第668話 クォンツァイタの取引に向けて



「その程度でこれだけの取引がされる鉱石なんて、他にはない。しかもブハギムノングの鉱山は、採掘範囲が広い事もあって、クズ鉱石が出る量も多い。現状取引をしている鉱石よりも、多いくらいだ。……どうしたもんか……」


 手のひらサイズでそれだけの取引価格という事は、他の鉱石よりも多くなるクォンツァイタが売れれば、この街にも大きな余裕ができるのは簡単に想像できるね。

 姉さん、奮発したなぁ……それだけ、クォンツァイタを使っての農業改革を意気込んでいるという事か。

 まぁ、国の生産力が上がって国民の生活が豊かになれば、国力も上がるという好循環が生まれるかも? という程度には、俺にだってわかる事だから。


「組合長、受けるかどうかを悩んでいるんですか? これは、街のためにも受けるべきですよ!」

「いや、受ける受けないで悩んでいるわけではないんだがな……? 陛下からの国印入りの下知だ、断る事はできん。だが、鉱夫の割り振りや、組合としての作業が増えるだろう、その割りに悩んでいるだけだ」

「はっ! そうですね、どれだけ取引させるかも、採掘される量を見て決めなければいけません。……忙しくなりそうです」

「エクスブロジオンオーガの影響で、しばらく暇だったから皆十分に休めているだろう。死ぬ気で働くしかないな。これは、この街も存分に潤う事になるぞ!」

「はい!」


 フォルガットさんが悩んでいたのは、クォンツァイタを採掘したり、それを取り扱う人をどう割り振るかという事だったらしい。

 そりゃ、女王陛下から直接言われたようなものだから、断る事はできないか。

 エクスブロジオンオーガが少なくなって、そろそろ採掘が再開され始めている頃合いだし、他の採掘との兼ね合いもあるから、考える事は多いんだろう……クォンツァイタが高く取引されるからって、今までの物を採掘しないというのは違うからね。

 急にクォンツァイタしか掘り出さないとなったら、今まで取引していた人達からの不満や不信につながるだろうから、信用って大事だ。


「よし、早速組合の者達を集めてくれ! 今日は夜通し話し合うぞ!」

「はい、わかりました!」

「もう夜ですけど……大丈夫ですか?」

「農業の改革と書かれていたが、これはこの街にも改革となる話だからな。悠長に明日まで待って話し合いなんて、できるわけがない」

「ははは……そうですか……」


 これは、もしかしたら他の鉱夫さん達に悪い事をしてしまったかもしれないなぁ……一応、姉さんからは急いでと言われていたけど、明日の朝一番とかでも良かっただろうから。

 鉱夫組合に入った時は、まだ明るかったけど……フォルガットさんとソフィーを待っていたり、書簡を取り出して話してずいぶん経っている。

 そろそろ夕食の時間を過ぎる頃な気がして、エルサが騒ぎ出しそうなのがちょっと気になるけど……とにかく、もう夜と言って差し支えない頃合いだから、これから集まって話し合いとなると、鉱夫さん達も辛いかもしれない。

 フォルガットさんだけでなく、受付の女性が意気揚々と鉱夫さん達を呼びに行ったし……本当に大丈夫だろうか?

 体力が有り余っている人達が多そうだし、一日徹夜をしたくらいなら大丈夫そうか……あ、それと伝えておかないといけない事があったんだ。


「フォルガットさん、これからずっとというわけではないでしょうけど、とりあえずガッケルさんにも話してあるので、最初の運び出しは兵士さん達が担当してくれる事になっています」

「おぉ、それはありがたいな。商隊を呼んだり、護衛を付ける手間が省ける! 兵士なら確実に王都へ届けてくれるだろうからな」


 鉱夫さん達が直接王都へ運んだりはできないだろうから、ガッケルさんの申し出はありがたい。

 フォルガットさんも喜んでいるし、鉱夫さんの中から誰かが付いて行く事になったとしても、兵士さんなら頼りになるからね。

 護衛だと、冒険者になる事が多いと思うけど、この街は冒険者に不人気で常駐している人もほとんどいないし、余計な費用も掛かってしまうから。

 ずっと兵士さんが担当してくれるわけじゃないだろうけど、その辺りは王城で姉さんとかが考えてくれるだろう。


「あ、それと……少しでいいので、俺にも分けて欲しいんです。ちゃんとお金は払いますから」

「リクもか? ふむ、リクにならいくらでも……と言いたいところだが、書簡にできるだけ多くと書かれていたからな……以前までなら、それこそ全て持って行っても構わないと言っていたんだが、もちろん金もなしでな。どれくらいの量が必要だ?」

「いやいや、さすがに全部は持って行きませんよ。えーと……ニ、三個、大き目で混じり物のないクォンツァイタであれば問題ありません」

「それくらいなら、なんとかできるだろう。わかった、話し合が終わった後、リクに渡すクォンツァイタを選別させてもらう。捨てている物だが、新たに採掘しなくともクズ鉱石が積まれている場所にあるだろう。……クォンツァイタで小高い山ができそうになっているからな」

「わかりました、お願いします。えっと……お金は……」

「あぁ、それくらいは考えなくていい。リクは、鉱山の問題を解決してくれたからな。そして、さらに街が潤う話も持って来てくれた。数が多ければ多少はもらわないといけなくなりそうだったが、ニ、三個程度ならタダでいい。これからの取引を考えると、十個や二十個でも問題ないくらいだ」

「さすがにそこまでは……はぁ、わかりました。お言葉に甘えます」

「おぉ、そうしてくれ。鉱夫達は皆、リクやソフィーには感謝しているからな。誰も文句を言わないどころか、どうお礼をするか考えていたくらいだ」


 アルネにも頼まれたけど、研究のためにクォンツァイタを持って帰るよう、いくつか買えないかとフォルガットさんにお願い。

 姉さんからの取引があるから、あまり多くは持って帰れそうにないけど、とりあえずニ、三個あれば研究するのに十分だろうと思ったんだけど、それくらいならお金も払わなくていいらしい。

 ……まぁ、街の人達から感謝の証としてもらう、と考えておこう。

 それくらいなら取引する量に影響は出ないみたいだし、フォルガットさんの話を聞くに、多くのクォンツァイタが産出されるみたいだ。


 これでもし、結界の魔力を維持できる程蓄積できなかったら……と思って、姉さんが少し勇み足なんじゃないかな? という不安があったりもするけど、それはそれで、魔法具に転用する事も考えているらしい……王城を出発する朝にチラッとだけ聞いた。

 まぁ、少なくともアルネが調べた限りだと、魔力を蓄積させる事ができるのは間違いないみたいだし、結界の維持ができなくとも何かに使えるのなら、問題にはならなさそうだ。

 今までクズ鉱石と呼ばれて、邪魔物扱いで捨てられていた物に、何がしかの価値が付くんだから、いい事なんだろう……願わくば、フォルガットさん達の意気込みが空振りになったり、損をしたりしませんように……。


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