第668話 ソフィーとも情報共有



「凄い勢いだったな……私は、傍で話を聞いているだけだったが」

「そうだね……まぁ、今までクズ鉱石だった物に価値が付くんだから、皆喜んでいるんだと思うよ」


 鉱夫組合を出て、なんとかエルサが騒ぎだす前に酒場に入って、夕食を頂きながら組合を出る直前の事を思い出して、ソフィーと苦笑し合う。

 話を終えて外へ出ようと思ったら、鉱夫さん達を呼びに行った女性が戻って来て、数十人くらいが集まってきたからね……事務処理も必要とかで、俺が話をしていた事務方の女性達も集まって、鉱夫組合がいっぱいになるんじゃないか、というくらいだったなぁ。

 皆それぞれ、今回の話を断片的に聞いていて、すごい熱量だったので掴まって長い話になる前に、ソフィーを連れて逃げ出した。

 また俺のおかげだとか言われ始めたら、皆からの感謝やなんだと、夕食が遅くなっていただろうからね……その場合、エルサがお腹が減ったと騒ぎ出して、収拾がつかなくなりそうだったから……。


「モキュモキュ……やっぱりキューは美味しいのだわー……ん、リクどうしたのだわ? キューはやらないのだわ!」

「いや、なんでもないよ。キューを取るつもりもないから、ゆっくり食べればいいよ。……食べ過ぎには注意するんだぞ?」

「わかっているのだわー。けど、美味し過ぎてついつい食べ過ぎてしまうのだわー」


 幸せそうにキューを両手でそれぞれ持って、齧りつくエルサを見ながら、鉱夫組合を出る直前の事を考えていたら、俺の視線に気付いたエルサにキューを取ろうとしているんじゃないかと疑われた。

 ……キューは美味しくて好きだけど、エルサが食べている分を取ろうとまでは考えないから、欲しければ頼めばいいんだし……頼んだ先から、エルサが食べそうだけど。


「あぁそうだ。ソフィーにも話しておかなきゃいけないね」

「うん? どうしたんだ?」

「えぇと、実は昨日王都へ行く途中に……」


 そう言えばと思い出し、ソフィーにアメリさんを助けた時の事を伝える。

 ガッケルさんやフォルガットさんには話していなかったけど、ソフィーには言っておかないとね。

 ヴェンツェルさんが動く作戦に、俺は協力する事になっているし、ブハギムノングが落ち着いていたらソフィーも参加したがりそうだから。

 ちなみにフォルガットさん達に伝えなかったのは、軍のトップが動く関係上あまり多くの人に報せない方がいいと思ったからだ。


 フランクさんは貴族で、ルジナウムやブハギムノングの領主ではあるから、話しておいたけどね。

 爆発する魔物の研究という意味では、フォルガットさん達も関係してはいるけれど、街の事に集中して欲しいからね……必要なら、姉さんや王城の人達が報せるだろう。


「成る程な……だから戻って来るのが遅れたのか。リクの事だから、昨日のうちには戻って来ると思っていたが、そんな事情があったんだな」

「うん。まぁ、魔物に襲われている人を見たらね……」

「そうだな。しかし……やはりリクは、何かに巻き込まれる……いや、首を突っ込むんだなぁ。だが、助けた事を悪く言うつもりはない。冒険者として、人としてそれが正しいと私も思う」

「あはははは……何か探しているとか、そういうわけじゃないんだけどね……」


 話を聞き終わったソフィーは、苦笑しながら料理をつついている。

 アメリさんを助けられて良かったと思うけど、本当に偶然で狙ってやったわけじゃないし、そこから研究所らしき場所の事がわかるなんて、当然想像すらしていなかった。

 でも結局、アメリさんの情報をもとに重要な手掛かりを得られたし、ヴェンツェルさんが動いたり協力する事になったり……結果的には割と面倒になってしまっている。

 悪事を企んでいるような組織を潰すのは別にいいんだけど、またのんびりしようとしていた予定が伸びたなぁ……あ、モニカさんと会った時に、伝え忘れてた。

 まぁ、もう少し後でもいいか、どうせまだ先の事だしね。


 ソフィーの苦笑が呆れに代わらないうちに、夕食を終わらせて宿へ戻り、満腹状態のエルサをお風呂に入れ、頑張って空を飛んでくれたのを労うよう、丹念にモフモフを綺麗にしてあげた。

 いつもの日常になっている、ドライヤーもどきの魔法を使っている最中に、コテンと横に倒れるようにして寝たエルサをベッドへ運び、明日からまた鉱山の探索を頑張ろうと気合を入れ直して、俺も床に就いた――。



―――――――――――――――



「せやっ!」

「GI……!」


 朝起きて、ガッケルさんにクォンツァイタの事を伝えて、運び出す準備をお願いした後、ソフィーと共に鉱山へ。

 エクスブロジオンオーガ駆逐を早めるため、ソフィーと別れての探索だ。

 もちろん、もしもに備えて結界の使えるエルサはソフィーの方へ……モフモフが……はぁ……。


「エクスブロジオンオーガが、縦に真っ二つ……さすがリク様です!」

「まぁ、剣が凄いからですよ、ははは……」

「またまた謙遜をー」


 赤い肌のエクスブロジオンオーガを見つけたので、結界を張り、さっさと一刀両断にして爆発させ、剣を収めながら結界を解く。

 するとすぐに離れた場所に避難して、こちらを見ていた女性……鉱夫組合の受付をしてくれていた女性が、駆け寄りながら目を輝かせて称賛される。

 今回、鉱山内の案内役はフォルガットさんと、主要な鉱夫さん達がクォンツァイタの話し合いで動けないため、この女性が担当する事になった。

 普段鉱夫として鉱山に入っているわけでもないから、危険だろうと思ったんだけど、俺と一緒なら問題ないという判断だそうだ……まぁ、怪我をさせたりしないよう気を付けるけどさ。


 あと、さっさと一刀両断できたのは本当に剣のおかげであって、女性が言うように謙遜でもなんでもない。

 エアラハールさんから、訓練の一環として使うように言われていた剣は折れてしまったから、魔力を使う黒い剣……俺以外の人が持ったら、魔力を使い過ぎて倒れてしまうという、一部で呪いと言われ始めている剣を使っているのが大きい。

 ほんと、無茶な使い方をしても、折れないどころか刃こぼれもしないからね……軽く布で拭くだけで、魔物を斬ってもすぐ綺麗になるし。

 ルジナウムでの戦闘後、誰も持つ事ができないためと、魔物の血がべっとりついて汚れていたんだけど、俺が魔力を供給しながら拭いたら、黒く鈍い光をすぐに取り戻した。

 これを作った人は、本当にすごいと感心させられたっけ。


「えーと、それじゃ次はあちらでしたっけ?」

「はい! この先に行けば、この鉱山の一番奥になります。あとは、戻りながら別れ道の様子を見ればいいかと!」

「わかりました。それじゃ、いきましょう」

「了解です! ……リク様と二人っきりで鉱山なんて、ドキドキワクワクですねぇっ」


 小さくコッソリ呟いたみたいですけど、聞こえています……鉱山内は空気の流れが少なくて、小さな声でも響くからなぁ。

 とは言え、変に意識されても困る、というより俺が意識してしまうのもまずいので、聞かなかった事にして先の道を進んだ――。



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