第671話 片付けは後々鉱夫さん達に
「とりあえず、後で何かあるのか聞いてみないとな。――あれ? なんでそっぽを向いているんですか?」
「いえ……最初はリク様すごい! と見させて頂いていたのですが……あまりこういう事に慣れていないので……」
「あぁ……まぁ、冒険者どころか、戦う事がないとそうなのかもしれませんねぇ」
息を吐き、もう一度動くエクスブロジオンオーガがもういない事を確認してから、剣をしまって振り向くと……あれ程俺が戦う場面を見ておくと言っていた女性が、体ごと横を向けて壁を見ていた。
どうしたのかなと思ったんだけど、確かに魔物と戦ったり見た経験とかがなければ、気分が悪くなっても仕方ないか。
爆発だけならまだしも、体が斬り裂かれたりしているからね……魔物とはいえ、慣れないと直視するのは厳しいかな。
俺は、もう慣れてしまったけど……人間が相手だったらと考えると、まだ躊躇するだろうし、一方的な戦闘は見たくないと思うだろうね。
あと、俺の場合は冒険者になる前からマックスさんに、魔物相手には躊躇したり油断せず、情けをかければこちらが危ない……なんて言われていたのもある。
それに、そういった事を考えられないような、大きな戦いを経験しているのもあって、強制的に慣れさせられた感じだ。
ルジナウムでもそうだし、王都やヘルサル、エルフの集落でも、ね。
「とにかく、ここのエクスブロジオンオーガは倒したので、他の場所へ行きましょう。……外へ向かいながら、確認しながらでいいですかね?」
「はい! そうですね……早くこの場を離れましょう! 片付けは、組合長を始めとした鉱夫達に任せておけばいいのですから!」
「……それはそれで仕事を増やしたみたいで、申し訳ないですけど」
「いえ、リク様は鉱夫達にはできない事をやって下さっています。これくらいは私達がやっておきますので……やるのは組合長たちですけど」
「あはは……」
このまま、明後日の方向を向いている女性と話しているのもどうかと思い、さっさとこの場を離れる事を提案。
女性はよっぽど見るのが嫌だったのか、すぐに食いついてきた……エクスブロジオンオーガの汗臭い臭いの他にも、血の臭いが混じって結構な異臭になっているから、それもあるんだろう。
行き止まりで空気が滞っている場所だから、臭いがその場に残って入れ替わらないため、ずっとここにいるのは俺もちょっと辛い……服に臭いが付いて、エルサに嫌な顔されそうだし。
片付けに関しては仕事を増やして申し訳ないけど、今は鉱山を広く見て回る事が俺の仕事だからね。
片付けを嫌がる女性はそもそも鉱山に入る仕事をしている人ではないし、今回たまたま俺の案内をするために来ただけで、本来は受付をしたりとかだから仕方ないか。
採掘以外で、フォルガットさん達の仕事が増えている事に、俺は苦笑をするだけだった……増やしたのは俺なんだけどね――。
「おう、リク。戻ったか」
「リク、お疲れ」
「ソフィー、フォルガットさんも、お疲れ様です」
帰り道、行きとは別の道を使ってエクスブロジオンオーガがいないかを確認しながら戻り、鉱夫組合に入ると、既にフォルガットさんとソフィーが座って待っていた。
ソフィーはともかく、フォルガットさんの方は大丈夫だろうか……? クォンツァイタの話し合いが続いたのか、目の下におっきな隈ができているけど……もしかして、寝ていないとか?
「あの……フォルガットさん。大丈夫ですか?」
「まぁ、なんとかな。昨日リクと話してから、一睡もしていないが……クォンツァイタの件があるからな。この街にとっても、鉱夫組合にとってもいい事ばかりで落ち着いて休んでいられねぇよ」
大きな隈があって、疲れているのは間違いないんだろうけど、クォンツァイタがもたらす利益とかで、興奮していて今はハイになっているという事だろうか。
嬉しい事とか興奮する事が続くと、眠気をあまり感じなくなったりするからね……結局後で疲れがドッと押し寄せて来るから、余計に休まないといけなくなるんだけど……。
「リクの方には、エクスブロジオンオーガがまだそれだけいたんだな」
「うん。一番奥がたまり場になっていたみたいで、結構な数がいたよ。さすがに、モリーツさんが研究していた場所ほどじゃないけどね。……詰まり過ぎていて、エクスブロジオンオーガ自体が絡まって、身動きが取れなくなっていたみたいだけど」
「それは……見たいような見たくないような……だな。まぁ、本能のみで動く魔物だからこそそんな事になったのだろうが……こちらは、緑のが一体だな。もう鉱山内のエクスブロジオンオーガは、ほとんどいなくなっているのではと、実感できるくらいにはなった」
フォルガットさんの体調を心配しつつも、ソフィーと鉱山の中での成果を話し合う。
椅子に座って話しているんだけど、モフモフ成分を補充するために、ソフィー頭にくっ付いていたエルサを膝に乗せて、撫でながらだけどね。
寂しそうな顔をしたソフィーには、また後で撫でさせるとして……やっぱりこの感触がないと、落ち着かないなぁ。
「あいつらは、しっかり案内できていたか?」
「はい、ちゃんと鉱山の中を案内してもらいましたよ」
「こちらも問題なく」
「そうか。実際に鉱山に入るのは少ないから、地図だけでどれだけ案内できるか少々不安だったが、大丈夫だったようだな」
「内部が入り組んでいるからこそ、地図をよく見て覚えていたおかげですかね」
フォルガットさんが言うのは、俺について来てくれていた受付の女性と、ソフィーの方にも同じようについて行ってくれていた案内役の女性が付いてくれていた。
鉱夫さん達は、クォンツァイタの話し合いや、再開された一部の採掘で忙しいからだったんだけど、地図に新しい部分を書き加えたり、全体をよく見ていたおかげで迷う事なく案内してくれていた。
片付けに関しては、俺から言う事じゃないだろうから黙っておこう……うん。
「まぁ、現場で働く鉱夫達は、自分の担当箇所には詳しいが全体はあまり見ていないからな。現場ではなく全体を見ている事が多いからだろう。今は、全体を見るどころではないようだが……はぁ……」
「あははは……まぁ、楽しそうならいいんじゃないですかね?」
鉱夫さんは採掘する箇所に詳しければいいけど、案内してくれた女性達は現場に出る事が少ない代わりに、鉱夫さん達や商人さん達などと話す事もあるため、地図をよく見ていたり全体を把握している方が仕事に役立つんだろう。
細かい別れ道や、地図に描かれていない場所に関しては、さすがに現場にいる鉱夫さん達の方がわかっているだろうけど。
フォルガットさんが、俺達がいる部屋の奥を見て溜め息を吐くのに、苦笑しておく。
俺の案内をしてくれた女性は、今奥の部屋で組合にいた人達を集めて、鉱山内での事を話しているらしい……集まったのはほとんどが、昨日俺の話を聞きたがった人達らしい。
……俺の話なんて、そんなに楽しいものなんだろうか? という疑問はあるけど、本人達が楽しそうならいいんだろうね――。
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