第709話 ツヴァイとの魔法戦



「はっ、こんな役立たず、仲間なんて上等なものじゃない。ただの道具……捨て駒だからな。もう少しで研究も完成していたから、用済みで処分しようと考えていたくらいだ。まぁ、お前達と一緒に処分すれば、手っ取り早いか。……そういえば、外に放っていたオーガ達がいなくなったんだが、もしかしてお前達が何かやったのか? 一応、勝手に離れないようにはしていたはずなんだがな……? 少し前のオーガは勝手に走り出して行方が知れないが、まぁ二体程度どうでもいい事か。適当な人間を巻き込んで爆発でもしているんだろう」


 ツヴァイは、項垂れて話さなくなった研究者の男性の方へ体を向け、溜め息を吐くように呟いてから急に激昂したように叫んで、男性を蹴り飛ばした。

 いきなり味方のはずの研究者へ向かう暴挙に、驚きの声を発する俺とヴェンツェルさん。

 仲間と言ったヴェンツェルさんに対しては、ただの捨て駒だと吐き捨てた。


 さらに言葉を重ねるツヴァイが言うには、俺達が合流前に倒したオーガはこいつが外へ放ったらしい。

 あと、走り出して行方不明のオーガ二体というのは、もしかしなくてもアメリさんを追いかけていたオーガの事だろう。

 こいつ、研究者の男性を馬鹿にしていたけど、自分がやった事で俺達にこの施設を知られて、突入までされている事に気付いていないのか……うーん……。


「そのオーガなら、全部俺が倒したと思う」


 正確には、街道付近にいたオーガはソフィーやモニカさんも協力して倒したけどね。


「オーガを? お前が? ふむ……隣のゴツイ奴がもしやと思っていたが、お前の方だったのか。あまり強そうには見えなかったのでな、失礼した」


 うん、本当に失礼だけど、自分でもヴェンツェルさんのように強そうには見えないのは自覚している。

 筋骨隆々で大柄なヴェンツェルさんは見るからに強そうだから、ツヴァイがそう考えるのも当然と言えば当然かもしれない。


「つまり、お前がオーガの爆発を無効化した、という事だな。あの爆発を近くで受けて、今この場に来られているわけないだろうからな」

「まぁ、そういう事だね。無効化というの語弊があるけど、とにかく俺にオーガの爆発は効かないよ」

「ふぅん……? その方法を教えて欲しいんだが、まぁ、もう話すのも面倒になって来たから、力ずくで聞き出した方が早そうだ。俺の気配には気付いても、強さには気付かない愚か者みたいだし、楽なもんだ」

「……それは、試してみたらわかるんじゃない?」

「オーガを倒したから調子に乗っているのか? あの程度、俺も簡単に倒せるのだが……まぁいい、思い知らせてやろう……」


 一触即発の空気になり、ローブから手を出して手の平を内側に向けながら、構えるツヴァイ。

 俺の方も、何が来ても大丈夫なように剣を構えて、頭の中ではいつでも結界を発動できるようにしておく。


「……リク殿?」

「ヴェンツェルさん、ここは俺が。大丈夫です、多分どうとでもなると思いますから。それに、向こうは魔力を纏っているので、おそらく魔法を使います。周囲の人達が巻き込まれる可能性があるので、ヴェンツェルさんはそちらを。一応、結界はいつでも発動できるようにしておきます」

「やはりあれは魔力だったか……異様な気配なのはわかるが、可視化できるほどの魔力とはな。……わかった。正直、一足で近付くには距離があるから……あれ程の魔力がある者からの魔法を、先に発動されたら私には不利だろう。結界が使えるリク殿が行く方がいいか。他の者達は、気力もないのか動く気配はないが、調べる必要がある以上、ここで死なせるわけにもいかないな。了解した」

「……逃げる相談は終わったか?」

「お前相手に、逃げる必要もないから、そんな相談してないんだけどなぁ?」

「はっ、すぐに跪いて逃げる方法を考えていれば良かったと思うようになる! まぁ、それも今更遅いんだがな……!」


 小声でヴェンツェルさんが話しかけて来たので、魔法の相手をする以上、俺が戦った方がいいだろうと考え、答える。

 ツヴァイとの距離は大体四、五メートルくらい……ヴェンツェルさんならすぐに距離を詰める事はできるだろうけど、その前に魔法を使われたら危険だから、結界で確実に防御できる俺が戦った方がいい。

 それに、ヴェンツェルさんには騙されていた研究者を、確保していて欲しいからね。

 結界の準備はできているけど、何をして来るかわからないから、もしもの事がないように念のため……後で、研究の事も含めて色々話を聞かないといけないから。


 とにかく非戦闘員の皆さんはヴェンツェルさんに任せて、俺は今にも魔法を使おうと準備に入っているツヴァイの方へ集中だ。

 ツヴァイの体を覆っていた、薄いベールをさらに薄くしたような魔力が、広げた腕の内側へと集まっているのが見える。

 薄くとも可視化される程の魔力だし、一つの場所に集まるのはそれなりの魔力量になっているみたいだ。


「では、行くぞ! アイスエクスプロージョン!」


 律儀に開始の合図を叫ぶツヴァイが、魔力を集めるために内側へ向けていた両手を俺に向け、魔法を発動させる。

 青い色になる可視化された魔力が、ゆっくりと凶悪な威力を持つ現象へと変換されて行くのがわかる。


「アイス……氷かな。結界!」

「何!?」


 一つの巨大な氷の槍、人間よりも大きなサイズの槍が俺へと射出された瞬間、自分の前に結界で壁を作り受け止める。

 それと同時に、さらに結界を発動。

 壁にした結界に槍が接触する瞬間に、それを包み込むように別の結界で覆ってしまう。

 俺に当たったかに見えた氷の槍は、目論見通り結界で遮られ、さらに覆われた結界内で爆発四散、小さな氷の刃が結界に阻まれて消えて行った。


「貴様、何をした! 確かに私の魔法は当たったはずだ! なのに……なのに炸裂するはずの氷すら……いや、閉じ込めた……のか?」

「ふーん、一応これだけの魔法を使うだけあって、それなりにわかるんだね」


 結界の壁は俺の数センチ先だし、氷の槍を覆った結界も当然不可視の壁なので、ツヴァイからは俺に当たって弾けたように見えたはずだ。

 まぁ、着弾した後炸裂した細かい氷の刃が、広範囲に広がらなかった事から導き出したんだろうけど……さすがにそれなりな魔法を使うだけあって、分析するのは得意なようだ。

 ちなみに、結界で氷の槍を覆ったのは、魔法名にエクスプロージョンとあったからだ。

 エクスブロジオンオーガとの事から、確か炸裂とか爆発ってエクスプロ―ジオンとか言うんだったなぁ……なんて考えていた事もあり、氷だけでなくそれが爆発する物じゃないかとの想像だね。


「馬鹿にするな、下等な者の分際で!」

「下等って言われてもなぁ……そんな相手に自慢の魔法を簡単に防がれたんだから、もしかしてツヴァイさんも下等なのかな?」

「なんだとっ……貴様ぁっ!」


 相変わらず自分以外の人を見下している様子なので、逆に煽ってみた。

 言われっぱなしっていうのも、モヤモヤするからね。

 さて、激昂した様子のツヴァイはいいとして……えーと、さっきの氷はこんな感じだったかな――?


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