋭利に、より槍に近い形を想像して魔法を発動する。

 槍に関しては、モニカさんが使っているのを見ていたから、突き刺すイメージがしやすかった、というのは余談かな。

 まったく同じなのも嫌だったので、少し魔法名を変えてよりイメージのしやすい名前にしてみた。

 右手をツヴァイにかざし、少しだけ魔力を集めて練って発動……変換される直前に集まった魔力は、ツヴァイのものよりも青く濃かったように思う。


「ちょ、リク殿!?」


 俺が放つ魔法を見てだろう、研究者達の近くに移動していたヴェンツェルさんが、焦った声で叫ぶが大丈夫、皆に被害が出ないようにちゃんと考えているからね。


「大丈夫ですよーっと……結界!」

「な……な……」


 ツヴァイの物を真似た形だけど、この魔法は鋭利な氷の槍で相手を貫き、さらに炸裂させる事で大きな怪我を負わせるのが目的の魔法だろう……オーガを爆発させる研究をさせていた人物には、相応しいのかもしれない。

 俺が出した氷の槍は、発動して射出する寸前に少し上へ向けてツヴァイの頭上に向かわせる……当たったら危険過ぎるからね。

 そのうえで、結界を発動させて壁にしてそこへと接触する瞬間に、またさら覆って小さな氷の刃が広がらないようにする。

 俺から射出された氷の槍に反応すらできず、頭上で起こった事を見て言葉を失っているツヴァイは、自慢の魔法を真似された事に驚いているのか、それとも俺が放った魔法がツヴァイのものよりも倍くらいの大きさがあったからなのか……。


 ……あんなに大きくするつもりはなかったんだけど、やっぱりもう少し魔力調整の練習はしておいた方がいいかもしれない。

 結界で覆ったから周囲に影響はないけど、内側から結界が破られそうな圧力を感じてしまった……自分で放った魔法に自分の結界が破られるなんて、恰好悪いどころじゃないからなぁ。


「き……貴様が何をどうしているのか、わからないのは悔しいが……下等な者とは違うようだな。そこは認めてやろう。だが、私を本気にさせた事を後悔させてやる!」

「わからないって、それでいいのかな?」


 戦闘において、魔法でも武器を使っていても、相手が何をしているのかわからないってのは、致命的なんじゃないかなって思うんだけど……。

 相手が何をしてもそれ以上で圧倒できるならまだしも、通常なら相手の行動を読んだりする事で、避けたり対処をして戦う事ができるような?

 まぁ、ツヴァイ自身が誰かに劣っているとか認めたくないようだし、プライドが高くて自分が圧倒的に上だと信じて疑っていないだけなんだろう。

 こういう手合いは、鼻っ柱をへし折るのが一番かもしれない……なんて考えつつ、自分はあぁならないよう気を付けようと心に決める。


「ぐ……く……フレアバースト!」

「結界……うぉっ! 熱っ! もう一個結界!」

「ばかなっ!」


 ツヴァイが集めた魔力は赤……その魔力が魔法へと変換されていき、こちらへ向けたツヴァイの手から、十程度の熱線が不規則な軌道で俺へと放たれる。

 先程の氷の槍と同じように結界で壁を作って防御し、着弾させる。

 予想はしていたが、これもまた着弾したら炸裂する魔法だったらしく、炎をまき散らしながら周囲へ広がって行った。

 火事になっちゃいけないし、一気に室温が上がってしまったのですぐもう一度結界を張って、他の何かに飛び散った火が触れる前に結界で受け止める。


 先程の氷の槍と違って、熱で相手を焦がしながらさらに炸裂させ、被害を増大させる……方法は似ているけど、複数の熱線が放たれる事から、氷の槍よりは無差別に相手に被害をもたらし、凶悪な魔法となっているんだろう。

 さっきよりも、結界にはほんの少し圧力を感じた。

 余程魔力を使うのか、結界で完全に防いで熱を感じなくなり涼しい顔の俺に驚愕しているツヴァイは、先程とは違い自分の魔力で体を薄く覆う事ができないようだ。

 まぁ、俺も滲み出た魔力をエルサが吸い取っているけど、あれって魔力量が多くても当然ながら無駄にしかならないから、ツヴァイに余裕がなくなっている証拠であり、魔力が減少している証拠でもあるね。


「さて、それじゃこっちも……えっと、ファイアバースト」

「こ、これもなのか!?」


 完全に魔法の効果がなくなった後、ツヴァイの魔法を真似し、同じように発動。

 火の魔法だから、氷より扱いを慎重にするため、使用魔力は最小にするよう心掛けて、右手の指を二本ツヴァイへと向けて発動させる。

 魔法の威力を抑えるため、魔法名もまた変えたけど、同じように熱線が出てくれた……今度はツヴァイの物よりも半分程度細い。

 直撃するとこれも危険なので、同じように結界に着弾させて炸裂を広げないようにしたけど、氷の槍より着弾した部分の結界に圧力を感じた。

 これは、小さくした分貫通力が増してしまったため……なのかも?


「うーん……まぁ、悪くはないかな」

「くっ……貴様、真似ばかりしおって!……だが、氷の時と違って、二度目は小さかった……ふ、ふはははは! 凡人ならその程度だろう、いかに真似が得意といえど、俺のような上等な者に近付こうとする事すら敵わないのだ!」

「えっと……何を言っているんだろう?」

「はっ! はっきり言わないとわからないようだな! 貴様は真似は得意でも、俺のような膨大な魔力は持ち合わせてはいない、と言っているのだ。所詮は凡人……それが限界だ!」


 うーん……さっき熱線魔法の威力を抑えた事で、俺の魔力が尽きかけているとでも勘違いしてしまったのか。

 あれ、ただ周囲へ影響を出さないように、威力を抑えただけなんだけどなぁ……全力だったら、多分この部屋どころじゃなく地下と地上の建物も含めて、全て燃やしてしまいそうだったし。

 ……エルサ含めて、色んな人達から加減しろとか、巻き込まないように言われているため、さすがにそんな事はしないけどね。


「お、俺はまだまだ魔力は余っているのだ! 先程の魔法もまだ使える! だが、貴様はもう使えまい! ほら、どうだ……これを見て恐れ戦くがいい!」


 勝ち誇った男は、高笑いでもしそうな雰囲気で再び体を薄く覆うように、可視化された魔力を滲みださせた。

 なんというか、こっちから見ていると虚勢を張っているというか、無理してるなぁ……という感想しか出て来ない。

 恐れ戦くなんて到底できないし、それ、魔力の無駄なんだけどなぁ。

 放っておいたら自滅しないかな? なんて考えも浮かぶけど、あまり長引かせるのもいけないかなと思い、さっさと決着をつける事に決めた。


 爆発系が得意みたいだし、氷よりは火の方が被害が大きくなる事が多いため、ツヴァイは好きそうだ……だったらそうだね、あいつには使えないだろう火の魔法を使って、圧倒して見せれば勝ち誇る事はなくなりそうだ。

 強力過ぎる火の魔法を使ったら、結界だけで俺以外を守る事はできないし、強力ではあってもある程度意思を持っていて、使い慣れた魔法が一番いいかな――。

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