第670話 間抜けなエクスブロジオンオーガ
「体が詰まって、動けないのか……どうやったらこんな事になったんだろう?」
「GI! GI!」
「GIII!」
「GYUAAA!」
体が絡み、さらに持っている道具までがお互いを邪魔し合って、ほとんど身動きが取れない状況になっているみたいだ。
誰かがそうしたわけではなく、自然とそうなったみたいだけど……どうやればそうなるのか。
これが人間だったら、皆一度冷静になればゆっくりと絡み合った体を解いて、動けるようになるんだろうけど、そこは魔物でオーガ……それぞれが思うように体が動かない事で、さらに無理矢理体を動かそうとして、どんどん深みにはまって行っているようだった。
俺に対して敵意を向けているのも、さらに絡んでしまう要因になっているみたいだね。
「うーん、どうしたらいいのか……あ、そうだ」
「GIGI!」
「GI!GI!」
エクスブロジオンオーガの塊になっているから、どう対処しようかと悩む。
少し考えて、試すというかいい方法を思いついた。
こちらを向いて声を出し続けている、エクスブロジオンオーガにてくてくと近付き、おもむろに剣を振りあげた。
「せいっ……」
狙うは赤いエクスブロジオンオーガ。
多数が絡み合っている中で、見えているお腹に剣を突き込み、すぐに抜く。
するとその瞬間、剣を突かれたエクスブロジオンオーガが爆発した。
相変わらず爆発の威力自体は低いけど、その爆発を機にその衝撃を受けたエクスブロジオンオーガの、特に赤い肌の奴が次々と爆発して行く。
ようは、爆発をさせて誘爆を誘うと考えたんだけど、思った以上に上手くいったみたいだ。
「GIGI!」
「うぉ! っとぉ……衝撃で体が外れたから、自由に動き始めたね」
「GIIII!」
まだ全てがというわけじゃないけど、誘爆して半分以下になったおかげで、残ったエクスブロジオンオーガが自由に動き始めた。
爆発四散したおかげで、絡まっていた腕や足がなくなり、もしくは残っていても力が入っていないため、抜け出せるようになったみたいだ。
早速ばかりに、同族が爆発した事に構わず俺へと襲い掛かるエクスブロジオンオーガ。
後ろに軽く飛んで薙ぎ払われる木材を避けて、ちょっとだけ観察。
残ったエクスブロジオンオーガのほとんどが緑色で、赤いのはちらほらとしか残っていない……やっぱり、赤い方が爆発に対しての線引きが低いのか。
緑の方は意思のみで爆発だからか……赤いのはモリーツさんが仕込んだ、魔力と関係しての爆発があるから、そのせいだろう。
本当、厄介というか危険な研究をしたもんだ……と呆れる。
これがもし、大量に作りだされて人間相手にけしかけられたら、ちょっとした弾みで爆発し始めるし、威力を高めれば脅威になるのは間違いないからね。
「っと、今はそこを考えている場合じゃないか。まずはこいつらを……っと! はぁっ!」
「GYUA!」
考え込むのをやめ、振り下ろされたツルハシを避けざまに剣を横薙ぎにして、腕と胴体を真っ二つにする。
短い悲鳴のような声を上げて、分かたれた体のうち上半身を爆発させる、緑色のエクスブロジオンオーガ。
そうか、赤いのと違ってこっちは頭からの伝達が行われる部分だけの爆発だったね。
ツルハシを持っていた腕や、下半身はそのまま残っているから、やっぱり赤い奴と違うのを再認識。
まぁ、爆発自体は小さいものだから問題はないけど、一応できるだけ爆発させないように気を付けよう。
「GIGI!」
「おっと」
剣を構え、爆発をさせない……したとしても最小限で済ませるため、首を狙って剣を振るっていると、数が少なくなって隙間に余裕ができたせいで、自由になったエクスブロジオンオーガのうち、何体かが魔法を使う。
そういえば、緑色の奴は風の魔法を使うんだったね。
結界があるから、その外には魔法が届かないだろうけど、天井近くの真上に大きく飛んで避ける。
火とか氷ならまだしも、風は目視がほとんどできない魔法だから、避けるにも最小限の動きっていうのは難しいから。
当たっても怪我はしないけど、ルジナウムで新しい服を何着かもらったばかりだから、多少汚れるだけならまだしも、破れたり斬れたりさせたくない。
「よ……っと! せい!」
「GI!? GYU……」
天井に手を付き、自分の体を押して勢いをつけてエクスブロジオンオーガに飛び込む。
勢いと体重を乗せた蹴りを一体のエクスブロジオンオーガに入れ、地面に倒してその上に乗りながら、剣を振り下ろして別の奴の首を狩る。
足元にいた奴には、顔に剣を突き刺して爆発させないよう止めを刺しておいた。
威力が小さくても、乗っている状態で爆発されたら面倒だしね。
「GIII!」
「おっと、まだ赤いのもいたんだっけね……てい!」
突き刺した剣を引き抜いている間に、横から襲い掛かって来る赤いエクスブロジオンオーガ振り下ろす木材に対し、体を後ろに下げて残骸から降りながら避け、そのついでに剣を横一振りにして斬り裂く。
赤いエクスブロジオンオーガは、凍らせない限り爆発してしまうため、確実に倒す以外ではどこを狙っても一緒だ。
「やっぱり、剣がいいと楽だなぁ……」
爆発の余波を受けながら、スパスパと思った通りに斬れる剣に感心する。
ボロボロの件を使っていた時は、適当に剣を振っていたら折れてしまうため、剣筋を意識したり確実にダメージを与える事を考えて、ある程度慎重にならざるを得なかったけど……当然、今のように下がりながら適当に剣を振るなんてできなかったし、そうしていたら簡単に壊れていただろう、エクスブロジオンオーガを倒す事もできなかっただろうね。
改めて、武器の状態というのは大事なんだなぁ……と実感しながら、剣を振るって残っているエクスブロジオンオーガを倒し続ける。
とは言っても、雑に動いたりせず剣筋を意識するのを忘れないようにして、できるだけ訓練になるようにだ。
せっかくエアラハールさんが、俺のために考えてくれたのに、意味がなくなってしまったらいけないから。
それに、ルジナウムでの時のように、最善の一手を使えるようになりたいから……あの時以来、なんとなくだけど使える気がしないんだよね。
やっぱり極限状態に近くて、余計な事を考えずに無駄な力が抜けていたおかげなんだろうなぁ。
練習のつもりでエクスブロジオンオーガを相手に、集中して剣を振るっても特にいつもと変わらなかった。
ユノのように簡単に繰り出すとまではいかなくとも、いざという時には使えるようになっておきたいなぁ……。
「はぁ……やっぱり今は無理か。今度またエアラハールさんに教えてもらわないと……そのために、日々の訓練を欠かさないようにしないとね。っと、結界を解除しないといけなかった……」
少し後、結局最善の一手を一度も使う事ができずに、空いた時間でソフィーと一緒に素振りなどの訓練を、もう少し強化しようと考えながら、全て息絶えるか爆発して静かになった空間で、エクスブロジオンオーガだったものを見つつ、結界を解除する。
ひしめき合うくらいだったから、相当な数を倒したけど……モリーツさんの研究場からは離れているし、研究が行われなくなってから、こんなに一度に相手をする事はなかった。
新しく……というのは考えづらいから、何かこの場所を目標にして溜まっていたとかだろうか?
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